特集

水田農業の現場から考える新基本計画の課題
農業所得の増大で農業・農村に元気を取り戻す

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【座談会 その1】
農業所得の増大で農業・農村に元気を取り戻す

清水 紀雄氏(兵庫県篠山市、清水農場)
齋藤 隆幸氏(山形県真室川町、農事組合法人りぞねっと代表理事)
築地原優二氏(JA全中・農業対策部長、5月7日より担い手・農地総合対策部長)

 政府は現在、来年3月策定の新たな食料・農業・農村基本計画を審議会で検討しており夏にも中間とりまとめを行う。一方、JAグループはこのほど新基本計画に政策提案を反映させるべく、「基本的な考え方」を組織討議案として提起した。今後、生産現場などJAグループ各段階での討議を経て考え方を整理、新基本計画の中間とりまとめや来年度以降の政策・予算への反映を働きかけることにしている。
 JAグループが打ち出した「基本的な考え方」では、農業生産額と農業所得を増大させ、農業・農村に元気を取り戻すことを最重要課題に掲げ、それを実現するためのJAグループ自らの生産・販売戦略と、これを支援する新たな政策確立が必要だとしている。
 これらの課題をどう考えればいいのか、今回は水田農業に焦点を当てて話し合ってもらった。

「食文化」、「地域性」「農業力」もキーワード

地域水田農業の現状と展望

◆米価下落で規模縮小

清水 紀雄氏
清水 紀雄氏

――まずお二人の経営や地域の実情についてお聞かせください。
清水 約20年前に就農してから、ずっと規模拡大し平成15年ごろには作業受託と経営受託をあわせて70haほどになったと思います。 その後、米価の下落で作業受託が減っていった。というのは作業料金は当時、苗代込みで10a9万6000〜7000円だったのですが、米価が下がってとても米代金だけでは作業料金が払えないからと作業委託から経営委託になったわけです。飯米だけあればいいと。ところが私にとっては経営受託になれば草刈から水路清掃まで労力が増えるので、労働力の面から経営面積はそんなに維持できないということなります。米価の下落で人件費もそんなに出せませんから経営面積を減らさざるを得ず、現状は経営受託が22ha、作業受託が3haです。
面積が激減したとはいえ、これでも草刈で精一杯です。今でも田んぼの面積は一枚20aあるかないか。合わせて200枚近くなり順に草刈していって後ろを振りかえると、すでに草がどっと伸びている、ということもあります。
隣村では私が農地面積の約40%を預かっていますが、残りの田んぼに出ておられる方はやはり昭和ヒトケタ世代。それも3、4人で、後は私と同世代の人たちが日曜日に帰ってきては田んぼの世話をするかどうかという状況です。5年後にはもうこの村全部頼むよ、と先日も会合で言われたほどです。
ただ、そう言われても農機具は値上がりしていますから、米代金で設備投資費用を回収できるか、と。実際、今使っているコンバインも耐用年数ははるかに過ぎています。自分でメンテナンスをして長持ちさせなければいけない状況でこれが壊れたら次の設備投資をどうするかというのが課題になっています。
中国山地につながっていますから鹿の被害も増えています。昨年も順調に栽培できていた白大豆が収穫前に葉も実も何もなくて茎が立っているだけになった。村中で金網を張っているんですが、これが現状です。

◆米粉商品製造を立ち上げ

齋藤 隆幸氏
齋藤 隆幸氏

齋藤 水田は個人経営で5haほどです。以前は受委託を含めて9haほどでしたが、米粉加工の仕事をするようになって手が回らないということもあって経営面積を少なくしました。
しかし、われわれが米づくりをやめてしまっては、リタイアされる方の農地の引き受け手がいなくなるということもあって、少なくとも倒産しないような水田経営をしなくてはと思っています。
もう1つが米粉麺などを製造・販売する「りぞねっと」の経営で今、月産で3万食を提供しています。
私たちが考えたのは日本には米を粉にして消費する文化は少ない、そこに新しい消費の道を拓けば水田を維持できる可能性はあるのではないかということです。「米づくりから始まる麺づくり」を企業理念にしていこうと。
もうひとつの理念が「受委託を含めた生産」です。いわゆるNB(ナショナル・ブランド)品ではなくて相手先ブランド、PB(プライベート・ブランド)を中心にしようということです。しかも原料の米もお預かりする。もしくは産地のJA米を使うということを当初から方針にしましたから、原料の精査は必要ない。要するに産地ブランドになっている米を私たちは粉にするわけです。
事業をいちばん利用していただいているのが、JAの購買事業部門です。JAがPB品を作り、産地の米を使った購買品として米の消費拡大をやっていこうということで、今全国で、10JAほど取り組んでいただいてます。
それから「米の副食化」を目指した学校給食と生協への供給です。これは全農の園芸農産部との事業で、学校給食は山形、宮城、岩手、福島、茨城、埼玉の県学校給食会と正式に契約しました。山形は私たちの米を使いますが他の地域はその産地のJA米です。つまり、原料についてはJAグループで保証してもらうということです。
農業の6次産業化とよく言われますが、私たちの事業は、販売を得意とする相手まで届ける、ということです。代金回収までを考えると一般顧客ではなくて、すでにしっかりお客さんを持って販売しているところに納入しようということですね。まさに学校給食会や生協などは全農がしっかりと取り引をしていますからそこに私たちの米粉商品を販売していただく。
本格化する新規需要米(米粉用途)は、全農園芸農産部と連携しながら、新たな戦略商品開発に取り組んでおります。
こうした事業展開はまさにJAグループの展示会が出会いとなっています。私たちは学校給食(山形県)で実績のあった製品を展示したのですが、全農の担当者の方がこれはもしかしたら新しいカテゴリーになるのではないかと考えてくれたことがきっかけです。JAグループとして、担い手と全農の県本部、全国本部がしっかりとタッグを組んだ例ではないかと思っています。
私の住んでいる最上地域は1市4町3村で人口は9万人です。典型的な中山間地域の過疎地帯ですが、加工品(弊社商品賞味期限常温半年)なら日持ちがし、極端にいえば世界にも送り届けることができるわけですから、そこに着目しました。これなら中山間地域でもデメリットはまったく感じていませんし、逆に取引のある関係者などが私たちの地域に来ると、安堵するというか、人もゆっくり歩いてますし(笑)、トラクターもトコトコトコと走っている。こうしたのどかな環境で加工しているというPRのほうが感動を呼ぶようで、これはメリットだと思っています。

元気が出る目標をどう設定するか?

◆食料は需給ひっ迫へと変化

――それでは今日のテーマである「JAグループの基本的な考え方」をめぐって話し合っていただきたいと思いますが、最初に築地原部長に概要をお願いします。

築地原優二氏
築地原優二氏

築地原 「基本的な考え方」には2つの大きな柱があります。
1つはわが国をめぐる食料・農業・農村の環境変化です。これは食料が構造的にひっ迫基調になったということが前提です。
それをふまえてJAグループの基本的な考え方を大きく4つに整理しているのが2つめの柱で、(1)新たな基本計画の基本的な枠組みの考え方、(2)農業・農村に元気を取り戻す農業所得の増大、(3)農業の多面的機能を発揮する新たな直接支払い制度等の確立、(4)所得の増大に向けた地域・品目特性に応じた品目政策等の確立、です。
組織討議案は第25回JA全国大会議案に盛り込み、あわせてこの4月、5月に討議をし6月に基本的考え方を整理して、新基本計画に向けた政府の中間論点整理に反映させる働きかけを行うということです。
このうち「農業・農村に元気を取り戻すための農業所得の増大」という点が非常に大事だと思っています。
そのためには10年後の農業生産額と農業所得の目標設定が必要であると提起しています。国民からはカロリーベースの自給率目標の設定が分かりやすい指標として求められると思いますが、生産現場の実態からすれば、カロリーにはなかなか反映されない畜産、野菜や果樹なども含め全体の農業生産額と農業所得の増大を実現する政策が必要ではないかということです。
では、具体的に何をを考えなければならないのかと提起したのが「JAグループの生産・販売戦略の構築と政策の確立」です。

★JAグループの生産・販売戦略の構築と政策の確立
○消費者の理解による付加価値の拡大と付加価値配分の見直し
○安全・安心な国産農畜産物の生産と消費者理解の促進
○知的財産権など産地情報を活用した付加価値の拡大と販売力の強化
○資本を通じた農業関連株式会社との戦略的な連携
○流通コストの削減による生産段階の配分の拡大
○加工、業務用、外食への供給拡大へ向けた産地整備
○農畜産物の輸出促進による付加価値の拡大と増産
○組合員の結集による産地形成や切磋琢磨をはかる共同販売の再構築など

◆農業所得の増大が最重要課題

このうち「消費者の理解による付加価値の拡大と付加価値配分の見直し」では、できるだけ農業サイドに付加価値を持ってきて結果として農業者の所得を上げるという戦略がどうしても必要ではないかということです。
生産コストの削減はもう限界に来ており、一方では食品関連産業全体では昭和60年の91兆円が平成18年には102兆円に伸びている。そのなかで農業分野は15兆円から9兆円へと4割弱減っているわけですから、農業サイドへの配分を拡大させていくということです。
そのためには流通各段階のコスト削減と国内農畜産物の有利販売など食品関連産業全体を巻き込んだ販売戦略の確立が大事だということで、齋藤さんのような取り組みをいろいろなかたちで広げていくことが大事ではないかと思います。
そのほか「安全・安心な国産農畜産物の生産と消費者理解の促進」では、将来的にはGAPの導入をしっかり進めていくことや、カーボンフットプリントの取り組みを通じた環境貢献への理解促進などです。
「知的財産権など産地を活用した付加価値の拡大と販売力の強化」では、地域団体商標登録制度を活用したブランド化などに取り組もうということであり、「資本を通じた農業関連株式会社との戦略的な連携」は、食品関連産業等へJAグループが資本参入するかたちで付加価値配分を高める取り組みをすべきではないかと提起しています。これは今まで提起したことがなかった内容です。
それから「流通コスト削減による生産段階の配分の拡大」、「地産地消による流通コストの削減」、「加工・業務用・外食への供給拡大による国産農畜産物の増産」、「輸出の促進」、「組合員の結集による産地形成や切磋琢磨をはかる共同販売の再構築」も掲げています。
これらは農家の方々が元気を出していくため方策として課題提起したもので、これをベースに組織討議をしていただければと思っています。

◆食文化を販売戦略に

齋藤 販売戦略を考えるうえで商売という部分ではなくて、食文化をしっかりとつくっていくためにJAグループが国民世論をつくっていくことが大事ではないかと思います。私たちも事業を始めるにあたって単に経済だけではない面に取り組んでいくべきだと思っていました。
それを私たちは「お米の副食化戦略」といっています。“パンのなかに米粉パンあり”だけではなくて小麦のパンのお供に米の副食化で加工品を一緒に食べてもらう。そういう食文化をつくっていこうと。販売戦略、イコール新たな食文化戦略をつくっていくべきではないかと思います。
それから加工業をやっていると、いろいろな問題や事故もおきます。そのときにJAグループとしてサポート体制がないんですね。たとえば、品質管理監査機能などの部分についてはいわゆる商系からアドバイスをもらうしかない。そういう点もJAグループの課題ではないかと思います。

◆「産地間協力」の視点で戦略を

清水 私たちは消費者の方に地域の農産物を理解してもらおうと平成4年ごろ、当時の篠山町にどういう農産物があって、弁当にするとどういう弁当ができるのかと子どもたち2000人を集めて、全員に自分たちで食べてもらうイベントをやりました。
その後、米粉パンにも取り組み、今では篠山市の学校給食に出すパンは地元産の米100%のパンになっています。ここまでくるのに10年ぐらいかかったということです。当然、米飯給食は地元の米です。
学校給食で地産地消が実現したら、次にはコープの店や商店街でも売ってもらうようにすれば米粉パンもジャムパンやあんパンにするなど商品も広がる。篠山市は京阪神の都市圏から60キロの距離ですから、この不況で結構、安・近・短の観光地になっていて、年間300万人程度の観光客があります。かりに1人1個の米粉パンを買ってもらったら、篠山市だけを考えると米以外に転作しなくてもいいぐらいの米の消費が見込めるわけです。
ただ、野菜生産は少なく学校給食にも供給できていません。施設園芸は新規就農者にとって土地利用型と比べて資金も少なくて取り組みやすい部門ですから、今後は地域で生産を増やし、とくに旬のものを産地として打ち出すことを考えていく必要があると考えています。
それから農業は地域文化であり、齋藤さんも指摘するように食文化でもあり、適地適作があります。JAグループとして販売戦略を立てるのであれば、こういう特質に着目し、この時期にはこの産地のこれを売りましょうという戦略も大事ではないか。米であっても早売り競争せずに、8月の頭であれば高知と鹿児島の新米が出ます、もっと遅くなれば東北・北海道の米が出ます、といった戦略を考えることができないか。
また、米といっても白米で食べるだけでなく寿司や炊き込みご飯など伝統食それぞれにあった品種もあるはずでそれも販売戦略として提案していく。
平成の初めに私たちが地域の子どもたち向けのイベントに取り組んだのは、ファミレスやファストフードの味ではない食を伝えるべきだということでした。漬け物でも風土によって味が違う。価値観というものをもっと伝えていかないと。
だから、JAグループの販売戦略も、産地間の切磋琢磨ではなくて、産地間協力の視点で取り組む必要があると思います。産地間競争で値引き合戦ということにならないようにすれば農家の手取りも維持できるのではないか。

◆原産地表示の制度化

齋藤 加工品については今、原産国表示が議論されていますが、かりにこれが制度化されると日本の農家にとってプラス要素が多いと思います。
加工食品や輸入業者のなかには原料調達をリレーでやり、米国、国産、ブラジル、国産といった年間サイクルでやっているところもあります。すべての加工品の原産地表示は不可能だという声もありアイテムを絞ることになるかもしれませんが、表示は国産にとってビッグチャンスで、輸入品が押し出されていくのではないか。今は国産ブームですから、これをブームで終わらせないためには農産物の一次加工品、二次加工品でしっかりユーザーの心をつかむ提案をする必要があると思います。
築地原 食文化戦略が必要だというのはそのとおりですね。次世代の食農教育も通じて販売を考えていくことも大事だと思います。
それから加工分野についてはレストラン経営までも含めて取り組むべきではないかと今回提起していますが、品質管理などのサポート体制が不十分ではないかというのは、まさにこれからJAグループ全体としての現場への支援課題になってくると思いました。
原産地表示も非常に大事だと思っていて、われわれとしては外食でも原産地表示していくべきだと思っています。国産を選ぶかどうかはあくまで消費者の選択になるわけですが、やはり素性が分からない不安というものが大きいと思います。ここはトレーサビリティの徹底と合わせて求めていくべきだと提起しています。
消費者視点ということでいえば、農業者の環境への取り組みの貢献を提起していくべきではないかと思います。フードマイレージの考え方がありますが、やはり地元食材の使用が環境貢献につながるということを伝えることも大事だということです。
あわせて今回提起しているのは、カーボンフットプリントの取り組みです。農業者の地球温暖化対策への努力をCO2排出量で表示するというように、数字で消費者に提示できるようチャレンジしていく必要があるのではないかということです。

◆環境への貢献をどう販売に結びつけるか

清水 フードマイレージとカーボンフットプリントは非常に大事ですが、フードマイレージを重視するならフェアトレードもやってほしい。カーボンフットプリントをやるのでれば農業だけではなくて林業まで含める。たとえば平成7年でしたか、日本グリーンベルト計画として鳥獣害被害を少なくしようと里山の麓から100メートル区間に広葉樹を植え、そうすればエサになり農地まで出てこない。広葉樹のほうがしっかり水を保つから水資源涵養にもなる。
里山が荒れれば上水道も荒れる。農業があるから水質が浄化されるし地下水もきっちり溜まる。それがなくなれば土砂崩れや洪水、あるいは干ばつにもなるということも訴えていく取り組みも必要だと思います。
齋藤 全農が田んぼの生きもの調査をやっていますね。北海道東北ブロックでは青年部がこれをツールにして意思統一し、環境と食農教育をしっかりつなぐ取り組みをしています。
これもJAグループとして、取り組んでいる農家をしっかりと評価すべきだと思います。がんばれよ、だけでもいいんです。田んぼの生きもの調査を通じて環境と農産物、農業イコール文化なんだということ、生物多様性の大事さを消費者に感じてもらう取り組みも下支えしていくことも大事だと思いますね。
築地原 先ほど清水さんが指摘された産地間協力と連携については、加工・業務用への対応という点で欠かせないと思います。
それから地域ブランド力をどう高めていくかということに関連して協同組合のみ地名を商標登録できる地域団体商標登録制度を活用しようということも提起しています。

(「座談会 その2」へ)

(2009.05.11)