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第57回JA全国女性大会 創立60周年記念特集
現地レポート
女性が創る地域力  JAコスモス(高知県)

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【現地レポート】女性が創る地域力  JAコスモス(高知県)

・見守る大勢の大人たち
・スクールはJAの誇り
・ネットワークを広げて
・組織が組織を生みだす活力
・男性も地域づくりに自信持つ
・みんなでやっていくのが農協

 自然を守って農業生産を持続させながら、同時に人々のふれあい活動を通じて安心して暮らせる「多世代ネットワーク」を広げることを基本理念に掲げるJAコスモス。そのネットワークづくりの原動力となっているのが女性たちである。
 25年前に立ち上げた直売所活動から、今、大きく協同の輪が広がっている。

安心して暮らせる多世代ネットワークづくり に挑戦

「ありたい姿のJA」を組合員とともに追求

クラスの旗を先頭に大人たちに見送られて卒業
「人と人が助け合うこと―、これを『協同』と言います。
いつの日か大人になった君たちに会える日を楽しみに」
(あぐりキッズスクール卒業式の言葉より)

(写真)
クラスの旗を先頭に大人たちに見送られて卒業


◆見守る大勢の大人たち

 1月21日土曜日。高知県佐川町にあるJAコスモスの本所では「あぐりキッズスクール」第7期生の卒業式が行われていた。
 中央には卒業を迎える子どもたち。後ろに「担任の先生」を務めたJAのスタッフが座る。それを取り囲むかたちで保護者、JA女性部、助け合い組織の「にこにこ会」、さらに、JAの“男性部”である「赤い褌隊」も席についた。佐川町長や県のJAグループ関係者も列席した。
「楽しい思い出ができました」と卒業生たち 1人ひとりへの卒業証書授与が終わると照明が落とされ、壇上に子どもたちが灯したロウソクの火が浮かび上がった。
 「スクールでみんなが学んだのは命の大切さ。これはその命の火です」。スタッフは子どもたちにこう語りかけ、10か月間、月1回の学習を振り返った。 雨のなかでの田植え、サツマイモの植え付けと17メートルにもなった長い海苔巻きづくり、夏の日帰りキャンプでのカレーづくり、そして秋の稲刈りとサツマイモ、大根の収穫、そして収穫祭での農産物販売と調理実習などなど……、それぞれを友だちと協力しあい、また、大勢の大人に支えられて体験できたことが強調された。
 そして大震災の被災地では、悲しみと寂しさを乗り越えようとがんばっている同世代の子どもが多くいることに触れ「震災で人と人とが力を合わせることが大切だと分かりました。みんなには少し難しいかもしれないけれど、これを『協同』といいます。農業協同組合はこの協同の力を大きくするためにあります」と諭すように語りかけ「いつの日か大人になった君たちと会えることを楽しみにしています」と結んだ。

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「楽しい思い出ができました」と卒業生たち


◆スクールはJAの誇り

 同JAのあぐりキッズスクールは農業や食への理解ととともに、それを生み出す「ふるさと」の大切さを伝えることも大きな目的にしている。
 平成7年の合併時、JAの新名称を公募、いちばん多かった「コスモス」に決まった。越知町、日高村がコスモスの産地だったこともあるが、仁淀川流域の8町村のJAはコスモスの8枚の花びらと重なったし(22年度からは伊野町も管内)、何よりも果てしなく広がる宇宙(コスモス)のイメージが湧いた。 JAは仁淀川中流域が管内となったことで、ここが「ふるさと」であることを内外に発信することにも力を入れるようになったのだ。
 その豊かな自然のなかで農業体験をした子どもたちは「鎌をうまく使えてよかった」、「カレーづくりでは野菜を上手に切れた」などの感想を述べた。
 各小学校でも農業体験はあるが、このスクールにはさまざまな小学校から参加している。JA合併で初めて参加した伊野小5年生の竹内萌々子さんは学校に送られてきた案内を見て参加、「友だちが増えてよかった」とうれしそうだった。
 毎年入学している子どももいる。斗賀野小5年の氏原舞香さんはこの日の卒業証書が5枚目だ。低学年の子どもたちには「鎌の使い方を教えたよ」と、経験豊富な“ベテラン”は語る。佐川小5年の田所千明さんも1年生のときから参加しているといい、氏原さんと通う小学校は違ってもすっかり仲良しに。毎年スクールで会うことが楽しみなっているという。
 こんな子どもたちを親たちはどう見ているか?。
 県農業試験場に勤務する辻さんは4年生の娘、若乃さんが参加した。「手植えや手刈りなど効率を追求する世界ではなくて、農業の根本的な自然とのふれあいを学べ、田んぼに入ったあと子どもはがらっと変わり、自分ものめり込んでしまいました。保護者がもっと支えればJAの応援団にもなれると思いますね」と話す。
大人にになっても忘れないよ。楽しく学びながら「ふるさと」の自然を教わった JA管内から遠く離れた高知市から1年生の娘を参加させた森田さんは「JAの方だけが運営しているのかと思ったら、女性部や男性組織まで複合的に関わっていて、これは普通の会社にはないこと、あったかい感じがします」。
 卒業式後は茶話会。9支部の女性部とにこにこ会、赤い褌隊が朝早くから作った料理が並んだ。
 スクールの校長でもある伊藤喜男組合長は「みんなでスクールを支えている。この姿が本当に農協の姿であり、これが地域をつくっていくことだろうと思っています。これはコスモス農協の誇りでもあります」とあいさつで強調した。

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大人にになっても忘れないよ。楽しく学びながら「ふるさと」の自然を教わった


◆ネットワークを広げて

 JAでは、このほか定年退職者など農業に関心を持つ人へのセミナー「あぐりミドルスクール」と、これまでJAとのつながりのなかった人たちを対象に生活の楽しみ方を伝える「あぐりライフスクール」も開講している。
 ミドルスクールはこれまでに200名以上が卒業した。JAの管外からも男女を問わず農業に興味のある人が参加し、最近では直売所に出荷する人も出てきた。また、卒業生は自主的にOB会を結成、ミドルスクールのサポーターとして農業実習を手伝う活動も行っている。
 一方、ライフスクールのカリキュラムは地産地消の料理教室、家計簿講座、健康講座、草木染・機織り体験など、これまで女性部活動を中心に行ってきたもので、JAの生活指導事業を広く地域住民にも知ってもらおうという思いもある。キャッチフレーズは「これからはJAがおもしろい!」だ。
 理事でもある女性部の曽我定子部長は「JAを好きになってもらって女性部に加入してもらうことも期待しています」と話す。
 このような組合員、地域住民を主役とし、子どもから大人まで男女を問わず、まさに「多世代ネットワーク」づくりが同JAの大きな特徴だが、こうした運動の出発点となったのが25年前に開設した農産物直売所「はちきんの店」だ。


◆組織が組織を生みだす活力

 本所前にある「はちきんの店」では毎朝7時過ぎから生産者が出荷する光景が見られる。大根、ホウレンソウ、ぶんたん、イチゴ、お茶、牛乳、新米など、この季節でも多くの品数が並ぶ。弁当や味噌などの加工品も豊富。開店時間は8時となっているが、出荷が始まると同時に買いに来る人も姿をあらわす。町内の飲食店の店主は「毎日、ここで仕入れてます。地産地消、大事ですからね」。弁当も早朝からなかなかの売れ行きだ。今は、高知市内にも4か所の店があり8時ごろにトラックが出発する。
 「はちきんの店」は農家が家庭菜園でつくっているものを何とか女性たちのお金に結びつけられないかと始めた。ただし、女性が直売で経済力をつけるという目的だけにとどまらなかった。当時、生産者と一緒になって直売所を立ち上げた福祉生活部の中村都子さんは「女性たちがもっと輝く活動を」と考え、学習活動を提案していく(参照記事:【座談会】JAは地域の生命線 女性が創る地域力)。
右から「赤い褌隊」の中村隊長、「にこにこ会」の出間会長、中村郁子さんと福祉生活部の堀田盛幸部長 そのなかから地域の課題を見出して新たに立ち上がったのが助け合い組織「にこにこ会」だった。きっかけはホームヘルパー養成研修会に多くの女性が参加したこと。会では高齢者の見守り活動ほか、家事援助などの有償ボランティア、公民館などを利用したミニデイサービスを全支所で実施している。
 出間緑会長は当時、女性部長を務めていた。ミニデイサービスについて「話し相手になってくれるだけでいいから開いてほしいというお年寄りも増えてきました」と語るように、この活動は地域の高齢者を支える不可欠なものになっている。同時にミニデイサービスのやり方はそれぞれの地域ごとに工夫するなど「自主的な活動ができるようになってきた」という。
 こうした活動に加え、先に触れたようにあぐりキッズスクールの支援も行うというように、重層的な活動が展開されている。

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右から「赤い褌隊」の中村隊長、「にこにこ会」の出間会長、中村郁子さんと福祉生活部の堀田盛幸部長


◆男性も地域づくりに自信持つ

JAコスモスには、いわば「男性部」である「赤い褌隊」が平成17年に結成された。女性部とともに地域づくりに力を発揮している。写真は今年1月の佐川町の恵比寿祭り。韓国の女性アイドルグループ、KARAの扮装で仮装行列に出場した。結果は準優勝。 卒業式後の茶話会に並んだ料理のうち、卵焼きは「赤い褌隊」がつくった。この日は5人が参加して朝からJAの加工所で焼いた。 隊長は中村卓司さん。元JA職員、今はイチゴの生産者だ。キッズスクールでは「コンコンおじさん」で通っている。入学式で「言うことを聞かんヤツには、このおじさんがコーンとやるぞ!」と言うからだ。
 赤い褌隊結成のきっかけも中村都子さんの「なぜ女性部はあるのに男性部はないの?」との疑問だ。福祉担当に代わって1人暮らしの男性宅を訪問する機会が増え「生きていくことの楽しみを男性もみつけてほしい」との思いがわき、今の中村隊長に「男の人たちを群れさせたらどうなるだろう? 組織づくりを手伝って」と持ちかけた。その隊長は「一杯飲まされ、思わず、うん、と言わされてしまった……」とか。
 試しに料理教室を開くと、意外や「明るいおじさんの顔」が並んだ。それからは自主的に動き出し、利き利き酒大会だ、女性部の力仕事の手伝いだ、庭の手入れのボランティアだ、と活動が広がっていった。隊員は50人。最高年齢は90歳だという。噂を聞きつけて今ではJA管内外の在住者も参加している。現役時代の職種はさまざま。「第一線からは退いたが、まだまだ何かやれると思っていた男性たち。組織をつくってもらったことで女性からも力が認められ男性も自信を持つようになりました」。

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JAコスモスには、いわば「男性部」である「赤い褌隊」が平成17年に結成された。女性部とともに地域づくりに力を発揮している。写真は今年1月の佐川町の恵比寿祭り。韓国の女性アイドルグループ、KARAの扮装で仮装行列に出場した。結果は準優勝。


◆みんなでやっていくのが農協

伊藤喜男組合長 伊藤組合長は27歳のとき、今も暮らす山間部の吾北地区に新設した農協の専務になった。職員は2人。経営不振で倒産した農協を整理しながらの再出発だった。当時の組合長からは「組合長は孤独だ」と聞かされた。
 それから49年、伊藤組合長は職員にこんなふうに言っている。「自分が振り向けばそこに組合員がいる、という姿でなければならない。組合員対農協、ではなく一緒に進んでいくという姿だ―」。
 合併後には支所統廃合など農協改革の課題にもぶつかった。しかし、そんなとき職員から「ありたい姿の農協改革」という言葉が出てきたという。
 「『あるべき』ではなく『ありたい』ではないか、と。そのほうがどんどん発展していく。私たちが、こう“ありたい”と検討したことを組合員に投げ返してそれに対して声がまた返ってくる。みんなでやるのが農協運動、これを大事にしなければなりません」。
 これは、この地域が次世代を育む精神であると同時に、次世代に引き継ごうとしている理念でもある。

(写真)伊藤喜男組合長

(2012.02.06)