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この人と語る21世紀のアグリビジネス

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金井健彦氏

先端農薬を創製し、農業再生に貢献したい
三井化学アグロ(株)代表取締役社長 金井健彦氏

 この4月1日に、三共アグロと三井化学の農薬化学品事業が統合され、三井化学アグロ(株)がスタートした。この統合の背景とこれから同社がすすむ方向などについて、新会社の金井健彦社長に聞いた。聞き手は坂田正通本紙論説委員。

◆川上から川下まで一体化し最大限の効果を

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かない・たけひこ
昭和27年東京都生まれ。昭和51年早稲田大学政経学部卒業、三井東圧化学(株)入社。同54年アルジェリア・スキクダプロジェクト(アドミ)。同57年三井化学化学品本部化学品輸出入部へ、以後、化学品関連部署を歴任。平成6年精密化学品事業部へ異動。同19年精密化学品事業部副事業部長、同20年農業化学品事業部長。同21年4月現職へ

 ――この4月1日に三井化学(株)の農業化学品事業と三共アグロ(株)が統合し、三井化学アグロ(株)が誕生しましたが、まずその理由をお話いただけますか。
  「2007年4月に第一三共(株)から三共アグロの株式譲渡を受け、同年10月に三共アグロと三井の販売会社であった三井化学クロップライフを統合し、新生・三共アグロが誕生しました。三共アグロが三井化学グループに加わって以来、2年が経過しましたが、両社のシナジー効果をさらに発揮させるために、新会社を設立しました」
 ――シナジーを発揮する両社の特徴はどういうところですか。
 「三井化学は原体創製力と生産技術力に強みがあり、三共アグロは製剤開発力と営業力に強みをもっていることです。この両社を一体化することで、川上から川下までの一気通貫の体制を敷き、もっともシナジーを発揮できる組織をつくることが、統合の最大の目的です」
 ――「三共」というブランドはなくなるわけですね。
 「そういうことになりましたが、三共アグロの先達たちが築いてきた歴史を閉ざすことなく、新会社でさらに価値を高めて行きたいと考えております」

◆三井化学グループ先端化学品のコア事業として

 ――営業戦略としてはどういうことを考えているのでしょうか。
 「07年に三井化学グループとして、2015年を目指した「グランドデザイン」を策定し、農業化学品事業として650億円の売上目標を設定しました。最重要市場である国内での事業拡大をさらに追求し、海外展開も加速します」 
 ――現在はどれくらいですか。
 「今年の連結ベースで500億円ぐらいの規模ですから、目標設定としては厳しいものがありますが、いろいろな知恵を絞って実現したいと考えています」
 ――三井化学における新会社の位置づけはどうなっているのでしょうか。
 「三井化学には先端化学品、機能材料、基礎化学品の3つの事業本部があり、私たちは先端化学品に所属し、コア事業のひとつに位置づけられています」

◆2つの原体、13の新剤の上市を予定

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 ――基本的な開発方針としてはどういうことを考えられているのでしょうか。
 「農業関連事業と生活環境事業を軸に、常に顧客視点にたち“より安全性の高い”“より性能の高い”“より環境負荷の少ない”グローバルな先端農薬・生活環境薬剤とサービスを提供していくことだと考えています」
 ――近々製品化される新原体はありますか。
 「09年は、原体名ペンチオピラド(商品名は野菜用がアフェット、芝用がガイア)という適用範囲の広い殺菌剤と、レピメクチン(商品名アニキ)という鱗翅目(りんしもく)害虫を即効的に防除する殺虫剤の2つの原体を上市します。これに続いて8化合物の開発研究を進めています」
 ――既存剤で力を入れていくのは何ですか。
 「安全性の高い剤として評価をいただいている殺虫剤のエトフェンプロックス(商品名トレボン)やジノテフラン(同スタークル/アルバリン)、ダニ剤のミルベメクチン(同コロマイト)、さらに苗立枯病防除用の殺菌剤ヒドロキシイソキサゾール(同タチガレン)、が既存主力4原体です。このほか水稲除草剤のピラゾレート(同サンバードなど)、土壌殺菌剤のクロルピクリン、根こぶ病の特効薬の殺菌剤フルスルファミド(同ネビジン)なども長年ご愛顧をいただいています」
 「そして新規製剤として、本年度は殺虫剤2剤、殺菌剤4剤、除草剤3剤、防蟻・防疫剤4剤の13剤の上市を予定しています」
 ――快適な生活環境をサポートする「アメニケア」事業も大きな柱になっていますね。
 「木造建築を白蟻から守るなど防蟻・防疫をする事業が主体です。原体としては大きな市場ではありませんが、防除サービスを含めてトータルソリューションサービスとして展開しています。三井化学グループの原体を応用した製剤開発を行っており、昨年もエトフェンプロックスを使用したシャットアウトSEという新剤を上市しました。今後も農薬の周辺事業として大事にし、力を入れていきます」

◆世界に誇れる日本の田園風景を残したい

 ――農業についてはどうお考えですか。
 「実は私は昨年まで精密化学品の仕事に携わっており、この分野はシロウト同然でした。農薬の仕事に携わるようになって一番感じたことは、全農幹部の方々や地方の卸会社の経営者の多くの方々が日本農業の現状を憂い、自分たちが日本農業を守っていかなければという真摯なお気持ちで現場に臨んでおられることです。これらの熱い思いに接して、非常に感銘を受けました」
 「当社としてもあらゆる努力を駆使して日本農業の再生のお役に立てる仕事をしていきたいと思っています。メーカーとしては、安全で効果が高く環境負荷が低く、使い勝手のよい剤を開発し普及していくことだと思っています」
 ――これからの御社のめざすものについてはどうお考えですか。
 「私たちは、農家の皆様に喜んでいただける、農家のためになる仕事を通じて存在感を示し、あの会社はよくやっているな、と客観的に評価されるような会社になりたいと思っています。そして私は美しい日本の里山や田園風景は世界に誇れるものだと思っていますので、それらを失わせることなく子どもたちに継承していきたいという考えで事業活動を行っていきたいと思います」
 ――今日はありがとうございました。

インタビューを終えて  
 金井社長は、農薬業界に来たのは昨年4月、農業化学品事業部長になってからという。1976年三井東圧化学(株)九州の大牟田工場の人事担当が仕事のスタートだった。労務管理を見込まれて、3年後アルジェリアの石油化学工場建設現場に派遣された。現地人との3年の交流でフランス語は並みの通訳程度にはなったとか。三井化学は農ビや肥料事業から撤退し、農薬だけになった。農家に喜んでもらえる良い剤を開発し、存在感を示したいという。仕事上やむをえずゴルフはするも30年間上達しないと苦笑。趣味は家族旅行と庭いじり、奥様は花壇の手入れ、金井さんは芝生ケア。息子さん2人、大学2年と高校2年生。
原体と製剤のシナジー効果を引き出す新しいリーダーとして期待されている。(坂田)
【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)

(2009.05.14)