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再生可能エネルギーに挑戦するドイツの協同組合

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再生可能エネルギーに挑戦するドイツの協同組合―第2回 「バイエルン州の農業経営とバイオガス発電」板橋衛(愛媛大学・准教授)

・酪農経営農家(レールモーザー経営)
・大型七面鳥経営(モーザー経営)

 再生可能エネルギー法の制定にともなって、農村・農家段階においても積極的な対応がみられる。とくに、家畜のふん尿や農産物を利用したバイオガス発電への関心が高く、すでに広範に普及している。
 電力の定額での買取りは農産物価格支持制度に等しいものであり、農業経営における安定した収入源にもなっている。とはいえ、安定した発電を行うためには、既存の生産体系から生じる副産物や生産物のみではなく、意図的な原料確保が必要とされる。

 再生可能エネルギー法の制定にともなって、農村・農家段階においても積極的な対応がみられる。とくに、家畜のふん尿や農産物を利用したバイオガス発電への関心が高く、すでに広範に普及している。
 電力の定額での買取りは農産物価格支持制度に等しいものであり、農業経営における安定した収入源にもなっている。とはいえ、安定した発電を行うためには、既存の生産体系から生じる副産物や生産物のみではなく、意図的な原料確保が必要とされる。そのことが、従来の作付け体系や作目構成に変化を引き起こしている。


◆酪農経営農家(レールモーザー経営)

レールモーザーさん経営の牛舎 ヨハン・レールモーザーさんの農業経営の中心は、酪農部門であり、7代目の経営主である。労働力は本人(55歳)と実習生(17歳)の2人を基幹としている。
 経営農用地面積は72ha(うち借入地37ha)であり、うち耕地が48ha、草地が24haである。耕地における作付け作目は、デントコーン30ha、小麦7ha、冬大麦4ha、トリティカーレ(注1)4haであり、草地では年5回の収穫を行っている。飼養牛はホルスタイン種ではなくFleckvieh(注2)という畜種である。搾乳牛は70頭であり、平均乳量は年間で約7500kgである。家畜飼養に関わる飼料は、ほとんど自給しており、購入はビール粕とジャガイモ残渣物など一部に限られている。
 バイオガス発電には2001年から取り組んでいる。当時、搾乳牛を100頭規模に拡大する方向も模索したが、生乳生産割当(ミルククォータ)による出荷権の購入価格が高く、所得増加は難しいと判断した。そのかわりに、隣接する農家(繁殖経営)と共同出資(2戸のパートナーシップ法人)してバイオガス発電事業を行おうとバイオプラント施設を建設した。初期投資額は75万ユーロほどで、建設資金はすべて借入金により賄われた。プラントは、750立方mの発酵槽2基でメタンガスを発生させ、130立方mのガス貯留槽を経て、ガスタービン(コジェネレーター)を回転させ、平均140kWの発電を365日間安定して行っている。電気は、1kWh当たり平均23セントで販売しており、バイオガス発電の余熱で近隣4戸への暖房供給も行っている。140kwの発電のうち、家畜ふん尿由来のものは30kw程度とみられ、残り110kwは植物由来であり、デントコーンサイレージがそのうち約60%を占めている。
 バイオガス発電部門は安定した収入源であり、所得としてみて、約35%はバイオ部門による。バイオガス発電による所得と酪農部門の所得が代替効果的に作用しており、そのことがレールモーザー経営を支えている。

(写真)
レールモーザーさん経営の牛舎


◆大型七面鳥経営(モーザー経営)

 マルクス・モーザーさんは、兄弟で農業経営を行っており、労働力は本人(35歳)と兄の2人に加えて、常雇用者2人を主とし、収穫時には季節労働者を雇っている。
 農業経営の中心は七面鳥飼養であり、年間13万5千羽の出荷がある。経営農用地500ha(うち借入地400ha)は全て耕地であり、作付けは、小麦50%、デントコーン40%、ライ麦10%、ライ麦収穫後に牧草を生産している。小麦とライ麦は七面鳥の飼料用であり、デントコーンと牧草はサイレージとして、バイオガス発酵用に使われている。
 かつては、穀物の販売も行っていたが、価格が低下したことから、経営のあり方を模索した。その結果、七面鳥のふんがメタンガス発酵に適していること等を考慮し、2005年からバイオガスエネルギー部門を経営に取り入れた。初期投資は500万ユーロであったが、その資金は100%自己資金で賄った。プラントは、1次発酵として6000立方mの発酵槽が2基、2次発酵槽立方m1基と、発電用施設がありかなり大規模である。出力は最大4000kWが可能であるが、電力用としての利用は約半分で、半分はパイプラインを通して90℃の温水を近隣住宅・七面鳥畜舎の暖房、穀物・木材チップの乾燥に使っている。
 発酵槽の原料は、七面鳥ふんが35%、デントコーンサイレージが40%、牧草サイレージが20%、その他の穀物5%とみられる。バイオガスプラントが大規模であるために、自分の経営内からの原料供給では50%分しか賄えず、50%は近隣農家から購入している。電力の販売価格は、1kWh当たり17〜18セント(注3)である。また、発電した電気の一部を自分の経営内で利用していることもあり、所得としてみると、七面鳥部門とバイオエネルギー部門で半々とみられる。
 バイオエネルギー部門への取組を開始してからも経営規模を拡大しているが、まだ発酵に必要な原料が不足しているため、更なる拡大も考えている。しかし、農地の出し手は少なく、借地料も上昇していることから、これ以上の面積拡大は難しいとみている。
 農畜産物価格が低迷している状況下において、農家は未利用資源の有効活用という観点よりも、確実に収入に結びつくという点で、バイオガス発電に取組んでいる。そのため、2つの農家の経営に共通で見られたように、バイオガス発酵にとって条件のよいサイレージ用のデントコーンの作付け比率が高くなっている。そのことが、従来の作付け体系を変化させ、直接所得補償を受ける条件でもあるクロスコンプライアンス遵守に対する農家の葛藤にもつながっているとみられる。

注1)小麦とライ麦雑種、病害に強く、旧東ドイツ・ブランデンブルク州での作付けが多い。
注2)乳肉混合品種であり、肉用子牛として出荷する時に高値での販売が見込まれるバイエルン州伝来の牛である。
注3)発電量規模と発電に用いる原料により、電力会社が買い取る価格には制度上相違があるため、2つの事例で価格が異なる。

 

 


(第1回 「100%再生可能エネルギー地域」をめざす  村田武(愛媛大学・教授) はこちらから

第3回 「ライファイゼン・エネルギー協同組合」と農村再生  酒井富夫(富山大学教授) はこちらから

(2012.03.15)