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私と農業

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ツタンカーメンのえんどう豆

その1

 中国24節気の1つに芒種(ぼうしゅ)がある。稲や麦など芒(のぎ)のある穀物の種を蒔く頃の節気で、今年は6月5日。田植えも終盤を迎え緑が一層深まり、その現象1つだけでも自然や農業の逞しさ、癒し、恵などを感じる。

 今日、世界的な不況から就職戦線は氷河期、4年ほど前は売り手市場。教訓から、日農内定者に対し植栽体験で農業の素晴らしさに関心をもって欲しいとの願いで1人15粒前後のツタンカーメンのえんどう豆を手渡した。秋、種を蒔き発芽させ冬越後の開花を待ち、最終的に紫色の大きなさやえんどう豆が実る夢。
 収穫までこぎ着けた人が半数、冬寒・水管理に失敗した人が半分だったが、植物のもつ生命力や作る喜びの体験を4月入社式で嬉しそうに報告してもらったのが心に残る。
 ツタンカーメンのえんどう豆は古代エジプトのツタンカーメン王の棺の近くで見出された豆で、イギリスの考古学者H・カーターが発見。緑色のさやではなく紫色の大きめのさやで、中の豆は緑色の普通の豆。歴史的な出処の不思議さと色合いから世界に種子が広がり、日本では1996年水戸市の大町武雄氏に米国の婦人から送られたと言われている。その後全国に広がり、今日では小学校でも栽培体験教材として採用されていると聞き及び、ほほ笑ましく思う。
 最近、マスメディアで感じられることは農業関連特集の広がり。不況になると必ず農業への関心が高まり、大きな期待がもてるとの論調の一方で儲からない農業は継続出来ないなどの厳しい指摘が。
 食の安全や残留問題から消費者の国産農産物への関心は食料自給率の問題も含め、農業生産者の実態を再認識する良い機会だ。高齢化と栽培放棄地の拡大など現実を直視し、新たな就農機会の広がりを願っている。
 若い人々に農業を通しての物づくりの喜びと満足感が得られるような、新しい農政の展開を希望してやまない。
 6月から農薬危害防止運動が始まった。今年も20年来の千葉大網での野菜づくり、天候や病害虫・雑草と格闘しながら適切な防除を切に思う。

その2に続く)

大内脩吉【略歴】
 昭和16年2月6日生、東京都出身。昭和39年千葉大学園芸学部卒・日本農薬(株)入社、平成3年取締役、6年常務取締役、10年代表取締役専務取締役、11年代表取締役取締役社長、20年取締役会長(現在)、21年農薬工業会会長(同)

【著者】大内脩吉
           日本農薬(株)取締役会長

(2009.06.10)