特集

農業協同組合新聞創刊80周年記念
食料安保への挑戦(1)

一覧に戻る

【主要5政党に食料・農業・農村政策を聞く】
日本共産党 紙 智子 氏

参議院議員

共通の質問項目
●質問1「低自給率、担い手の減少など日本の食料・農業の危機をもたらした原因は何でしょうか」
●質問2「自給率向上が達成されなかった原因と向上させるための政策のポイントは何でしょうか」
●質問3「日本農業の担い手像とそれを育成する政策では何が重要でしょうか」
●質問4「農地政策のあり方と株式会社参入論をどう考えますか」
●質問5「WTO農業交渉についてはどう対応すべきでしょうか」
●質問6「その他貴党の食料・農業政策について」

価格保障と所得補償の二本立てで経営を持続可能に

質問1

紙 智子氏
 「ずばり戦後の歴代自民党政治で行われた農業政策にあると思っています。結局、農産物輸入自由化を推進し、国際競争力を口実に、国内生産を縮小していきました。日本の財界や大企業の要求、米国の要求を優先する農政展開だったことがいちばんの問題だと思います。
 食料自給率の下落も農業政策によってもたらされたという原因への反省がありません。1961年当時、農業基本法で「選択的拡大」をうたいましたが、それは国内で生産しているものでも米国で大量に生産し余るようなものは日本が買う、日本とバッティングするものは生産を少なくするということになりました。その結果、自給率は著しく低下しその後も米国との関係で輸入食材を使う外食産業が入ってきました。85年のプラザ合意で円高となり、農業側に責任がないのに内外価格差がひろがり、輸入が一層促進され、88年に牛肉・オレンジの自由化、そして95年のWTO協定で米も輸入することに。輸入農産物がどんどん入ってくることで生産者価格が下がり続け、国内生産が縮小させられ、経営が大変になり離農が増えました。後を継いでくれということを言えるような状況ではなくなり今日のような事態を招いたということだと思います」

質問2
 「根本は大企業のように国際競争に勝っていかなければいけないという路線です。農業に市場原理をもちこみ、それを見直すのかといえば、財界が提言しているもっと効率よく、もっと規模拡大をという方向を、おしすすめてきました。その考え方自体、日本の歴史のなかで培われてきた農業にとって非常に無理があったと言わざるを得ない。
 一時は農水省の中でも自給率目標は定めないほうがいいという議論もありましたが、やはり食料自給率向上を農政の中心に据え、そしてまず第一に必要なのが持続可能な農業経営を実現させるための価格政策だと考えています。党の政策は二本立てで、生産費に基づいた価格保障と所得補償を組み合わせる。価格保障を主体にしながらそれを補完するかたちで直接支払いによる所得補償をやっていきます。
 農産物の輸入量についての規律も決めながら、生産コストをカバーする価格を保障する価格保障と、農地を単位に、たとえば国土と環境を保全し農地を維持する取り組み、あるいは有機農業への取り組みなど食の安全・安心も含め手間暇かかる取り組みですが、実際には収入に結びつかないという部分、いわゆる多面的機能を評価して農家に直接支払う所得補償と2つを組み合わせるやり方です。
 こうして価格政策そのものをきちんとすることが大事。そのうえで担い手対策や、また、WTO協定そのものの枠組みを変えていく必要があると思っています。そしてこのことを生産者だけではなくて国民全体で理解し応援していくことにしないといけないと思っています」
 ――生産費を基準として経営安定政策を考えるといっても農家は多様で難しさもあるのでは?
 「しかし、たとえば米の場合、労働者の報酬と比較しても時給に直すと最低賃金の3分の1か4分の1ぐらいにしかならないということですから、あまりにも低過ぎるということがあります。そこで農水省の調査による全国平均コストを不足払いによって保障しようというものです」
 ――米の生産に偏って全体としてバランスがとれた生産になるかという問題もあるのでは?
 「基本的な立場として、生産調整をしなくていいとは思っていません。農業生産を多面的に発展させるためには調整は必要と考えています。その場合、米以外のものを作ろうという動きを積極的に奨励するような選択肢を設ければいいのです。麦や大豆など増産しなければならないもの、水田を生かして飼料用米を作ってもそこそこの実入りがあると選択できるようにするのも方向だと思います」

質問3 
 「今、がんばっている人がまずがんばり続けられる必要があるということです。そのうえで若い人たちをどう担い手にしていくのか。その際に大規模でないと農業ができないということではなく長い間積み重ねてきた家族経営で小規模でもきちんと続けられるような支援が必要だと思います。ただしこれは規模拡大は必要ないと言っているわけではありません。それぞれの経営、地域の条件に応じて行われている、大規模経営や集落組織もきちんと位置づけています。
 もうひとつは新規に参入する人たちへの支援。私たちは3年間、軌道に乗るまで月に15万円を国が直接手渡していくことを提言しています。これはEUではやっています」
 「民主党の戸別所得補償法案には賛成しました。ただ、民主党の路線は自由化は結構で、これからもWTO、EPAを進めるということを言っている。そうすれば価格が下がっていくわけで、では、直接支払いでどこまでやるのかが当然問題になる。そこは違いがあります。
 私たちは貿易に一定の規制を加えながら制度そのものをもっと見直していくということ。所得補償一本にしてしまうと財政支出も膨大になっていくということもあり、それを考えて二本立てを提言しています。私たちは全部で9000億円あればいいと試算しています。2兆6000億円の農業予算のなかで5400億円ぐらいが所得補償関係に回っている額ですからあと4000億円をプラスすればできるのではないかということです。米でいえば1俵あたり1万8000円を保障するということです」

質問4
 「担い手がいないから企業に取得させればいいではないかという議論がありますが、株式会社への農地取得の解禁には反対です。やはり日本のなかで歴史的に培われてきた、自ら耕作する人たちが取得するという現在の農地制度の大原則を据えるべきです。
 農地が飛び飛びになっていて効率が悪い、農地を集団化したいなどの要求が強い地域があることは事実です。圃場整備や農地の貸し借り、交換など進めることは必要です。そのためには農地を把握している農業委員会の役割も大事です。農業委員の役割を低めるのではなく、その力を使いながら合理的に動かしていくことが必要ではないかと思っています。
 ただ、地域全体として農業の担い手も少なく、一方、地域の建設業などは仕事がないというところもあるのでそこで農業と提携することは地域を存続していくために否定するものではないと思っています。地域全体が疲弊しているということも大きな問題ですから、どう支え合っていくかという地域の協同と、企業参入は区別して考えなければならないと思います」

質問5
 「やはりWTO、EPA、FTAについては近年、国連人権委員会でも採択された「食料主権」を保障する貿易ルールに改定すべきと考えています。日本の農業団体も世界の農業団体とともにこれを決議していますね。
 WTO協定も出発点では途上国は貧困の打開につながるのではないかという期待もあったと思いますが、実際は輸出国優先で米国などの大国が途上国に多国籍企業をどんどん進出させそこで利益を上げると。結果として発展途上国農業は大変なダメージを受けています。
 しかし今、多くの国が自国民に対する食料供給を優先しなければならない状況にもあるわけですから、それぞれの国の農業生産を発展させる方向での協力をひろげることが大事ではないでしょうか」

質問6
 「事故米問題は規制緩和論のもとで『儲けのためなら何をやってもいい』というモラルの崩れという業界の問題もあるし、それに対して国が見逃していたという背景には国民の安全・安心が大事だといいながら、まず企業を優先するという対応があるのではないでしょうか。そこを変えていかないといけません」
 「今急いで集中してやらなければいけない問題とは食料自給率を引き上げていくこと。少なくとも50%以上という点では一致しているので、そこは真剣に達成していくために、生産者も消費者も国民全体として共通の認識に立ってそこに向かって努力するということだと思います」

(2008.10.22)