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放射性物質検査を考える

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【放射性物質検査を考える】第2回  「ゼロを目標に」は誤解を招かないか?

 4月1日から新基準値による食品中の放射性物質検査を自治体が実施している。4月16日現在、検査件数は6000件を超え、基準値を超えた食品は157件ある。このうち農産物は100件。最近の発表で増えているのが原木シイタケである。

◆きのこ原木にも新基準

 農林水産省はきのこ原木と菌床用培地についても新基準値に即して4月から改正した。昨年10月の設定値はいずれも1kgあたり150ベクレルとしたが、その後のサンプル調査でデータが得られたため放射性物質の移行係数を算出した。
 その結果、きのこ原木・ほだ木では移行係数を「2」とした。このため食品の新基準値を超えないシイタケ等が生産されないよう原木の基準値は1kgあたり50ベクレルとされた(新基準値100ベクレル÷移行係数2)。
 一方、菌床用培地からの移行係数は「0.5」と算出された。このため菌床用培地の新基準値は1kgあたり200ベクレルとされた。菌床用培地はオガ屑のほか、米ぬか、ふすまなどが原材料となっていることから原木にくらべて移行係数が低くなったという。
 きのこ原木には厳しい基準が適用されたが、林野庁は引き続き知見を収集し、夏をめどに再度基準値を見直すことにしている。
 きのこの総生産額は平成21年度で2200億円。木材生産額1860億円よりも多い。農水省はきのこ原木の洗浄機械の導入や放射性物質の汚染を低減させる栽培技術の普及、原木の購入支援などを24年度予算で措置している。


◆半減期12億年の物質も

 原木シイタケなど生産現場の不安は続くが、消費地では放射性物質に対する誤解を招く取り組みもある。
 大手量販店イオンは3月末、「4月1日以降も店頭での放射性物質『ゼロ』を目標に食品の自主検査と情報公開に取り組む」と発表した。
 流通業者による独自基準設定の件は別に考えるとして、問題だと思われるのは、「放射性物質ゼロ」目標である。
 前回、触れたように食品中にはカリウム40など天然の放射性物質が恒常的に存在する。そのほか宇宙や大地からの被ばくも含めて日本では年間平均1.5ミリシーベルトの自然放射線量を受けるとされ、このうち0.41ミリシーベルトが食品からだという。
 「ゼロ」を目標とする、とうたうことで放射性物質に対する正確な知識を伝える妨げにならないだろうか。
 放射性物質がどの程度なら健康に影響するかについては議論があるしても影響があることは確かだろう。
 しかし、放射性物質が持つ放射能の減り方を表す「半減期」は図で示したようになっている。
 放射性物質は放射線を出して別の物質に変化していくが、ある量の半分が変化するまでの期間が物理的半減期である。原発事故で大気中に放出されたヨウ素131の物理的半減期は8日、セシウム137は30年ということはよく知られるようになった。そして、食品にも恒常的に存在するカリウム40の物理的半減期は12億8000年だという。ゼロになるのはいつのことだろうか。
 一方、体内に取り込まれた放射性物質が代謝などで対外に排出されることで半分に減るまでの期間を「生物学的半減期」という。
 これは表に示したように年齢によって異なり、子どもは成人にくらべて半減期が短い。代謝が盛んな年齢では半減期が短くなる。

放射能の減り方


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