特集

【第56回JA全国青年大会特集号】日本の明日を考える
座談会「水田農業は一人ではできない」を基本に
佐藤 進(JAさがえ西村山・常務 営農経済担当/山形県)
下村 篤(JA上伊那・営農部長/長野県)
大林茂松(JAグリーン近江・常務 管理担当/滋賀県)
馬場利彦(JA全中・農業対策部長)

一覧に戻る

【座談会】組合員との関係強化で地域水田農業戦略を再構築しよう―戸別所得補償モデル対策とJAの役割―(前編)  佐藤 進・下村 篤・大林茂松・馬場利彦

・計画生産の必要性は不変。交付金の水準と活用が焦点
・「売れる米づくり」はこれからも基本
・水田農業には地域のまとまりが不可欠
・集落営農組織が力を発揮するとき
・農地の集団的利用を一層進める

 来年度から始まる戸別所得補償モデル対策に向けて産地では集落座談会などを通じて制度理解と計画生産の徹底に向けた地域水田農業づくりへの努力が続けられている。JAグループも取り組みの基本方針を決めた。今回はJAの担当者の方に集まっていただき現場での課題、JAとしての方針などの取り組みを語ってもらった。

JAさがえ西村山(山形県)◆計画生産の必要性は不変。交付金の水準と活用が焦点


JAさがえ西村山・常務 佐藤 進氏 ――まず最初にみなさんの地域の水田農業の特徴やJAとしてのこれまでの取り組みをご紹介ください。
 佐藤 私たちの地域では稲作所得以上の確保をめざし米と米以外の作物を推進しようと、米の生産調整には全農家参加で水田農業の振興に取り組んできました。
 特産作物振興では、やはりさくらんぼの生産拡大、振興です。優良形質の特徴のある品質の苗を育成し、それをJAが生産し、作付けに対しては行政から助成するという支援を行って参りました。
 そのほかは大豆と野菜が中心ですが、なかでも枝豆は実需者と事前の値決めを行って安定した生産拡大をはかっています。さらにJA独自の価格安定制度もあります。JAと行政と生産者がそれぞれ販売高の1%を積み立てて、価格が下がったときに活用するという仕組みです。
 対象の野菜はつるむらさき、ナス、ししとう、とうもろこし、かぼちゃなどですね。こういう取り組みにより、団地化と、とも補償を組み、さらに地域間調整もやって100%計画生産を達成してきました。
 下村 われわれの地域では地域の水田農業の取り組みは県の水田協がリードし、そのもとに上伊那地域や各市町村の水田協が取り組みを進めてきていますが、各地域では独自に市町村の営農センターなど行政や農業委員会とも一体となって農業振興を図っているということです。
 特徴は米の生産については標高別の作付け体系をとっていて、反収は平均でも640kgを超えているという高い地域です。
 こういうなかで生産調整については、これまでも100%達成してきました。その背景には上伊那全域や各市町村ごとのとも補償制度をやってきたことがあります。地域のみなさんの同意をいただいてきたということですね。転作の対応では専業農家は麦、大豆で、その他の方は、ソバ、野菜などです。
 水田・畑作経営所得安定対策では、集落営農48組織、法人8組織、認定農農業者は89人などと高い加入率でした。水稲作付け農家は1万6000戸あり自給農家も多いわけですが、販売農家は8500戸で現在の経営安定対策には集落営農も含めて6900戸が加入しているという状況です。

(写真)JAさがえ西村山 常務 佐藤 進氏

 

JA上伊那(長野県)◆「売れる米づくり」はこれからも基本


 大林 管内では滋賀県の米生産の3分の1ほどを生産していて農地は1万1900haですが、そのうち水稲が8000haほどです。転作作物は麦、大豆が主で2200haほど栽培しています。昔から集落営農が盛んな地域で、当地域も300集落のうち200以上に組織があります。
JA上伊那営農部長 下村 篤氏 また、琵琶湖があるので環境に非常に気を使った農業をしているのも特徴で、2600haでは“環境こだわり米”という作り方をしています。
 地域農業戦略では3つの目標を立てました。(1)担い手の育成、(2)売り切れる米づくり、(3)安全・安心の米づくりです。担い手を育成するためには担い手がきちんと儲かる農業をしなければいけないということから、(2)の目標が必要ですし、そのためには消費者から信頼されるために(3)が必要だし、それを担うのは担い手だ、といわばトライアングルの関係と考えて、3つとも同じ歩調でレベルアップさせていこうと実践してきています。
 これを農家の方に具体的に分かりやすい形で示そうとしており、たとえば担い手に対しては施設利用の大幅な割引といったメリットや、売り切れる米づくりということでは、標高別に湖辺、中間地、山間地と3つの地域ごとの特性を大事にして米の作り方を変えようとしてきています。
 実需のほうからはいろいろなニーズがあって、生協では安全・安心な米、あるいは外食産業であれば低価格の米、大手卸は大ロットなどがあります。そのニーズに合わせた米づくりを地域ごとにしようとJAはメニューを示し作り方によって値段を変えていく。努力をしていだいた米には価格差をつけていくということです。
 地域特性と生産者の創意工夫を最大限生かした米づくりをやっていこうということです。

(写真)JA上伊那営農部長 下村 篤氏

 

◆水田農業には地域のまとまりが不可欠

 ――今日は戸別所得補償モデル対策への対応がテーマですが、JAグループは先頃、取り組み方針を決めました。まずそのポイントを馬場部長からお願いします。
JA全中 農業対策部長 馬場利彦氏 馬場 これまでの水田農業は、米については需要に応じた生産をし、それ以外の作物には地域でまとまり、担い手を作りながら、地域の特色にあった作物を生産していこう、という路線だったと思います。
 今回の政策はそれが大きく転換することになりました。というのも地域でまとまって水田農業をやっていこうとの路線に対し、「戸別」に「所得」を補償する、ということですから。
 たしかに計画生産の参加者には、10a1.5万円という今までなかったメリットが措置され、これはわれわれが求めてきたメリットが導入されたものといえますが、このメリットを個別に判断して計画生産の参加を考えるということになると地域全体の参加状況が心配になります。さらに過剰米対策は一切やろうとしていませんから、作柄によっては需給緩和と米価下落の可能性もあるというのがわれわれの認識です。
 こうした変化のなかでも今まで以上に、JAグループとしては生産現場に根ざし組合員の営農と生活を守るため、地域農業戦略を再構築しながら、改めて計画生産の徹底と担い手づくりが大事になっているということです。
 その意味で新たな制度の周知、集落・地域単位での活用、団地化や面的集積、地域内調整の推進、地域作物の定着化といったことについて、今までの取り組みを一層強化しなければなりません。また、JAは地域水田協の構成メンバーでもありますから、農家の申請事務手続きの支援を通じて農家の不安を取り除く手伝いをしていくことも課題になると整理しています。
 需要に応じた生産をきちんとやっていく主体は集落営農など地域のまとまりです。農地を面的にまとめ、作物を作っていく主体をつくりながら取り組む、ということがJAにとっては大事だろうと思います。
 たとえば、米粉用米にしても飼料米にしても個人でばらばらに取り組むことは現実的ではなくうまくいかない。それこそ地域が取り組む、集落営農をはじめ地域の担い手をその主体としていくということを提起していくことが大事だと考えています。

(写真)JA全中 農業対策部長 馬場利彦氏

 

JAグリーン近江(滋賀県)◆集落営農組織が力を発揮するとき


 ――では、戸別所得補償モデル対策の問題点、対応方向などを議論をしていただきたいと思いますが、今回の政策について生産者のみなさんの率直な受け止め方はいかがですか。
 佐藤 モデル対策については中身がほとんど分からないままに、もう米の需給調整というものは全体ではやらなくてもいいんだろう、といった認識の方が多かったですね。
JAグリーン近江 常務 大林茂松氏 しかし、私たちは10a1.5万円の交付金をいかに生かしながら全員参加の需給調整を進めていくかが大事だろうということで、まず政策の中身を把握すると、10a1.5万円は単純計算で私たちの地域では4億3000万円ぐらいの交付金になることが分かった。これまでの助成金の1.5倍ぐらいなので、これはしっかり受け止めて活用していかなければと考えています。
 一方で水田・畑作経営安定対策導入のときに、その受け皿になる集落営農組合を41組織つくりました。この組織に加入していない人は20名弱のほとんど参加しています。
 その背景には私たちの地域は果樹地帯なものですから、稲作の労働力と競合しますので、稲作については何とか専業的な方に農地を集積し、果樹に労働力を振り向けようということがありました。むしろ大規模農家ほど営農組合に入ってもらって、将来的にはその営農組合のなかで誰が水田農業をやっていくのか、これをみんなでしっかり話し合いながら、農地を集積しようという取り組みを進めてきたわけです。
 今回の戸別所得補償モデル対策に対応するには、この営農組合がまさに的確な組織体だと思っています。米の生産数量目標の配分は営農組合の代表が受けることにしました。交付金を受けとるための組織で一本化した口座もすでにあるわけですからね。
 そのうえで水田利活用自給力向上事業の交付金も含めて全体でどういう作物を選ぶか考えたいと思っています。団地化もしますが、団地化すれば当然そこに関わる農地では米が作れない場合が出てくるわけですが、それは交付金を活用した地域とも補償で調整するということです。
 今回は転作作物助成への激変緩和措置があってその詳細が検討されているようですが、私たちが要請したのはこれまでの作物振興のための支援水準に不足する部分が営農組合にまとめて入ってくるようにしてほしいということです。そうすればいろいろな使い方ができるからですが、今回は県で一律の使い方とするというのですから、どうなるか分からない。したがって、それはあまり当てにしない。決まった交付金のなかで工夫して作物振興もし、手取りを多くしようと考えています。
 下村 私たちの地域では基本的に米の需給調整は必要だという農家の認識は変わっていません。
 今までも米政策が大きく変わったことはあったし、むしろ変化があり過ぎたぐらいですから、今回も農家のみなさんは政権が代わったからだ、という程度の受け止めです。説明でも今昨年とこの部分の助成金水準が違うという程度の説明で済んでいて、大きく変わるというイメージで考えてはいないですね。

(写真)JAグリーン近江 常務 大林茂松氏

 

◆農地の集団的利用を一層進める


 下村 実際、水田・畑作経営所得安定対策への高い加入率があるので、これが横滑りでいくという感じです。戸別所得補償制度になるといっても地域の合意により加入申請等の事務は地域水田協を経由して行うよう進めています。
 したがって計画生産の必要性とそのメリット対策が措置されたということは全体として理解されていると思います。ただ、交付金の水準は多くなるのか、減ってしまうのかといった具体的な問題については不安はあります。
 それから集落営農に参加しているメリットが小規模農家にとって今回の仕組みでは大きいですね。加入申請してもそれぞれ10a分は交付額から控除されるわけですが、集落営農に参加していれば、個人ではなくその集落営農組織全体から10a分が控除されるだけですから。集落営農組織ごとに、もし個別に加入するとすれば交付金が何百万円も違うという試算もみなさんやっています。これは大きいです。
 佐藤 私たちの地域でも共済加入は個別でやっていましたが、営農組合としてひとつになって共済に加入しようという動きになってきています。
 大林 私たちの地域も集落座談会が始まったところです。滋賀県は基本的には麦のは種はもうできているんですね。ですから、農家の方への説明をしても22年産というよりも23年度以降はどうなるのかといった話のほうが多いです。
 ただ、今回のモデル対策でも水田利活用自給力向上事業を合わせた交付金を試算すると全体額は35億円ほどになる見込みです。米の販売高が60億円ですから販売高の半分の水準ということですから、これは本気になって取り組むことが生産者の所得にとって非常に大事だと考えています。
 集落営農が盛んな地域ですが、やはり米づくりは一人ではできないということを改めて考えるべきだと思います。麦にしても集落で農地の利用方法をきちんと話し合い、同じ収穫するならできるだけ質のいいものをということが基本だと思います。それには農地の集団利用というのは欠かせない。今までもやっていたことですが、これを踏襲していくことが最善の方法と考えています。

【座談会】組合員との関係強化で地域水田農業戦略を再構築しよう―戸別所得補償モデル対策とJAの役割―
 
後半に続く

(2010.02.23)