特集

【第56回JA全国女性大会特集】地域といのちと暮らしを守ろう 女性たちの力で
座談会 女性役員登用でJAと地域が変わる(後編)

出席者
米森萬壽美氏(JA秋田やまもと代表理事組合長)
小澤稔夫氏(JAいるま野代表理事組合長)
吾郷生善氏(JA雲南代表理事組合長)
伊藤澄一氏(JA全中常務理事)
司会
榊田みどり氏(ジャーナリスト)

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【座談会】「女性役員登用でJAと地域が変わる」 米森萬壽美氏・小澤稔夫氏・吾郷生善氏・伊藤澄一氏・榊田みどり氏 (後編)

・総代の1割は女性にと背中を押すことで
・段階を踏んだ地道な努力を積み上げる
・耐えて耐え抜いた女性が動けば男性の倍の力に
・女性参画による多様な意見で地域をつくっていく

 「これからのJAの活動と女性たちの役割」をテーマに、女性参画に積極的に取り組んでいるJA秋田やまもとの米森組合長、JAいるま野の小澤組合長、JA雲南の吾郷組合長とJA全中の伊藤常務に集まっていただきお話いただいた座談会の後編をお届けする。

JAトップが決断し機会をつくること

パワーを外に向け発揮すればもっと大きな力に


◆総代の1割は女性にと背中を押すことで


 榊田 全国にはまだ女性役員ゼロという女性の力を活かしきれていないJAも5割近くありますがこうしたJAや中央会に何かアドバイスはありますか。
 米森 最初は制度的に総代や理事の女性枠をつくって、女性が出る機会をつくり、そのための勉強会を開くとか、そういう決断をトップが行なうかどうかではないでしょうか。
 それとJA理事の責任を担えるかどうかという女性が多いです。これは旦那さんとの話し合いのなかででてきている問題だと思います。だから、理事の責任についてもう少し細かく理解してもらう努力をしなければならないと思います。
 吾郷 機会をつくり背中を押さないとだめでしょう。できるだけ女性総代を出してくださいではなく、この地区からは必ず1割は女性総代を出してくださいと制度的にでも枠を決めて進めないと、なかなかうまくはいきません。
 榊田 小澤さんのところは7地区から1人ずつ理事が出ていますが、何か秘策があったのですか。
 小澤 秘策はありませんが、7つの地区それぞれから女性理事を1人出してください。それは女性部の部長とかでなくていいですから、女性のリーダーから…と提案しました。選出された人は旦那さんが了解しています。
女性理事等数の推移 榊田 夫の理解があるわけですね。
 小澤 それは大事なことです。それから、厳しいことをいう男性理事がいますので、月1回女性理事だけで集まって勉強会をしたりして自らを磨いているわけです。
 吾郷 平成5年の合併のときに女性理事の枠をつくりました。ある程度実績がでてくれば、周りも認めざるをえなくなります。
 小澤 合併した後、男の理事を減らしなさいということで大変な議論をして減らしました。そうしたなかで女性を7名理事にしてきたわけです。
 吾郷 女性部の会長とか言わず、地域の女性として出さないとダメです。
 米森 女性部の活動には積極的に出てくるのに、理事会ではトーンダウンしてしまう。それは理事の責任の問題とか、旦那が出たいのに私が出るわけにはいかないとかいう問題があるわけです。
 小澤 理事の責任問題をいわれると、理事になる人は誰もいなくなると思います。経営者ですから理事に責任はありますが、そのために保険にも加入しているわけです。
 規定に基づいてきちんと運営していけば、責任問題とかはほとんど起こらないと思います。いろいろな人がいますけれど、全員の力で運営していかなければいけないと考え、女性理事さんたちも勉強をしてがんばっているわけです。

 


◆段階を踏んだ地道な努力を積み上げる


JA秋田やまもと代表理事組合長・米森萬壽美氏 米森 共済などで家庭を訪問しても最近は奥さんに話を振られるなど、JA事業の流れは確実に女性中心に傾いています。そうなるといままでのように女性部のなかの活動だけで、いろいろな課題を解決しようと思ってもダメで、事業を通したなかで解決していく必要がある。そのための女性リーダーを育てていかないといけない。そうするためには“壁”があり、それをどう解決していくかがJAの常勤役員の仕事だといえます。
 小澤 女性組織が一つになるとかなりのパワーがありますが、そのパワーを女性組織のサークルだけではなく、外に向けて発揮するともっと大きなパワーになります。女性の力を借りることで達成できた事業がいくつもあります。
 榊田 影の決定権をもっているのは、家庭でもJAでも女性かなという気が、お話をうかがっているうちにしてきましたね。
 米森 ただ、女性の弱さをみることがあります。それは一所懸命旦那さんと仕事していて、ほとんど女性が中心なのに、旦那さんがケガでもしていなくなると、続けられない。つまり旦那さんの指示で手足を動かしているからなんですね。
ジャーナリスト・榊田みどり氏 榊田 女性の意識改革も必要ということですね。
 米森 財布やなにやらみんな持っているわけですから、あとは、モノをつくる最高のレベルのところを理解してもらい、これを乗り越えると心配はなくなるんですがね。そのとき男性がどうなるかは分かりませんが…(笑い)。
 伊藤 JA組織も、平成10年前後に、今日のJAの姿を形作る大きな広域合併をおこなっています。そしてそのなかから、女性の力をより今日的に広げていくための条件をつくりあげてきました。この間、10年あるいは15年経ってきました。そして全国が期待している基準に今日ご出席の3JAは到達しているということだと思います。
 そういう意味では、長い時間をかけながら、組合員化とか総代になってもらうとか、必ず地域から女性理事を選出するために地域のなかで議論をするとか、段階を踏んだ地道な努力をされてきていることを強く感じました。

 


◆耐えて耐え抜いた女性が動けば男性の倍の力に

 

JAいるま野代表理事組合長・小澤稔夫氏 榊田 最後に、JAの女性の方々へのメッセージをお願いします。
 小澤 先ほども話しましたが、女性に生まれて見ず知らずのところに嫁に来て、炊事洗濯、子育てをしながら農家の仕事をする。女性が一番大変だと思います。これに耐え抜いてきた女性の皆さんですから、この人たちが動かれれば、男性の倍の力がでてくるのではないかと思います。ですから、耐えて耐え抜いてきた女性の力を、子育てを終えられた方がJAに力を入れていただければと考えています。
 全国の女性の方々には、女性は強いという自信をもってがんばっていただきたいと思います。
 米森 女性のなかで、もう一度、自分たちでやらなければならないことはなんだったか、何回も議論した方がいいと思います。そこから出た意見などを、中央会がきちんと見極めてもらいたい。
 いま地域は変わってきていますから、いままでこういう風に決まってきたからこれでいいではなく、例えば「綱領」はこのままでいいのか、もう一度見直して、これでいいならいいと意思統一した方がいい。そういういいチャンスだと私は思っています。
 大きな大会に参加するためには、“出なければならない”でまとめるのではなく、時間をかけ下から意見を集約していくことが大事です。それは、JAでもいえることで、事業連も中央会もただJAにだけ発信していて、組合員に対する発信はこれでいいのかと思います。連合会も一番下の組合員のところまで入って議論することが大事だと私は思います。
JA雲南代表理事組合長・吾郷生善氏 吾郷 仲間をつくって組織を大きくすることだと思います。とても素晴らしいものをもっているけれども、それが集約されていないような感じがします。仲間づくりにもう少し力をいれる方法はないかなと思います。私のところでも、地域ごとの濃淡があります。そうすると地域のリーダーに一つのポイントができたらぐんと伸びるのではないかと思います。何か、そういうきっかけがないだろうかと考えています。
 榊田 そのポイントがなにかですね。
 吾郷 “この指とまれ”というときに“魅力ある指”がないと、と思っています。
 榊田 その指を女性たちがもう一度考えるということですか。
 吾郷 女性の力がないとやっていけないことは、分かっていますから。
 榊田 最後に伊藤常務から、今日の話を聞かれてどう感じられたかも含めてお願いします。

 


◆女性参画による多様な意見で地域をつくっていく

 

JA全中常務理事・伊藤澄一氏 伊藤 女性の力を借りてJAを変えていく、事実に基づいた詳細なお話をいただき感銘いたしました。
 いま地域やくらしにかかわるTPP問題が起こっています。これは農業だけの問題ではなく、地域のくらしがどうなるかという点で、女性の意見を十分聞かなければいけない問題だと思います。昨年のJA女性理事等研修会に出席された256名の女性役員等がTPP反対について申し合わせをして、今回のJA全国女性大会でも反対の決議をしようとされているからです。
 TPP問題は、農業の復権とか地域の再生というJA大会の決議と真正面から衝突するものです。農業も地域再生も、その中核には女性がいます。女性の声なしには、農業や地域の本音を反映できないと思います。
 女性は、くらしの活動の実践者で、食農教育をはじめとして様々な分野で活躍いただいています。これはもうすでに“内務”ではなく、立派に“外務”つまり表に出た仕事です。介護など高齢者福祉や助けあいの分野では女性が特に重要な役割を担っています。介護保険事業が10年前にスタートした時、8万人もの女性がホームヘルパー資格を取得しましたが、それがいまは12万人に増えています。この皆さんがサポーターになりJAは介護保険事業を進めてきました。
 今、農村は超高齢社会ですから、都市部で高齢者問題を担当している人、またこれから高齢化に向かう世界の国々が日本の農村に注目しています。日本の農村部で医療・介護問題がスムーズに進むシステムができれば、それは世界を助けることになります。また都市部がそれを応用すれば、「無縁社会」を変えることもできるでしょう。JAグループには、高齢者生活支援とか助けあい組織が全国に700あって、約4万人の女性が参加しています。都市部の無縁社会化、高速で進んでいる農村部の高齢化を含めて、都市も農村も不安社会のど真ん中にいる。これと戦っているのがJAグループであり、その重要な役割を担っているのが女性です。農村地域の生活やインフラを誰が守っているのか、ということを訴えていきたいと思っています。これをJA経営のなかに聞き入れて、それによって政策をつくりあげていくのは当然だと思います。
 女性の理事枠を設けるために定数を増やす定款の変更が平成24年まで可能になりました。これを活用して人材を登用し、諸問題の解決に取り組んでほしいと思います。
 それから全国で女性部員は現在72万人いますが、その2割しか正組合員になっていませんので、組合員加入を進めたいと思います。母体が大きくなれば、それによって女性総代や役員が増えていきます。構成員が増えることで、多様な意見をもとに地域をつくっていくことができます。
 本日は、3人の組合長さんにおいでいただき、これからのJAグループが地域に無くてはならい存在となるために重要な「女性の参画」について、示唆にとんだお話をいただきました。ありがとうございました。

【座談会】「女性役員登用でJAと地域が変わる」

前編はこちらから

(2011.02.10)