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平成23年度 カントリーエレベーター品質事故防止強化月間(8月15日〜10月15日)

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一粒一粒の米に「農家のこだわり」が  現地・ルポJA庄内たがわ(三川支所横山地区CE・山形県)

・県内で唯一「雪崩注意報」がでない地域
・優良農協CEとして表彰される
・生産者が望んでCEを建設
・収穫前には落代表者がほ場を調査
・管理の徹底で品質事故を未然に防ぐ

 日本の主食・米の収穫を迎える時期が今年も近づいてきた。米の生産・集荷・流通・販売の拠点施設である全国のカントリーエレベーター(CE)では、荷受に向けた準備が着々と進められている。山形県庄内地方にあるJA庄内たがわでも、出来秋へ向けて準備に動き始めた。JA管内には9つのCEと4つのライスセンター(RC)があるが、そのなかの一つで、昨年、全国農協CE協議会から優良CEとして表彰された同JA三川支所管内にある横山CEに取材した。

「俺たちのCE」という意識で高い利用率を確保

JA庄内たがわ(三川支所横山地区CE・山形県)

◆県内で唯一「雪崩注意報」がでない地域


JA三川支所管内の横山CE 「ここ三川町は山形県内で唯一“雪崩注意報”が出ない地域なんですよ」と、CE周辺を案内してくれたJA庄内たがわ三川支所営農課の鈴木繁則さんが教えてくれた。
 山形県三川町は、山形県の日本海側・庄内地方のど真ん中ともいえるところに位置し、城下町の鶴岡市と港町の酒田市に隣接している。北には出羽富士ともいわれる鳥海山が、東には霊峰・月山を望むことができるが、町内に山はなく見渡す限り水田が広がる豊かな穀倉地帯だ。
鈴木さん(左)と菅原組合長 町内には町名のいわれになったという赤川・大山川・藤島川の3つの川が流れ肥沃な大地をつくりあげ、日本有数の米産地を育ててきたといえる。

(写真)
上:JA三川支所管内の横山CE
下:鈴木さん(左)と菅原組合長

 

◆優良農協CEとして表彰される


 JA庄内たがわは、この三川町をはさんで北の庄内町と南の鶴岡市を管内としている。いずれも日本有数の穀倉地帯ということもあって、JA管内には9つのCEと4つのRCがあるが、すべて利用組合方式で運営されている(建設はJAが行い利用組合は利用料をJAに支払う)。
 さらに「JA庄内たがわRC・CE連絡協議会」を結成し、年1回の環境美化コンクールの実施や利用率向上などのための情報交換などを実施しているという。
 JA庄内たがわ横山CE(正式名称は、横山地区乾燥調製貯蔵施設等利用組合)は、昨年実施された「優良農協CE表彰」において、▽利用率が極めて高く、荷受前の品質チェックを実施している▽荷受自主検査用システムの更新により、作業の一層の効率化をはかっている▽運営管理全般的にしっかり管理されていることなどから、表彰されたCEだ。
 横山CEは平成元年に建設された「連続流下型乾燥方式」(カスケードドライヤー)CEで、主サイロ370t×8基、間隙サイロ90t×3基の貯蔵設備をもっている。
 CEの受益地区の収穫面積は農事組法人1、19.2haと個人農家203戸、635.9haで、そのうちCEの利用者は114戸、350.2haとなっている。ここ数年の稼働率(利用率)は、毎年100%を超える実績となっている。

 

◆生産者が望んでCEを建設


きれいに清掃されたCEの内部 実は「庄内では農家の自己完結型が多いため、稼働率向上で苦労しているCEが多い」のだと鈴木さんから聞いていたので、この稼働率の高さにちょっと驚かされた。
 その理由は、横山CEの歴史にあると利用組合の菅原正喜組合長はいう。
 横山CEが建設される2年前に同じ三川町の押切地区にRCが建設され稼動し始めたのだが、それを見た横山地区の生産者から「均一で高品質な米を供給する」ためには共同乾燥調製施設があったほうがいいという意見が起こり、横山地区の集落の代表者が集まってCEの設立委員会を結成し、JAに要望してできたという経緯があった。
 だから「俺たちのCE」だという意識が強いから、CEに結集して米づくりに励んでいるのだと菅原組合長はいう。因みに菅原さんは3代目の組合長で結成当時のことは「あまりよくは知らない」というが、今年で組合長13年目というから、地域の信頼が厚い利用組合長だといえる。
 横山CEの稼動後に同じ三川町の東郷地区にも利用組合方式のCEが建設されたが、三川町内の乾燥施設はいずれも「稼働率が高い」と鈴木さん。「俺たちの施設」だという意識が浸透しているからだろう。その意識は、オペレーターにも強いのではないかと思った。その理由は、CEの敷地に入ったときから感じたことだが、きれいに掃除がされ、機械類も手入れがされていることが見えたからだ。
 取材日は7月下旬でまだ集荷には早い時期だが、いつでも清掃が行えるように各所にほうきと塵取りが置かれていて、常にこぼれ籾やゴミがないような状態が保たれているように心がけているという。


(写真)きれいに清掃されたCEの内部

 

◆収穫前には落代表者がほ場を調査


 もちろん作付けから収穫そしてCEでの荷受についてもキチンと利用組合で管理されている。
 作付けについてはこの地方の代表的な品種である「はえぬき」が全体の5割を占めているが、その他にも特栽はえぬき・特栽ひとめぼれさらに最近の奨励品種である「つや姫」(特栽のみ)に晩生米の「つくばSD1号」や飼料米がある。これらの品種について、はえぬきの作付上限を遵守したうえで特栽米などの作付け割合は集落ごとに調整している。
横山CE 収穫まえには集落の代表者が、ほ場で登熟の進度、病害や倒伏、刈取り時期などの事前チェック調査を行う。このほ場調査をもとに荷受主任者が刈取り計画の最終決定を行い、集落ごとに事前連絡を行っている。
 さらに荷受時にはホッパー投入前に事前検査を行い、被害粒や着色粒などがある場合は、別仕分けすることを徹底し、品質の保全に万全を期している。

 

◆管理の徹底で品質事故を未然に防ぐ


 毎日の荷受については荷受能力200t/日を限度として集落ごとに荷受制限を指示しているので、過剰な荷受をすることがないように計画されている。
 荷受後も高品質な米を調製するために各工程でのチェックが厳しくなされ万全を期している。その中でも注目される点をあげると、穀温計がサイロごとに8点あるが、その1点ごとにグラフを別に作成し穀温変化を記入しているため、大変に見やすいものとなっていることがある。
 品質事故を未然に防ぐためには、諸々の情報が誰にでも見やすく分かりやすく整理されていることは大事なことだといえる。
 作付計画から収穫前の事前チェック、荷受時のチェックそして高品質米を調製し出荷するまでの運営は、鈴木さんたちJAの営農指導員も参画するが、基本的には、菅原組合長はじめこのCEを利用する12集落の代表たちの手で実施され、消費者の手に渡る一粒一粒の米にまでつくる人たちの「こだわり」が貫かれている。
 ここの利用料金は1200円/60?だが最終的には余剰金を利用者に還元しているので「実質は1000円程度」だという。これも利用者から信頼される大きな要因だといえるだろう。
 取材に訪れた日は、太平洋岸は台風の影響で天気が悪かったようだが、庄内地方は昼前から雲ひとつなく晴れ渡り、やや強い風が伸び伸びと育った稲の葉を気持ちよく揺すり「秋の収穫が楽しみだ」と菅原組合長の笑顔が語っていた。

田んぼの向こうに鳥海山が

(写真)田んぼの向こうに鳥海山が

平成23年度
カントリーエレベーター品質事故防止強化月間の取り組みについて


趣旨

(1)カントリーエレベーター(以下CEという)における米の品質事故は、高水分籾の過剰荷受け、長時間のテンパリング、長期にわたる半乾貯留、穀温管理不足など、基本的なことを守らなかったことにより発生したものが多い。また、最近では荷受け・乾燥作業時の外気温が高いため、乾燥後のクーリングパスで穀温が十分に下がらず、やむを得ずそのまま半乾貯留や貯蔵を開始するケースも増えているが、その後のローテーション操作や穀温管理等が適切に行われずに品質事故を生じた事例も散見される。
(2)品質事故防止のためには、乾燥能力に応じた計画的な荷受け、ならびに各作業工程における基本操作の遵守が欠かせない。そのためには、施設運営をオペレーター等現場従事者に任せきりにするのではなく、経営者や施設管理者、そして利用組合等生産者組織も含めた三者が、一体となって円滑に進めることが重要である。
(3)このため、CE稼働の最盛期であるこの月間を通じて、従来の施設運営や運転操作方法等を再点検し、必要な個所は見直して、本年の取り組みを行うものとする。
(4)また、CEでは近年、乾燥機の火災事故や怪我・人命に関わるような人身事故も発生していることから、併せてその防止対策にも取り組むものとする。

 


期間

 平成23年8月15日から10月15日までの2カ月間


目標

(1)品質事故の防止
(2)火災・人身事故防止等、安全な施設運営

 

具体的な実施内容・取り組み事項


(1)全国農協カントリーエレベーター協議会、全農本所、(財)農業倉庫基金
[1] 強化月間に先立ち、取組み強化を図るため県本部・県農協・県連(以下県本部・県連等という)のカントリーエレベーター担当者(指導員含む、以下CE担当者という)を対象にした研修会を行う。
[2] 「カントリーエレベーター品質事故防止マニュアル」(以下「品質事故防止マニュアル」という)の見直し作成を行い、施設設置JA、県本部・県連等に配布する。
[3] 半乾貯留や貯蔵(保管)時における、サイロ内の穀温チェックを徹底するため、「カントリーエレベーターサイロ保管管理日誌〈穀温記録表〉」を作成し、配布する。
[4] 「カントリーエレベーター品質事故防止カレンダー」(以下「CE業務カレンダー」という)を作成し、配布する。
[5] 系統機関誌等を利用して、品質事故等の防止を広報する。

(2)県カントリエレベーター協議会、県本部・県連等
[1] 適時、「品質事故防止マニュアル」および改訂版DVD「<1>カントリーエレベーターの運営体制づくり<2>カントリーエレベーターの品質管理対策」等を活用した研修会を実施し、品質事故防止対策を徹底する。
[2] JAに対し、施設毎に「CE運営管理マニュアル」を、CE品質事故防止対策を含めた内容で作成・整備または見直しするよう指導するとともに、同マニュアルの内容を確認し、改善すべき箇所等があれば指導する。
[3] JA・CEに対し「CE業務カレンダー」の掲示を促し、運動の広報を行う。
[4] この月間中、CE担当者は、重点的にCE巡回を行い、稼働運転状況を確認する。

(3)JA
 CE設置JAは、次の事項に取り組む。
[1] 運営体制の確立
 JA役職員、利用組合組織、施設管理者・オペレーター等現場従事者の、三者が一体となったCEの運営体制を確立する。
[2] 関係者による事前打合せと意識統一
 稼動前に運営委員、生産組織関係者、オペレーター等現場従事者を集め、「品質事故防止マニュアル」や改訂版DVD「カントリーエレベーターの運営体制づくり」等を活用した業務研修会を実施し、また「CE業務カレンダー」を掲示して、互いの意識統一と士気の高揚を図る。
[3] CE運営管理マニュアルの見直し検討
 経営者および施設管理者は、各カントリーエレベーターの主任オペレーター等と協議して、施設毎に「運営管理マニュアル」の見直し検討を行う。この時、「オペレーターが交代する場合の確実な引継ぎの実施等」について、実施方法も含めて明記し意識統一を図る。未整備の場合は、県本部・県連等とも相談の上、早急に作成する。
[4] 施設・機械の清掃および点検整備
 稼動に先立ち、機械設備全般および施設内外の清掃を行う。また、施設メーカー協力のもと機械設備の点検・整備を行う。特に乾燥機については、燃焼装置が正常に運転されるよう、専門メーカーに依頼する等、綿密に行う。
[5] 計画的な操業
ア  施設能力以上の原料荷受けをしないよう、稼働前に荷受計画を定めて関係者へ周知徹底する。荷受計画作成にあたっては、稼働中の乾燥作業を円滑に進めるため、必ず荷受休止日を設ける。
イ  また、やむを得ず荷受中止をする場合を想定し、予め運営委員会などにおいて荷受中止を判断する責任者を定めておく。荷受中止または荷受数量の変更を行う時は、この責任者の指示のもと、利用組合や生産者への連絡を徹底する。
[6] 品質事故防止のための運転操作・管理等
 品質事故防止マニュアル内容を参考に、基本に沿った運転操作を行う。
(特に注意を要する点)
ア  ビン荷受け時の対応
 高堆積を避け、均平状態を保ち、適時のローテーションを実施する。
イ  半乾貯留時の対応
 籾水分17%以下、クーリングパスによる穀温低下(25℃以下)、毎日のサイロ穀温チェックを実行し、貯留日数の短縮化を図る。
 (注)穀温が25℃以上の時は、半乾貯留をせずに仕上げ乾燥を行う
ウ  貯蔵時の対応
 乾燥後のクーリングパスによる穀温低下(20℃以下)、貯蔵前のローテーションによる穀温低下、毎日のサイロ穀温チェックを実行する。
(注)貯蔵開始時に穀温が20℃以上の時は、外気温度の低い日や時間帯を利用し、早目のローテーションで穀温低下を図る
エ  適正・安全運転の励行
・毎朝、点呼と作業内容を確認し、安全運転を励行する。
・乾燥機運転中は随時点検見回りを実施する。
・自動運転が可能な機械設備でも、必ずオペレーターが作動状況を確認する。特に乾燥機運転中は無人状態にしてはならない。
[7] 労務管理および作業安全の確保
ア 経営者および施設管理者は、オペレーター等現場従事者が期間中に過重労働にならないよう就業体制の整備を行うとともに施設内での身の安全を図るため、災害防止措置をとるなど労務管理に細心の注意を払う。
イ 特に、高所や駆動部周りでの作業、籾殻搬出作業等、危険が予測されるような作業においては、その施設に応じた作業マニュアルを作成し、事故防止につとめる。
ウ オペレーター等現場従事者は災害防止措置を遵守して身の安全を図る。
以上

 


「事故防止に向け過剰荷受けとオペレーターの人員配置への対策を」

全国農協CE協議会 野口好啓会長(JAさが代表理事組合長)全国農協CE協議会 野口好啓会長(JAさが代表理事組合長)


 わが国のカントリーエレベーター(CE)は、昭和39年に全国3か所にモデルプランとして導入されて始まりました。以降、すでに40年以上が経過し、現在では、本協議会員だけで39道府県、277JA、754施設、貯蔵能力200万トンを超えるまでに発展しています。この間、高品位で均質な米麦の供給ならびにバラ化による流通合理化によって、地域農業振興および米麦の流通合理化・省力化のために、CEは多大な役割を果たしてきました。
 現在、米麦を取り巻く環境は大きく変化しています。米麦の生産・流通の現場では、さらなるコスト削減と「安全・安心」へのニーズが強まっています。米麦の品質向上、物流の合理化、担い手を中心とした効率的な生産体制の構築という従来からの役割に加えて、トレーサビリティー、コンタミ(異品種混入)防止などを確保することがCEに求められています。
 一方で、稼働率向上や、オペレーターの育成・確保・労働条件の整備、施設の老朽化問題など、CE運営上の課題は山積しています。
 また、残念ながら、CEにおける品質事故は毎年発生しています。CEでの品質事故は発生すると被害が甚大であり、数千万円の損害金額になることも珍しくありません。また、経済的な負担だけでなく、生産者から預かっている大事な米麦の品質を損ねてしまうことは、道義的にも大きな問題であり、事故防止はCEにとっての最も大きな課題の1つなのです。
 最近の事故の特徴として、[1]高水分モミの過剰荷受け、[2]新任オペレーターの不慣れに起因するものが多くなっています。
 [1]過剰荷受けへの対策としては、荷受計画の作成や荷受ストップの実施が必要です。生産者の皆様へはご不便をかける場面もあるかもしれませんが、品質事故防止へのご理解とご協力をお願いします。
 [2]新任オペレーターの不慣れへの対策としては、主任オペレーターの人事異動の配慮等、JAでの計画的な人員配置が必要です。JAの経営者が率先して、CEの運営体制の強化を図るようお願いします。
 また、今年度もCE稼動の最盛期となる8月15日から10月15日までを「CE品質事故防止月間」に設定し、CEの組織的な運営体制の確立と施設・機械の清掃、点検整備の実施および関係者の連携による計画的な操業と適切な運営・管理の推進を通じて、品質事故の発生防止に万全を期することとしています。全てのCE設置JAにおいて関係者が一丸となり、品質事故防止運動に積極的に取り組むようお願いします。


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