特集

地域と命と暮らしをまもるために 協同の力で人間を主人公とした被災地の復興を
福島の原発事故から学ぶ

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【インタビュー】消費者の視点から考える原発 加藤好一氏・生活クラブ事業連合生活協同組合連合会会長

・一番の支援は共同購入を維持し持続すること
・自主基準に基づく運用ができない「非常事態」
・自主検査機能を強化し、すべての情報を公開する
・安全安心は運動してきた結果に過ぎない

 東日本大震災と東電福島第一原発事故は、国内有数の食料供給基地である東北や北関東に大きな被害をもたらし、首都圏を中心とした消費地にも大きな影響を与えた。とりわけ原発事故による放射性物質の拡散は多くの消費者に食への不安感を惹き起こしているといえる。こうした事態を消費者の立場でどう考えるのか。この事態を「非常事態」と位置づけ独自の対応方針を打ち出している生活クラブ生協連の加藤好一会長に聞いた。

自ら判断することができる
「自覚的消費者」に

◆一番の支援は共同購入を維持し持続すること

toku1108021101.jpg――東日本大震災そして東電福島第一原発事故が起きてから4カ月が経ちました。この間を振り返って何をお考えですか。
 「生活クラブは東日本を中心に組織をしています。だから組合員も、主要な提携生産者も東日本に大勢います。その東日本を象徴するような三陸海岸を大津波が襲った。そのテレビの映像を見つめながら、震災直後の連絡が取れない被災地の状況に心を痛めました」
 「様子が分かるにつれて、一部に被害はありましたが、基幹インフラには問題がないことが確認できたので、翌週の月曜日から一部欠品はありましたが、通常の供給活動とともに被災地支援活動にいち早く入れました」
 「その後の2カ月くらいは、被災地支援と提携先の復旧・復興、そして共同購入事業を継続・維持することが最大の被災地に対する支援であるという観点に立ち、取り組んできました。一方で被災地の組合員と提携生産者には驚かされました。復興に向けた動き出しが実に早かった。そのパワーはいまも持続していて本当に頭が下がります」
――一番の支援は共同購入を維持し持続していくことだと…
 「基本的な考え方は、水産物を含めて主要品目と位置づけている国産の一次産品の主要な生産者が東北と北関東に多くいる。だからこそ、共同購入による組合員の利用を維持していくことが最大の支援だということです」
 「その延長線上で、来年の国際協同組合年で、協同組合間協同で被災地の支援として何ができるのか。世界から注目されている中で、日本の協同組合の役割が問われているということも考えて、基本方針としてきたわけです」


◆自主基準に基づく運用ができない「非常事態」

――地震と津波の被害に加えて、原発事故が起き、“非常事態”にあるという認識を示し、原発問題についての対応方針を総会で決められました。
 「原発事故によって、従来の対応ができなくなってしまい、その状況を強いられる情勢は非常事態であって、平時の状態で掲げてきたこと、とりわけ食品放射能汚染に対する自主基準値(セシウム37Bq(ベクレル)/kg)が維持できない。そのことを組合員に理解してもらうために“非常事態”という表現をこの間、繰り返し使ってきました」
――自主基準値を決められたのは…
 「1986年のチェルノブイリ原発事故の際に、8000km離れた日本にもセシウムが飛来し、国内の農産物が汚染されましたし、輸入食品でも汚染されたものが入ってきました。そのときに国が370Bq/kgという基準を設け、これを超えるものについては情報を公開し流通を規制することにしましたが、それ以下の値のものは一切情報公開しませんでした」
 「私たちは、放射能に閾値はないのだから、情報が分かる状態にして食べる食べないを一人ひとりが判断して対応できるようにする。とくに今回も強調していますが、妊婦と子どもについては用心が必要だということから、370Bq以下でも情報公開が必要だということと、自分たちの行動基準として国の10分の1を自主基準としました」
 「チェルノブイリは日本から8000km離れていますし、その後の東海村のJOC事故のときも、その基準で運用できました。しかし今回の福島第一原発事故は、東京からわずか200kmですし、長期にわたって放射性物質が放出されているという“非常事態”にあります。そういう非常事態であるから、37Bq以下であるということを確証して組合員に供給することができない。そういう意味で、自主基準は守りたいけど守れないと判断したわけです」


◆自主検査機能を強化し、すべての情報を公開する

――自主検査体制を強化することも決められましたが、具体的には…
 「この9月以降は、埼玉県飯能市にある生活クラブの主力のデリバリーセンターと、全農と共同で運用している戸田市にある青果センターの2カ所に、放射能測定のための精度の高い機器を予算もかけて配置します。これによって組合員に供給する食品について、一つの機器で週当たり300品目の検査能力を確保するつもりです。その場合の検査能力は100Bq程度になります。37Bqを基準に測定することもできますが、それだと品目数が少なくなってしまいます。今回は全品目の抜き取り検査を実施する。このことを最優先の課題としたいと考えています」
 「国の暫定基準である500Bq以下であっても、例えばこれは300Bqですと、情報はすべて公開します。そのことが風評被害につながる危険性はありますが、“分かって食べる”という消費者の権利も保障されなければいけないわけです。そのことを理解することも組合員にとっては大事なことだと思います」
 「そして産地にとっても安全性を確かめることができるような使い勝手ができるようにしたい。風評被害に対する最大の対応はタイムリーな事実の把握と情報公開です」
――検査は9月から…。
 「そうです。原発事故そのものが終息していませんから、当面は冷静にデータを蓄積していくことで何が起こっているのかを把握することです。半年、1年とデータを蓄積しながら、生活クラブ流の自主基準値なり暫定基準がつくれないかどうか、あらためて議論することになると思います」


エネルギー自給は
食料自給と同様に重要課題

◆安全安心は運動してきた結果に過ぎない

――消費者としていま一番考えなければいけないことはなんでしょうか。
 「生活クラブの共同購入で何が大事かというと、主要品目で国内の1次産品を食べていく、そのことの意味を分かって食べていくことだといい続けてきました。それは内橋克人さんがいう“自覚的消費者”。つまりものの値段は安いにこしたことはないけれど、なぜその価格かを問える消費者であるということです」
 「私は生活クラブの共同購入は、安全安心は結果であって、大切なことは内橋さんがいわれるような“自覚的消費者”を一人でも多くすることで、それが運動の目的だといっています」
 「結果として生活クラブは安全安心のレベルでそうは他にひけをとらないと思っていますが、それはあくまでも、考えられる消費者、判断できる消費者を一人でも多くという運動の結果にすぎません」
 「ですから、放射能汚染問題が深刻になってきた3月下旬に、組合員一人ひとりが自ら判断できる主体になってくださいということを強調したメッセージも発信しました」
 「その内容は、この非常事態にあっては生協は食品の安全の保障は残念ながらできない、というものです。しかしながら可能な限り情報公開することは生協の使命である。こういう考え方で組合員にメッセージを出しました。しかし一部に混乱、あるいは疑心暗鬼をもたらしてしまいました。これは残念なことでした。しかし折角大切にしてきた自主基準を捨て、国の暫定基準に安易にすりよったわけではありません。そうではなく、こういう状況であるからこそ、常々大事にしてきた“自覚的消費者”ということが、いま問われていると私は考えています」
 「私個人としては、生活クラブという組織はそういう組織だということを改めて実感をしましたし、確信をもってこれからもそういう方向でいくべきであると感じました」
――消費者も自分でどうするかという判断基準をもたないといけない…
 「ただ怖いだけではだめですが、一方で、政府も東電も出てくる情報が乏しくて判断したくてもできないという状態が続いていることも現実です。ですから絵に描いた餅にみえますが、その方向に行く以外に突破する方策はないと思います。9月からの検査は組合員が自ら判断するための材料を提供する取り組みだと考えています」
 「生産者にもセシウムは半減期が30年で1000分の1になるまで300年かかるように長期化するので、手間がかかりコストがかかることもよく分かりますが、自主的な検査などの努力は惜しまないで欲しいと要請しています。その努力の結果として共同購入が続けられることが、最大の課題であると呼びかけています」


◆再生可能エネルギーのモデル的な取組みを開始

toku1108021102.jpg――生活クラブでは、昨年に「脱原発」という方針を決め、今回改めて「脱原発社会をめざしましょう」という特別決議をしましたが、今後のエネルギーのあり方についてお話ください。
 「福島第一原発事故がおきてなお原発に依存した暮らしを続けようと考える人は少ないと思います。むしろこれだけの事故を起こしたのだから、大胆に改めましょうというのが普通の人の考えではありませんか」
 「一度に全部を廃炉にすることは難しいかもしれません。しかしできるだけ早く廃炉にすべきだと思います。そのことを総会で決議したわけです」
 「そのように言う場合、当然のことながら私たちでできることは何かが問われます。まだ十分に検討しきれていませんが、東京・神奈川・埼玉・千葉の会員単協が今年の総代会で秋田県に3億円ほどかけて風力発電設備つくることを決めました。また北海道の生活クラブは古くから脱原発を運動課題として追求し続けています」
――連合会としては…
 「エネルギーの自給を考えなければいけないということが、まったなしの課題になったと思います。そういう意味からも、福島で起きてしまった今回の事故を考えれば、東北から“脱原発”をはじめる。できればそのことが復興や地域の雇用にもつながる取組みができないかと問題提起しています」
 「より具体的には、長年の米の提携産地である山形県の遊佐町ではすでに7基の風車が回っています。ここを中心に再生可能エネルギーのモデル的な取組みができないかと相談をはじめました。風車のみならず、鳥海山の豊富な水を活用した小水力とか、畜産も盛んな地域なので家畜の糞尿を活用したバイオマス発電などをいくつか組み合わせて、エネルギー自給に一歩でも近づけようと、町の行政も含めて議論をはじめました」
 「つまり連合会としては、提携生産者にエネルギーの自給が、食料自給と合わせて重要な課題だという問題意識をもってもらい、半歩でも一歩でもそれに近づける努力を各地でしてもらう。それを促す取組みが重要だと考えています」
――今日はありがとうございました。

(写真は(仮称)生活クラブ風車イメージ写真です=生活クラブ生協ホームページより)

(2011.08.02)