特集

農業協同組合新聞創刊80周年記念
食料安保への挑戦(2)

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食料安保と協同組合の役割 座談会その2

食と暮らしを支える生産現場へのまなざしも協同の力で育む
「世界の飢えを満たす協同組合」の役割を今こそ

◆大型量販店の価格支配力が問題 加藤 牛乳については今年4月1日に一律10円値上...

◆大型量販店の価格支配力が問題

加藤 牛乳については今年4月1日に一律10円値上げし、一般的な班共同購入品で205円を215円にしました。当たり前の話ですが、これで生協としての荒利が増えるわけではなく、工場経営が厳しいのでその経費に回すということと、大半は酪農家の飼料代にということです。
一般的な取引をしている農家にとっては、何よりも大手量販店の価格支配力が決定的すぎるということが問題だと思います。ここをどうにかしないと生産者は泣くに泣けない事態が続く。冷凍ギョーザ事件で議論になった低価格の問題もここに絡むと思います。事件の因果関係としては食品テロということではありますが、なぜ中国の食品企業で単価10円というギョーザを製造し生協組合員に供給するのかといえば、やはり大手量販店と互角に勝負しようという日本生協連の路線があったように思います。
宮原 量販店との取引では4定条件というものがあります。「価格」、「数量」、「規格」、そして最後に「時間」です。これが水産の世界の大きな縛りになっていて、輸入水産物が約300万トンあり、日本の3分の1の価格で諸外国から仕入れてくるものが足を引っ張る。そして、どこの量販店にいってもトレーに入った同じような規格の魚が並ぶ。店で扱いやすいための規格です。
本来天然のものはいろいろなサイズがあります。それがひとつのサイズで、それ以外は扱わないということになってきています。この流通を生産者側から変えていかなくてはいけないし、消費者に理解をしてもらわなければいけないことです。
加藤 私たちは北海道のある漁協と提携し、地域の浜にはいろいろな魚が揚がるわけですから、魚種は指定しないで獲れたものを箱につめて消費地に送るという、やや乱暴な取り組みをしましたがこういうことも必要ではないかと思います。

◆水田農業の立て直しが食料安保に不可欠

生活クラブの組合員は、遊佐町(JA庄内みどり)の米を10万俵食べている
生活クラブの組合員は、遊佐町(JA庄内みどり)の米を10万俵食べている
生活クラブでは、餌の自給率向上や地域の環境、農地の保全をめざして、減反田を利用した飼料米を豚に与えている
生活クラブでは、餌の自給率向上や地域の環境、農地の保全をめざして、減反田を利用した飼料米を豚に与えている

村田 第一次産業は厳しい環境にありますが、日本で自給率を向上させ食料安保を実現するにはやはり水田農業が柱になります。生活クラブの取り組みをもう少し説明してください。
加藤 私たちが庄内地方で取り組んでいる飼料用米の取り組みは今年、作付け面積315haですが、ただエサ米を作ってくださいといっても生産者は作るはずはないですよね。産地づくり交付金で助成しても、とてもそれで生計を立てていくということはありえない。やはり主食用米の価格がきちんとしていなければできないということだと思います。
だから、主食用米が数量も含め米価が維持されるということが根本に置かれなければ自給率向上なんてあり得ない。それがなければ生産者にとって水田フル活用なんて、おととい来い、みたいな話になってしまいます。
それでもわれわれがなぜできたのかといえば、それは平田牧場という豚肉の生産者が近くにいたという地理的な要因も大きかったですが、山形県の遊佐町で作っている19万俵のうち10万俵強を生活クラブ生協の組合員が食べているわけです。しかも1俵1万6100円を支払っています。主食用でその価格を支払うことで飼料用米の生産も実現できたと考えています。
飼料用米の施策が日本で一般化するかどうかが課題ですが、生活クラブは特殊で変わりものだからできるんだとよく言われます。しかし、その変わり者が現実に315haの飼料用米を作付けしてもらっているわけですから、ここを政治が後押しすれば一般化できるのです。その根っこにあるのは価格(農家の所得)問題です。そこをしっかり支えなければ自給率向上といっても絵空事になってしまう。
村田 米について考えると、政府が主穀の管理に責任を持たねばならないということです。米生産のセーフティネットをなんとか回復させなければ自給率向上は実現できないということだと思いますね。
冨士 とくに水田農業の場合は、計画生産、つまり生産調整をどう考えるかを抜きにしては米価の安定は考えられないわけで、そこをどうリセットし仕組みを考えるのか。転作率は4割ですから、6割の主食用米の部分が安定しないと経営が成り立たない。生活クラブ生協の取り組みのように1俵1万6000円で安定しているのであれば、農家の経営の考え方も違ってきますよね。同時に4割の部分をどういう方向に持っていき、どう下支えするのか、そういう戦略性と経営安定のための財政支援をきちんと考えなければならないと思います。

◆長期政策と目標を示せ

現在も年間77万トンの米が輸入され、日本各地の倉庫に保管されている
現在も年間77万トンの米が輸入され、日本各地の倉庫に保管されている

冨士 以前は政府米が下支え機能を持っていたわけですが、食管制度から食糧法になって全量政府買い入れはなくなった。備蓄は100万トンですが、毎年100万トン買うわけではない。買うのはたとえば20万トンなどと売れた分しか買わないわけです。米全体は400万トン流通しているなかで、政府は10万〜20万トン買ったり売ったりしているだけです。そういうなかで生産調整はやってもやらなくてもいいという世界になったわけですが、これをなし崩し的に進めてきた経緯がある。
ですから改めて主食である米を安定させるために、生産調整の仕組みをもう一度考え直さないとうまくいかないのではないか。転作率も3割程度であればブロックローテーションでうまく回るわけですが、3割を超えると無理が出てくる。しかも大豆をがんばって作付けしても今度は連作障害が出る。そうなると飼料用米を転作作物に入れないと解決しない。そこで稲系での転作、飼料用米、米粉といったものを入れないと4割を超える生産調整を維持できないわけです。
こうしたことについて、きちんとした支援の手だてが必要ですし、食料自給率50%を目標というなら、2年後には何十万トン、3年後には何十万トンという目標を示し、それに対して10aあたりいくらという助成をするという具体策を示して取り組んでいく必要があると思います。
加藤 いちばんの問題は、飼料用米の取り組みにしても長期的な展望がもてることが大切で、これが見通せなければ、担い手の育成だといっても難しいのではないでしょうか。これが重要です。自給率50%を掲げるなら、それを達成するまで国なり政治が制度で支える必要があるということを言う必要がどうしてもあると思います。

宮原 われわれにとっても農業がしっかりしてもらうことが基本です。漁業はどうしても副食品です。米を食べてもらわなければ魚も食べてもらえないという相関関係がありますから。農業がしっかりしてもらわないと漁業も成り立たないというまさに一心同体なんです。そういう意味でも長期的なグランドデザインを示し農業、そして漁業、林業を考えるということが必要で、それをしないと国の基本を誤ることになる。

◆協同組合の総合性の発揮

村田 さて、ご指摘のような課題があるなかで協同組合がどういう役割を果たすべきかというテーマについて話し合ってもらいたいと思います。
ところでICA(国際協同組合同盟)の1980年レイドロウ報告は70年代の食料危機をふまえて、協同組合運動がそれとどう闘うかという問題意識を掲げていたわけですが、今、まさに食料危機が叫ばれるようになっていますね。そのレイドロウ報告では、日本の総合農協を非常に高く評価しています。日本の農協の総合性に学ぶべきだと言っていることを改めて注目し、農協は地域でどう総合性を発揮するかが課題になると思います。
冨士 協同組合は人の暮らし全体を起点にし暮らしに必要なことは協同組合で取り組もうということですから、ある部分だけ切り取ってそこだけ効率的であればいいということにはならない。人の暮らしが全体として豊かになるかが課題であって、総合性が重要になるし、それが原点でもあると思います。
とくに農村では、たとえば販売事業だけ切り離しても成り立たたず、やはり購買も信用、共済も事業に組み入れて地域で暮らす人の全体を支えることによって農協運営の安定も成り立つということです。
改めて考えたいのは、人が生きるうえでは、何をやって生きていくかという職業選択、どこで生きるかという地域の問題、そして何を食べて生きていくのかということが大きな問題となると思います。この原点に応えるのが協同組合であるとすれば、今は協同組合間の連携を強めていくことが改めて大事になっていると思いますね。
さらに言えば、私は産業組合に戻ってもいいと思っています。農協や漁協、森林組合と分かれていないで、たとえば、静岡県天竜川産業組合として、山から川、農村地帯、そして海までと流域全体でひとつの協同組合が運営するというようなことです。
加藤 私たちも統一協同組合法が必要だという主張しています。
村田 生活クラブは、「生産する消費者」という言葉を使っていますね。まさに生協に何が求められているかを象徴するような言葉だと思います。

◆生産現場に関わる消費者との連携も重要に

加藤 生協組合員として、ただ単にお金を払って安心・安全だけを評価してそこにとどまっていればいいのか、実はヨーロッパでは、それでいいのだ、と言われました。数年前にイタリアに行ったとき、われわれ生活クラブは牛乳工場を3つ経営しているとか、養鶏場もあって50万羽飼っているなどと説明したら、そんなことをやっているのは生協ではない、生産は生産者に任せて生協はそれをチェックするだけでいいと言われました。
それに対して「生産する消費者」というのは、われわれは素人だけれどもやはり生産現場に踏み込むと。しかし、踏み込んだ以上は責任を持って責任消費の観点で努めを果たすというような意味合いです。大型量販店の価格支配力を問題にしましたが、結局は生産と消費が分断されて、その間の流通業者の力が強くなってしまって、お互いの顔が見えるどころか意思疎通もないような状態になってしまったわけですね。
このあり方が最大の不幸だと思います。ですから、生産現場に踏み込むという生協運動であることがいちばん重要だと思います。それは、分かって食べる、ということを大事にしたいということでもあります。「素性の確かなものを適正な価格」で、というのが生活クラブの共同購入のモットーです。どうしても「より良いものをより安く」という論理になりがちですが、それでは組合員はお客さんでしかない。一方、「素性が確かなものを適正な価格」を貫きたいのは、組合員にそれを考える主体になってもらうこと。これが協同組合の原点だと思いますし、協同組合教育と言っていいかもしれません。そこを大事にしないで、ただ安全・安心なものをと言うだけなら私たちがめざす協同組合運動とは違うということです。
宮原 私たちは、消費者に目利きになってもらいたいと思っています。消費者は目利きであるということを思って生産することを現場では重視しています。
それから協同組合の役割でいえば漁村集落では協同組合が中核になっています。地域社会にとって協同組合がなければその地域をだれが引っ張っていくのかということです。漁協は大体組合員数1000人以下ですが、その地域のなかでは大きなウエートを占めています。事業だけではなく漁村の伝統を守る祭事なども漁協が中核になってやっている。地域社会にとって協同組合は不可欠だと思っています。
こうした日本型の漁協がいいかどうかは別にして、これから発展途上国では協同組合が相当重要な役割を果たすと思っています。ICA組織のなかの漁業委員会の事務局は全漁連がしていますが、いろいろな国から協同組合を発展させるためのノウハウを学びに来ます。漁協を地域に根づかせることによって、地域住民の生活向上につながる、それが地域社会の安定につながるということで、総合力を持つ協同組合として育成していくべきだという研修を行っていて、そういう意味では途上国の地域経済に寄与していると思っています。
加藤 内外の食料事情をふまえれば、やはり80年の「西暦2000年における協同組合」で第一優先分野とされた「世界の飢えを満たす協同組合」、このテーマに立って協同組合間でいろいろな協議ができるような場をこれからつくっていくべきだと思います。それから国際貢献的な問題でもせっかくであれば日本の協同組合として、ひとつになってやればいいのではないかと思います。
冨士 ただ、一方で改めて考えると協同組合の危機ではないかとも思います。たとえば、身近な例ですが全中などJAグループに就職したいという学生たちは農業や食料の安全性などについては語りますが、協同組合については語らない。そういう意味では世の中には個人と法人があり、法人には株式会社以外になぜ協同組合があるのか、何が株式会社と違うのかについての思いが少ないと感じています。
もうひとつは、経済財政諮問会議が農協をはじめとした協同組合を分離、分断させようとしていることです。日本の地域社会を考えれば、今日も話題になったように総合性を持った協同組合でなければ地域住民を守れないわけです。ところが、信用事業、共済事業を分離しろというのはまさに株式会社の論理です。つまり、協同組合の持っている人の暮らしの総合性を否定している。こういう圧力があるわけで、総合経営の協同組合というものを守らなければいけない。その意味でも協同組合セクターが連携、協同していくことが大事だということではないか。
それからわれわれはアジアとの連携も重視していますが、たとえば中国の農村でも、日本の農協に学べという動きがあります。アジアの途上国は人口の6割、7割が農民なわけですね。そういう国は協同組合をつくっていかない限り、第一次産業の人たちは豊かにならないということだと思います。貿易を自由化したからといって豊かになるわけではない。協同組合が地域を支えていくという取り組みをアジアで広げるための連携も重要になっていると思います。
村田 人間の基本的なあり方として、何を仕事とし、どこに住み、何を食べるのか、そこに協同組合の役割の重要性があるとの指摘がありましたが、まさにそれが協同組合と食料安全保障という課題でもあるのではないかと思います。長時間、ありがとうございました。

座談会を終えて
「自給率向上目標50%をめざす」という総論だけの政府は、具体的にそれをどう実現していくのか。とくに主穀である米の需給管理と生産者米価支持、転作など各論での具体的かつ長期の目標の提示が求められていることについて、座談会では共通の認識が示された。全漁連の宮原専務理事の言葉をお借りすれば、長期的なグランドデザインを農林水産業全体に示すことがないと、まさに国の基本を誤ることになるのである。
そのなかで、協同組合は、1980年のレイドロウ報告をよみがえらせ、人の暮らしの総合性にふさわしい協同組合の総合性を発揮すべく、協同組合セクターの連携と共同が求められることが理解されるのである。私は、この座談会で、農協・漁協・生協運動のなかに「高い志」を失っていないトップが存在することに大きな共感を覚え、また喜びを感じることができたのは何よりであった。(村田)

(2008.10.27)