特集

地域といのちと暮らしを守るため 結集しよう!青年の力を
青年部座談会・JA糸島(福岡県)

出席者
古家 貴喜さん(35歳・JA糸島青年部長)
末住 直道さん(28歳・普通作専門部長)
高橋 伯明さん(33歳・普通作)
小金丸 洋さん(24歳・水稲・麦)
司会
村田 武氏(愛媛大学社会連携推進機構教授)

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【青年部座談会】糸島水田農業の若手担い手「TPPを語る」  働き盛りの10年後はどうなる?! TPPの不安

・平均29歳の青年部
・農機投資への不安も
・地域団結の努力で
・一生懸命呼びかけを

 10年をメドに関税の完全撤廃を条件とするTPPにもしも日本が参加するならば、現在の農業者はもちろんのこと、それ以上にこれからの農業を背負っていく若手後継者には大きな影響と重い不安がのしかかる。
 JA糸島の基本理念にあるのは「農業振興で豊かな地域社会の実現に貢献」すること。次世代に受け継がれる地域ブランドのシンボルとして、平成19年に○糸マークを正式に商標登録し、生産者の糸島産に対する誇りは高い。青年部も部員数93人、平均年齢29歳と若い活気にあふれ、次世代の土台はしっかり作られている。
 今回は青年大会特集号の企画として、青年部のみなさんに集合してもらい、青年部の取り組みやTPPについて思うことをテーマに座談会を開いた。
 自分らしい農業を確立していきたいという希望ある思いの一方で、立ちはだかるTPP問題への不安の声が多くあがった座談会は、知識の収集や地元消費者への情報発信など、一層団結してTPPの本質理解へ始動するひとつのステップとなった。
 司会を務めていただいた愛媛大学社会連携推進機構の村田武教授には、これからの青年部に向けたエールを含めて提言していただいた。

国づくり・地域づくりに関わる危機

未来に残せる糸島農業を築きたい

参加していだだいたJA糸島青年部 普通作専門部のみなさん(順不同・括弧内は生産作物)


◆平均29歳の青年部


古家 貴喜さん(35歳・JA糸島青年部長) 村田 まずは青年部長からJA糸島青年部の活動報告をしてもらいましょう。
 古家 糸島という土地柄、多種多様な作物があるので、みんながかかえる問題を挙げればきりがないのですが、組織のタテとヨコのつながりを大切にしながら一人立ちする前の勉強の場だと思って活動しています。
 村田 そのなかでも「糸島青年部らしさ」というならば…?
 古家 若さですね。平均年齢が29歳と、全国的にみてもこんなに若い青年部は珍しいと思います。青年部員93人のうち、普通作部会が16人と高い割合なのも特徴です。私も水稲15haとキャベツ8haを両親と弟で営んでいます。
 村田 地域住民への環境対策として、未来の子どもたちのために農業・農村・食の大切さを伝えようと手作り看板を設置しているそうですね。
 古家 各支部単位で消費者に向けたアピールをしようと、思い思いの看板を毎年作っています。今年は直売所「伊都菜彩」に設置しています。
 村田 青年部はどのくらいの頻度で集まっていますか。
 高橋 月に一回くらいです。機械展示会や水稲生育調査を目的にしたお互いのほ場回りをしています。ほ場回りにはJAの営農指導員にも付き添ってもらい、技術研修も兼ねています。
 末住 ほ場回りをすることで、反収増や高品質といった部員間でのよい競争にもなっています。
 村田 93人いる青年部員は、どのような経営の後継者ですか。
 古家 100%専業農家の担い手です。
 村田 専業農家の青年が全員参加とは元気がいいですね。そのほかの活動はどうですか。
 古家 組織の結束を深める目的でレクレーションとしてソフトボール大会を開き、支部や部員間の親睦を図りました。秋には市内近郊の独身女性と交流会を行いました。16人に参加していただいてハーブガーデンでアロマフレグランス作りやソーセージ作りで交流し、2カップルが成立しました。
 村田 青年部として非常に意味のある重要な活動ですね。
 古家 これからの青年部としては、部員みんなから意見をもっと出してもらって、“部員たちで作る青年部”でありたいというのが願いです。

 

◆農機投資への不安も


 村田 では今問題になっているTPPについてどう思っているか発言してもらいましょう。
高橋 伯明さん(33歳・普通作) 高橋 まだ勉強不足というのがあるのですが、実際参加したときにどうなるのかが正直わかりません。「ここがこうだから反対しなければいけない」という明確な反対の指針となる情報がほしいです。
 村田 私たち国民にTPPの柱が見えないのは確かにあります。おそらく高橋さんの意見が国民の代表的な意見で、参加したときにどうなるのか、ということを政府がはっきりいわないのでわからないということでしょうね。
 末住 糸島は大規模農家が多いので、みんな先を見据えながら機械投資をしています。私も水稲7ha、大豆5ha、大麦18haを作付していますが、農業機械へ投資しながら経営していますので、TPPがもたらすマイナスの影響を耳にすると、どうしても投資を踏みとどまってしまうといった思いが出てきます。少しずつ更新しているものの、ここ3年でトラクター2台を購入し1150万円かかりました。そのほかにも国の補助を利用して購入したコンバインの経費1000万円などもあります。農機具を入れる格納庫を建てたいと思っているのですが、費用のことを考えるとやはりなかなか難しいです。
 村田 規模拡大で「強い農業」を、と菅首相はいっていますが、機械投資をしながら先行きが見えないまま―という状況はTPPの危惧要因そのものですね。
 古家 農業や医療関係者は反対している一方で、経済界は「推進してくれ」といっている報道も目にします。勉強してみると、TPP参加は日本に悪い影響を及ぼすとしか思えないのですが、どう日本に具体的な影響が出るのか、実際のところはわからないので歯がゆい思いです。
 村田 突然浮かび上がったTPP問題に、主要各紙が足並みそろえて「TPP賛成」と報じたのは異様な光景でした。一方で地方紙は主要産業とする農業がやられたら地域経済が崩壊してしまうのでその危機を取り上げて報じています。

 

◆地域団結の努力で


小金丸 洋さん(24歳・水稲・麦) 小金丸 まだ就農して4年ですが、TPPに入ることで先が見えない不安があります。うちは米と麦を中心に経営しているので、価格下落対策としてのセーフティネットは作ってほしいです。
 村田 農業で一番先に打撃を受けるのは米でしょう。現在は1kg当たり341円の関税で守られていますが、これを例外なく関税ゼロにされれば、安い米が外国から入ってきて経営は太刀打ちできなくなってしまいます。
 高橋 アメリカや中国に日本の米の種子や技術を持っていったことで、今「アメリカ産コシヒカリ」などが日本に入ってきていますよね。このTPP問題が浮上したことで、アメリカに日本の種子を出してしまったことが自分たちの首を絞めることになってしまったように感じます。同じ食味の安い米と競争することになりますから…。
 末住 これまで米が1kg当たり341円の関税で守られていることへの認識が不十分でした。やはりTPPがもたらす影響を恐ろしく感じています。今でも米が余っているのに、TPPでさらに安い米が入ってくれば農家の苦しみは目に見えています。
 古家 米をはじめとする国産農産物が安心・安全であるということを国民にもっと理解してもらいたいです。日本の農産物の良さを理解してくれれば、きっと消費者は買ってくれると思いますから地域農業を守り、発展させていくためにも地域での団結力は大切だと考えています。
 小金丸 TPPのような状況を突破するにはコストや栽培管理の徹底を個々の農家の努力にとどめず、糸島地域全体でまとまって努力していくことが必要だと思います。
 古家 3年前に日豪FTA・EPAの反対街宣活動を行いましたが、TPP問題が出てきた今となっては、それがかわいいとさえ感じられます。
 村田 日豪FTAは検討を繰り返してずっと平行線のままですし、締結した場合の問題点が出てきたのに、TPPについては「農業改革と両立できる」、「国益になる」というばかりです。政府内でも意見がまとまっていないので、TPPに参加したらどうなるのか誰も想像できていないのでしょう。政府は都市や農村がどうなるのかという青写真の判断材料を国民に出して、「TPPとはこういう経済連携協定なのだ」ということをちゃんと国民に知らせるべきです。
 小金丸 農業者だけが関心を持っていて普通の国民の関心が薄いという気がします。メディアからもっと国民全体へ発信するよう求めたいです。
 村田 日本には1億2700万人も人口がいて、農業がつぶれたら大変なことになるということを農業陣営が掲げても、国民は残念ながらまだ完全には理解してくれていないのが今の現実です。TPP賛成論者は口をそろえて「TPPに参加すれば日本は強くなる」と理由なしにいいますが、儲かるのは自動車産業をはじめ大企業ばかりです。TPPに参加して農業を立て直す指針に、「日本の農家の技術は世界一だから中国の富裕層を中心にちゃんと輸出できる」と政府はいうと思います。しかしTPPに中国は入ろうとはしませんから、アメリカとの貿易が中心となるのがTPPです。アメリカに、日本の米を買ってくれといっても無理な話です。

 

◆一生懸命呼びかけを


末住 直道さん(28歳・普通作専門部長) 古家 農業は農産物販売による経済効果だけではなく、豊かな景観や涵養機能、防災機能などで恩恵を与えているということを、国民にわかってもらいたいです。近い将来、カリフォルニア米を食べながら日本の荒れ果てた自然に遭遇して、ようやく農業が生活にもたらしていた役割に気がつく…という矛盾したことが現実に起きるのではないでしょうか。このままでは日本人に愛国心がなくなってしまうような気がします。
 高橋 TPPの議論は日本の米文化を考え直すいいチャンスでもあると思います。子どもたちに田んぼやお米のすばらしさを伝えるだけでなく、米の生産調整政策のために麦で所得を上げているという現状を踏まえたうえで、生産者としても糸島の米作りをもう一回考え直すいいきっかけだと思います。
 小金丸 TPPは目先のことしか考えていません。自分たちが働けるのは食料が作れる環境があるからだと思いますし、糸島の自然の中で育った自分としては、子どもにもこの自然と農業を残し、つなげていきたいと思います。
 今、企業の農業参入も盛んです。資金力・貿易力のある企業が今後ますます入ってくるようになったときに、自分たちが生きていけるのかということにも不安があります。いつか「糸島産」が自分たちの手から離れ、企業の手に取って代わられるのではないかと。
 末住 TPPにもし参加したならば、関税がゼロになる10年後、我々青年部員は30代、40代のまさに働き盛りです。そのときに自分の力で食べていけなくなるということは恐ろしいことだと感じています。自分の農地を子どもの代にも残していきたいと思っていますが、その前にTPPで土地が荒れる姿を目にすることの方が先にくれば、そんなことをいっていられなくなります。
 高橋 日本は水田農業がやっぱり基本だと思います。それなのに輸入米が主流になるのはおかしいことで、衰退させないためには、少し高くても品質の高い米作りを維持していくしかないと思います。
 古家 TPPは消費者にも20カ月齢以上の輸入牛肉や遺伝子組換え作物、残留農薬など、アメリカ基準の規制緩和による影響や被害が出てくると思いますから、そのことが消費者に伝わるように私たちが声をあげて一生懸命呼びかけていきたいと考えています。
 村田 TPPへの参加は稲作経営を営むみなさんが経営移譲されてこれから…というときに相当お手上げな事態となるでしょう。明るい未来なき断崖絶壁が待ち受ける状況を打ち破るためにも、これからを担う若いみなさんにはTPP参加について怒ってもらわなければいけません。JA女性部や生協組合員など、身近な消費者の方々との交流をもって農業サイドから理解を図っていってほしいと思います。

 糸島水田農業の若手担い手「TPPを語る」

●参加していだだいたJA糸島青年部 普通作専門部のみなさん(順不同・括弧内は生産作物)
林耕作さん(水稲・麦・野菜)・三坂哲弥さん(水稲・野菜)・徳永伸之さん(普通作)・末住直道さん(水稲)・三島常正さん(イチゴ・水稲)・佐々木正幸さん(水稲)・高橋伯明さん(普通作)・波多江智義さん(水稲)・兼松司さん(普通作・蔬菜)・古家貴喜さん(水稲・キャベツ)・吉住圭樹さん(水稲)・松崎治久さん(水稲・麦)・古川安則さん(水稲・養豚)・小金丸洋さん(水稲・麦)・波多江晃裕さん(普通作)

※松崎さんの「崎」の字は正式には旧字体です。


座談会を司会して

知れば知るほど無茶なTPP
―稲作を担う青年の期待を裏切る菅内閣


 JA糸島青年部は、部員93名で、専業農家の青年を100%組織している。うち水田農業が基幹部門である「普通作専門部」の部員は16名を数える。部員全体の平均年齢は29歳というから、ほんとうに若いメンバーが中心の青年部である。全国の農協青年部のなかでもその若々しさでは有数であろう。16名の稲作農家は、4割減反のなかでも、いずれも稲作がほぼ10ha以上、麦・大豆の栽培面積がこれまた10ha以上、それにキャベツやブロッコリーが数ヘクタール、さらにイチゴを加えて、水田利用率が150%、200%という、まさに米麦二毛作地帯福岡県農業の代表的「精農」であり、これからの日本農業の頼りになる担い手そのものである。

◆政府に失望の声

 私は、福岡市の西隣の糸島市で、このJA糸島青年部普通作専門部のメンバーに、「TPPは関税を10年で全廃するというウルトラ・ハイレベルFTAだ。ということは米関税341円がゼロになり、主食用として国産米に匹敵するレベルのアメリカ産米が精米60kg5000円を切るような超安値で入ってくるということ。糸島水田農業の中核的経営の後継者であり、すでに農作業を中心的に担っている皆さんはどう考えるか」という質問をぶつけてみた。
 この数年の間に、農業機械投資が2000万円を超える28歳の後継者は、「10年後に自分は働き盛りの38歳だ。米関税ゼロではどんな経営をすればよいのか。一番の働き盛りに食べていけなくのが恐ろしい」と答えてくれた。TPPは、これからも規模拡大をめざしたいとする後継者のやる気を削ぎ、経営の将来見通しを持てなくしているのである。座談会に参加した専業稲作青年の誰一人として、規模拡大してコストを下げれば国際競争力をあげて輸出に活路を見出せるのではないかなどとは考えてはいなかった。「ひょっとすると、菅首相は、糸島農業の担い手も、われわれ家族経営ではなく、農業に参入する企業に担わせればよいと考えているのかもね」との意見もあった。

◆世論誘導への不満

 彼らにとってほんとうに心外で情けないのは、前原外相の「農林水産業はGDPの1%だ」発言である。農業が、食料生産だけでなく、農地を守るなかで環境・自然の保全機能を担っていることを全く無視して恥じない態度であるのには、心底驚かされるとともに、民主党の若手政治家のなかにそのような考えがあることに情けなく思うということであろう。「菅首相がTPPで日本が丸裸になることの意味をどれだけ理解しているのだろうか」という疑問の声も出された。TPPが例外や特例事項を認め合うFTAやEPAとまったく異なって、例外なき自由化・関税ゼロだということは、民主党政権の食料自給率50%をめざすという「食料・農業・農村基本計画」の推進の道からの脱線・逆コースであり、農業再生とTPPは両立しないと思わざるをえない。ところが、菅首相は、「私はそのような二者択一論はとらない」というばかりで、まともに疑問に答えようとせず、「第三の開国」とか「平成の開国」の大合唱で覆い隠そうとしている。とくに糸島の稲作青年がおかしいと感じているのは、菅首相がTPPとの両立を可能にするという「農業改革」の具体像の提示を6月まで引き伸ばす一方で、「バスに乗り遅れるな」と、TPPに参加する以外にわが国の政治選択の道がないとの世論誘導に狂奔していることである。

◆地域運動の旗手に

 ところで、農業青年が心配しているのは、政府やマスコミの「TPP参加を妨害しているは農業だ」という宣伝を消費者は真に受けているかもしれないということである。しかし、消費者は、関税だけでなく遺伝子組換え食品の表示義務、BSE(狂牛病)の危険部位や20カ月齢を超える牛肉の輸入規制、農薬の残留基準など、アメリカが貿易障壁と考えるものが、TPPに参加すれば丸ごと撤廃を迫られることになることを知らされていないのではないか。自分たちは、知れば知るほどTPPは無茶ではないかと思う。食の安全・安心が根底から揺るがされることを知ってもらえれば、消費者は立ち上がってくれるのではないかと思うという。農業者として、輸入品に品質で負けないしっかりした作物づくりで消費者に向き合おうという意見が聞けたのはうれしいかぎりであった。
 農協、青年部、女性部をあげて、糸島市民に広くTPPの本質を知らせていく運動が必要であろう。青年部の皆さんが、TPP反対の署名運動を市民にTPPを知ってもらうチャンスにするようがんばってほしいというのが、座談会を司会した私の願いである。
村田 武

(2011.02.22)