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緊急特集[2] どうするのか? この国のかたち―TPP、その本質を問う

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【TPPを問う】菅政権が犯した2つの過ち―山田俊男・自民党参議院議員に聞く

・TPP参加、即時撤回を求める
・農業への誤ったイメージが広がった
・世界各国の信頼を裏切った
・JAは現状分析、農業アピールをしっかりと

 10月1日に菅総理が所信表明でTPP参加検討を打ち出したことで与野党を問わず大きな議論になった。議論のなかから、民主党内には「TPPを慎重に考える会」が設立され、自民党には「TPP参加の即時撤回を求める会」が発足した。今回は自民党の「即時撤回を求める会」の事務局長も務める山田俊男議員に聞いた。(聞き手は編集部)

◆TPP参加、即時撤回を求める

山田俊男・自民党参議院議員 11月4日に森山裕先生を会長、稲田朋美先生を幹事長に、自民党「TPP参加の即時撤回を求める会」を立ち上げ、私が事務局長を引き受けました。
 当然、党内にはさまざまな意見を持つ議員がいるし、世論の情勢もあるので、党としての見解はまとまっていませんが、しかし菅政権が進めている拙速な議論、矛盾だらけの基本方針に対して、しっかりした立場を示さなければいけない、このままでは日本が壊されてしまう、という思いの議員が集まりました。
 会の参加者はどんどん増えて現在は117人(11月17日現在)。党所属国会議員の半分以上が参加しています。
 すでに2度にわたる撤回を求める決議を出し、毎週、勉強会をしていく中で「これは農林水産業だけの問題ではない。人の移動から、政府調達、金融、通信のあり方まで含めて国の形が大きく変わってしまう問題だ」という共通認識が醸成されてきました。もっと危機感を持って取り組もうという声が回を重ねる毎に大きくなっています。もっと世間にアピールして、TPP参加をやめさせなければなりません。


◆農業への誤ったイメージが広がった

 菅政権は2つの許しがたい犯罪的過ちを犯しました。
 1つに、農業は改革の努力をせずに反対だけしているという誤ったイメージを、国民に植えつけてしまったことです。
 今もっとも怖いのは、最終的に農業批判だけが残るのではないか、という懸念です。
 仮に日本がTPPに参加しないことになったとしても、マスコミも経済界も巻き込んでこれだけの大混乱を引き起こしておいて最後は、農業が反対したから改革が進まなかった、農林族やJAがいるから話がまとまらない、という批判だけが残ったら、それは将来において大変な禍根を残します。生産者も大変な怒りを覚えるし、萎縮してしまいます。
 もう1つの過ちは、これまでWTO農業交渉を通じた「多様な農業の共存をめざす」という外交努力によって、世界から得てきた信頼を裏切ったことです。
 先日、TPP対策の検討のため韓国に行ってきましたが、もろ手を上げて対米、対EUのFTAを受け入れているわけではないという印象を受けました。
 農業にとって大きな影響は避けられないという危機感はありながらも、政府は韓国の経済成長を維持するためにはどうしても必要だからということで、10年間で21兆ウォン(約2兆円)の対策費を投じ、コメなどの重要品目は除外するといった防衛策を打ち出すことで農業団体を説得してきたとのことです。


◆世界各国の信頼を裏切った

 しかし対米、対EUともにFTAはまだ発動していないわけで、今後どのような問題が出るかは分かりません。
 また、韓国にもTPP参加への打診があったらしいのですが、キッパリと断ったそうです。両国の主張が生かせぬFTAの枠組みで話を進めてきたので、すべての関税や非関税障壁も撤廃するのはあり得ない話だという理由です。「日本は何を考えているのか、ぜひ教えてください」と皮肉めいた意見も言われました。
 日本はTPPの情報収集のため関係各国との協議に入りましたが、タイやインドネシアは明確に日本の動きに対して不快感を示したと伝えられています。インドだって日本とは5年にも及ぶ長い交渉の末、ようやく先日EPAを結んだばかりなのに、TPPでは即座に関税撤廃というのはどういうつもりなんだと、日本への信頼感が非常に揺らいでいます。EUも裏切られた、との思いがあるでしょう。
 経済成長は必要です。だからアジアや世界各国との連携強化や貿易に取り組んできたのです。これまで長い年月をかけてWTO交渉をやってきたのに、それを一瞬で壊してしまう。それがTPPなんです。


◆JAは現状分析、農業アピールをしっかりと

 JAグループは、3つの課題を持っていると思います。
 1つは、TPPが持つ危険性、現状分析をキチっとやることです。とりわけ工業界はTPP参加が経済成長につながると言っていますが、本当にそうでしょうか。わが国はすでに相当な市場開放がなされています。米など重要品目の関税率は高いけれども、農産物の平均関税率は12%ほどで、米国やヨーロッパ諸国と比較して決して高くないのです。工業製品だって全体でいうと3%程度と相当に低いのです。関税撤廃したところでプラスは少なく、円高が進めば吹き飛んでしまいます。一方で米国から保険、金融、資本、さらには郵政問題などへの介入があり、移民政策への注文などもあれば雇用の奪い合いが起きて最低賃金制度ですら崩されかねない。そういう怖さをしっかり分析しなければならない。
 2つ目は、農業と商工業の対立を解消することです。特に地方では、商工業と農林水産業はほとんど一体です。農業の果たしている役割をしっかり経済界に説明する必要があります。
 3つ目には、圧倒的に担い手の高齢化がすすんでいること、戸別所得補償制度が米価の下落を引き起こしていること、耕作放棄地が増えていること、などの諸問題に対して、JAグループはしっかり対策を示し、役割を発揮することが求められていることです。国民に理解され、支えてもらう農業づくりをめざして、地域実態に合った多様な担い手づくりと、創意工夫した生産・販売対策に取り組んでいく必要があります。

舟山康江議員のインタビューはこちらから

(2010.11.18)