シリーズ

美味しい農産物と土づくり――土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥

一覧に戻る

第3回 良食味米のための土づくり(前)

上位3葉が登熟に重要な役割を果たす
美味しい米づくり意識を薄める機器測定の食味値

 近年、気象変動が大きく、夏期の高温が乳白米など不完全米の発生を多くし問題になっている。登熟初期の高温障害といわれており、出穂期2〜3週間後の最高気温が31〜32℃、平均気温が27〜28℃、最低気温が23〜24℃以上のとき多発するといわれている。

上位3葉が登熟に重要な役割を果たす

 近年、気象変動が大きく、夏期の高温が乳白米など不完全米の発生を多くし問題になっている。登熟初期の高温障害といわれており、出穂期23週間後の最高気温が3132℃、平均気温が2728℃、最低気温が2324℃以上のとき多発するといわれている。
 対策として田植え時期の調整(遅植え)、水管理(水温低下)、作土を深くするなどが行われているが、施肥管理(植物栄養的)の面では、ケイ酸質肥料の施用量の低下(図1)と後期窒素の不足が影響していることが指摘されている。
 図2は筆者が良く使用する図であるが、稲の登熟期に止葉で同化した炭素(糖)は穂に70%転流することを示しており、止葉を含む上位3葉が澱粉の形成、登熟に重要な働きをしている。つまりこの時期に充分な栄養がないと米の充実度が増さないことになる。

tutizukuri.jpg

美味しい米づくり意識を薄める機器測定の食味値

 図3はあきたこまちの例であるが、穂揃期の上位3葉身窒素濃度と乳白粒の発生割合を示したものである。出穂後は上位3葉の窒素濃度は急激に低下するが、葉身の窒素濃度が低下すると穂への澱粉の転流が充分でないため乳白米の発生が高くなることを示している。
 成熟後期でも止葉に緑色が残っている稲体が良い姿といわれているのはそのためである。
 穂肥、実肥を施用すれば米の充実度が高まり収量が増加することはすでに分かっている。しかし、米の蛋白値を増加させ食味値が下がるため、近年、実肥はもちろん、穂肥でさえ出穂期に近くなるほど蛋白を高めることから、特に時期(出穂前710日)を逸すると控えることが多くなった。
tuti2.jpg これが後期窒素の不足による米の捻実・登熟の低下、乳白米の発生の一因と考えている。良質米の基準である機器で測定する食味値をクリアすることにこだわり、澱粉の詰まった登熟歩合の高い美味しい米づくりへの意識が薄れていることを感じさせられる。

現在の土づくりへの警鐘

 平成20年、盛岡市で土づくり肥料協議会東京支部主催の「土づくり研究会」が開催された。「今こそ問われる高品質・安定生産のための土づくり」がテーマであり、山形大学の藤井教授、秋田県立大学の金田教授から、水稲に対するケイ酸の役割について、良質米の安定多収生産の観点から講演があった。
 まさしく現在の米づくり、土づくりへの取り組みを警鐘したものであり、筆者は予てからこれらの成果を現場の技術として普及すべきとの考えを持っている。そのため、これらの資料を講演会や研究会等でできる限り紹介することにしているが、まだまだ現場には活かされていないと思っている。
 その具体的な内容は次回で述べる。

tuti3.jpg

 ※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。

【著者】吉田吉明
           コープケミカル(株)参与 技術士

(2009.06.04)