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私と農業

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......病原菌は、意外にも土壌中では増えない植物体内で増殖する......

その3

 前回、連作障害について「土を酷使しない」という農協の標語を紹介したが、「土壌が病んだ」と考えるのは正しくない。根こぶ病を例にとると、連作障害を引起す病原菌は、意外にも、土壌中では増えないのである。

 土壌は病原菌の活動を抑制する力がある。病原菌を、自然のままの土壌と、土着の微生物を殺菌した土壌の双方に接種すると、断然、殺菌土壌の方が発病し易い。ごくありふれた土着の微生物が生息する畑の土壌は、病原菌が増殖する環境としてはとても厳しいのである。
 それでは、病原菌は一体どこで増殖するか、それは罹病した植物体内である。そこは土壌と違って、他の微生物との競合のない、病原菌にとって別天地である。ハクサイ根こぶ病に罹病した根こぶ1gの中に、何と約5億個の新しい胞子が作られる。発病がひどい場合には、ハクサイ一株につき約1500億個という莫大な数になる。病原菌の増殖を招いているのは、土壌ではなく、好適な作物の連作そのものである。魚も無数に産卵するうち、生き残って親魚に生長するのは、その一部に過ぎない。これと同じように、植物体内で増殖した病原菌の胞子の大半は土壌中で死滅する。しかし、その一部は休眠体を形成し、再び同じ作物が作付けられ、感染の機会が訪れるまで、辛抱強く待機しているである。
 オオムギ縞萎縮病の罹病残渣をわざわざ畑に持ち込み、連作による発病の広がりを追った。始めの2年間はほとんど発病がみられず、3年目でも1%の発病に止まる。侵入初期は、病原菌もそう易々とは増殖し、畑に定着できない。ところが連作が重なる4年以降になると10%、5年目50%、7年目には100%と、まるでネズミ算のように増える。このようになった畑を、数年の輪作で元に戻すことなど到底できない。作付けをしながら、次の作物のための土づくりをすることが大事である。輪作は健康な土つくりに通じる。
 これまで携わってきた研究の一部紹介したが、研究生活を終え、今では当協会の会長を務める傍ら、新規就農に挑戦する若者を見守っている。次回はその話で締める。

その4に続く)

【著者】小川 奎
           財団法人 日本植物調節剤研究協会会長

(2009.05.14)