シリーズ

安全な食とは

一覧に戻る

第4回 強まる多国籍企業の種子支配

・京野菜の種子はニュージーランド産
・GM作物を支援するビル&メリンダ・ゲイツ財団

 最近は家庭菜園に取り組む人が増えたこともあり、スーパーやホームセンターなど多くの場所で野菜や穀物、花卉の種子が販売されている。ある農業県にあるホームセンターで販売されている種子の産地を調べた方がおられた。その方は、国産は何種類か、地元産はどのくらいか、子どもの夏休みの宿題を兼ねて調査したものだった。その結果は、びっくりするものだった。

◆京野菜の種子はニュージーランド産

 最近は家庭菜園に取り組む人が増えたこともあり、スーパーやホームセンターなど多くの場所で野菜や穀物、花卉の種子が販売されている。ある農業県にあるホームセンターで販売されている種子の産地を調べた方がおられた。その方は、国産は何種類か、地元産はどのくらいか、子どもの夏休みの宿題を兼ねて調査したものだった。その結果は、びっくりするものだった。販売されている種子は244種類だった。国産はクロマメ、カボチャ、エダマメの3種類、残りの241種類の種子はすべて外国産だった。
 私も近くにあるホームセンターで種子の原産地を調べてみた。国産を探すことは容易ではなかった。京野菜の種子はニュージーランド産だった。大根はほとんどが米国産だった。日本独自と思われている作物の品種の種子が、ことごとくイタリアやメキシコ、タイなどからきているのである。
 外国産が多い理由として、種子の企業生産が進んだことに加えて、企業の多国籍化が進んだことがあげられる。自家採種を行なう農家がほとんどいなくなった。もともと種子の生産は、品種の純粋さを保つために花粉が飛んでこないような場所で行なわれてきた。そのような場所は、国内に求めるよりも、外国に求めた方が容易であることから、外国産が増えたともいえる。しかし、なんといっても最大の理由は種子生産の企業化である。
 多国籍企業による種子支配は、第二次世界大戦時に始まった「緑の革命」を起点にしている。緑の革命とは、多収量品種の開発のことで、F1(雑種一代)品種が開発されていった。これが種子の企業化の出発点となった。F1品種とは、親の代を掛け合わせると両親の強い形質のみが現れるという「メンデルの優性の法則」を利用したもので、種子企業は優れた品種をもたらす両親をずっと継代培養しつづけ、毎年その親同士を掛け合わせることで、その優れた品種をもたらす種子を販売し続けることができる。その種子から作られる子同士を掛け合わせて作る孫の代になると、今度は「メンデルの分離の法則」が働き、形質がバラバラになって、優れた品種を作ることができない。そのため農家は、毎年、種子企業から種子を買うようになった。


◆GM作物を支援するビル&メリンダ・ゲイツ財団

 さらに、新品種を保護するために1961年にUPOV(植物の新品種保護のための国際条約)がつくられた。日本がUPOVに加盟したのは1982年のことだった。その直後に新たな事態がやってきた。「遺伝子革命」の始まりである。企業による種子支配の最も有力な武器は、F1品種から遺伝子組み換え(GM)作物になった。それを背景にUPOVが改正され、国内法である種苗法も改正され、新品種を開発した者の権利が強化され、種子も特許になることが可能になった。特許は、種子の独占を可能にした。
 遺伝子組み換え(GM)作物の作付けや流通を推進している国際組織、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が発表した、2011年におけるGM作物の実績は、栽培面積は1億6000万haになり、世界の農地の約10%強に達した。その大半がモンサント社の種子であり、多国籍企業の種子支配が強まっている状況が示された。
 現在、種子の寡占化が起きている。トップ企業の米国モンサント社が23%を占め、米国デュポン社(15%)、スイスのシンジェンタ社(9%)というGM種子開発企業がトップ3を占め、この3社で47%を占めている(2007年の調査)。種子はすでに多国籍企業による寡占の時代にある。
 中でもトップ企業のモンサント社は、世界で販売されている大豆の種子の70%を支配するまでになった。それを後押ししているのが、米国の食料戦略であり、その資金源となっているのがマイクロソフト社の巨額の儲けを基盤に作られたビル&メリンダ・ゲイツ財団である。同財団が2011年10月に新しい報告書を発表した。それによると、2005〜2011年にかけて拠出した助成金の40%以上がGM作物に割り当てられたことが示された。同財団はまた、2010年にはモンサント社の株を50万株購入しており、同社と一体で売り込みを進める態勢が強化された。幸い日本ではGM種子は販売されていない。

【著者】天笠啓祐
           市民バイオテクノロジー代表

(2012.08.06)