特集

どうなるの? 日本の農業・農村【図解・TPP―その壊滅的な影響】

一覧に戻る

【図解・TPP―その壊滅的な影響】どうなるの? 日本の農業・農村  食料自給率はなんと13%まで下がる!

・復興の足かせにしかならない!
・350万人の雇用喪失
・米生産は壊滅的に
・製粉メーカーにも大打撃
・砂糖は国産品ゼロに
・牛乳の安定供給にも影響
・国産牛肉も残るのは高級品のみ

 関税撤廃を原則とするTPP(環太平洋連携協定)に参加すると米は9割が米国産など外国産に置き換わって、食料自給率は13%(林産物・水産物を含む)まで低下するというのが農林水産省の試算だ。農林水産物の生産減少額は4兆5000億円程度(同)と見込まれている。
 この試算はTPP協定を締結し農産物の関税を撤廃しても何の対策も打たないケースで試算された。
 この点についてこれは極端な試算であり、貿易自由化に備えて規模拡大などを支援し直接支払いを充実させる国内対策を打てば「開国」と「農業再生」は両立すると菅政権は主張してきた。しかし、わが国農業を市場原理主義にさらし、それを財政で支援し続けるということは可能なのだろうか。農業者の意欲が育まれ、消費者の求める安心・安全な農産物の安定的な供給は実現するのだろうか。
 ここではTPP参加によって農業・農村がどうなってしまうのか、農林水産省などが示した試算を解説する。

◆復興の足かせにしかならない!


 農林水産省の試算は関税率が10%以上で生産額が10億円以上の19品目を選んだ。米、麦、牛乳乳製品、牛肉、豚肉などだ。
 そして国産品を内外価格差と品質格差の点から▽輸入品と競合する国産品と▽輸入品と競合しない国産品、に分類した。
 試算の方法は、(1)競合する国産品は輸入品に置き換わる(生産減少額=国産品価格×生産量)、(2)競合しない国産品は安い輸入品の流通によって価格が低下する(生産減少額=価格低下分×生産量)とした。データは把握されている各品目価格の直近5年間の最大と最小を除いた3年平均などで平準化した(5年中3年価格)。
 試算の結果、農産物の生産減少額は4兆1000億円程度(林産物1品目・水産物13品目を入れた試算では4兆5000億円程度)となった。
 カロリーベースの食料自給率は現在の40%が13%まで低下する。
 国土保全や水源の涵養機能など農業の持つ多面的機能は、日本学術会議の評価(平成13年)では約8兆2000億円となっていたが、関税撤廃によって農業生産が壊滅的打撃を受けると、3兆7000億円程度が失われてしまう。
 農地は現在の460万haが230万haと半分になってしまう可能性もあるという。
 農地の洪水防止機能が失われれば、都会の河川の氾濫リスクは高まり、都市生活・住民への影響は今以上に大きくなるだろう。
 2010年10月には、名古屋市で生物多様性条約締約国会議(COP10)が開かれ、「生物多様性の損失を止めるために緊急の行動を起こす」ことが決議された。水田が荒れ「田んぼの生き物」がいなくなれば、わが国はこの国際目標にも反することになる。

復興の足かせにしかならない!

 

◆350万人の雇用喪失


 試算では関連産業分析によって、国内総生産額(GDP)の減少についても示した。
 それによるとGDPは7兆9000億円程度の減少が見込まれている。農業とその関連産業への影響では340万人の就業機会が失われるという結果だ。
 このうち農業関係者が260万人で、食品産業が10万人、卸売関係者が20万人などの内訳になっている。運輸関係への影響も大きい。
 林産物・水産物を含めた試算では雇用喪失はさらに10万人増えて350万人と試算されている。
 東日本大震災の被災地は農林水産業が地域経済の核になっている東北地方。北海道とともに日本の食料基地を担ってきた。復旧・復興への取り組みが日本全体にとっての大きな課題となっている今、関税撤廃が原則であるTPPの参加は「復興と農業再生への足かせ」にすぎない。


(注:上の試算には林産物・水産物を含んでいない)

 

農業生産額 4兆1000億円も減少

 

◆米生産は壊滅的に


 米については、国産品価格を1kg247円(06年08年産の3年平均価格)とし、輸入品価格を同57円(中国産短粒種SBS入札価格(玄米)の過去最低価格)で試算した。
 これによれば内外価格差は4倍強。今回、輸入品価格のデータとした中国産短粒種は、現地価格ではkg23〜48円とこの試算値データよりももっと安いという。海上運賃を考慮してSBS入札結果のkg57円を比較データとして使った。
 試算の考え方では、こうした外国産米でも今後の品種転換によって国産米との品質格差は解消されていくと見込んだ。
 一方、この価格水準の米国産米は輸出量が約400万tあり、これにタイ、ベトナムなどアジア諸国の輸出量を含めると800万t程度のわが国の米の生産量を上回ることになる。
 こうしたことから国産米の9割は外国産米に置き換わってしまうという予測だ。
 残るのは新潟コシヒカリや有機米などこだわりの米で、もともと平均的な国産米価格より消費者の支持があって高く販売できたもの。それも外国産米の輸入増加によって価格は39%(kg288円→同177円)低下する。
 こうした結果、米の生産額は1兆9700億円減少する。

米生産は壊滅的に

◆製粉メーカーにも大打撃


 国産小麦は輸入品競合するものは、kg113円で試算(国内産中力粉の0509年の5年中3年平均価格)。外国産は同45円とした(中国産小麦粉の0509年のFOB(船賃・保険料など込み)価格)。
 現在、小麦は国家貿易品目として国の管理のもとで小麦として輸入し国内で製粉されている。
 この試算での内外価格差は2倍強で、これは原料小麦価格を含めない国内の製粉コストとほぼ同じだ。したがって関税(kg55円)が撤廃されれば、コストがかかっても小麦ではなく小麦粉として輸入しても国産小麦粉を席巻できることになる。
 こうしたことから国産小麦の99%は外国産に置き換わる。
 重要な点は小麦粉での輸入となると、農業者だけではなく国内の製粉メーカーにも大きな影響があるということだ。
 残るのは差別化が可能な約1%のこだわりの小麦だけとなる。このとき輸入小麦から徴収している輸入差益(マークアップ)約800億円もなくなる。現在、輸入差益は国産小麦の生産振興などの予算に当てられている。

製粉メーカーにも大打撃

 

◆砂糖は国産品ゼロに


 砂糖の試算では国産品がkg167円とした(05年09年の市中相場の5年中3年価格)。一方、輸入品価格は同52円(05年09年のロンドン白糖価格)。
 内外価格差は約3倍で、これはサトウキビなど原料糖の価格を含まない国内の精製コストを下回る水準。現在は粗糖が輸入され(関税kg71.8円)、国内で精製されている。精製糖での輸入にはkg103.1円の関税(または調整金)がかかる。
 しかし、関税が撤廃されれば精製糖で輸入されるようになるだろう。今の内外価格差からすれば、国内での精製コストよりも安い精製糖が入ってくることになる。
 砂糖は国産と外国産で品質格差はない。その結果、国産糖のすべてが外国産に置き換わり、国産甘味資源作物の取引はなされなくなる。生産減少額は1500億円の見込みだ。

砂糖は国産品ゼロに

 

◆牛乳の安定供給にも影響


 バターと脱脂粉乳、チーズなどの乳製品は内外価格差が大きい(国産バター・脱脂粉乳kg63円、豪州・NZ産同19円で約3倍)。
 しかし品質格差がないため関税撤廃となれば国産のほぼ全量が外国産に置き換わる。
 試算では、輸入乳製品が急増して行き場を失った北海道の乳製品向け生乳が、都府県の飲用向けに振り向けられることになり、都府県の生乳生産はこだわり牛乳などを除きほぼ消滅するだろうとした。
 ただ、飲用乳も輸送技術が発達すれば輸入が可能となり、価格も国産の2分の1程度であることから、業務用牛乳、加工乳などを中心に国産の2割が外国産に置き換わるとされている。

牛乳の安定供給にも影響

 

◆国産牛肉も残るのは高級品のみ


 国産牛肉と外国産牛肉の内外価格差は3倍程度。
 関税撤廃となれば、肉質3等級以下の牛肉は外国産牛肉に置き換わると試算された。3等級以下の肉は、乳用種のほぼ全量と和牛の約半分で生産量の75%を占める。
 肉質4等、5等という上級品は残るという試算だ。しかし、牛肉の産地がすべて4等、5等級を出荷しようとすれば生産過剰となってマーケットで値崩れすることはないのだろうか。
 関税撤廃によって畜産振興予算にあてている牛肉関税約700億円も喪失する。

国産牛肉も残るのは高級品のみ

(2011.06.14)