特集

JA全農米穀事業部特集

一覧に戻る

【JA全農米穀事業部】24年産米の生産・集荷・販売基本方針  「生産者からの集荷数量400万トン、連合会出荷米300万トンへの回復をめざす」

・23年産の集荷・販売をめぐる総括と課題
・24年産米をめぐる情勢
・24年産米の生産・集荷・販売の基本方針

 JA全農はこのほど「24年産米生産・集荷・販売基本方針」を決めた。
 今年度は東日本大震災と原発事故の発生によって収穫前から米の不足感が高まり、生産者から消費者への直売が増加するなどの影響で、23年産米の連合会出荷米集荷数量は前年比で10%減(30万t)と大きく落ち込み、販売先・実需者への年間安定供給に支障をきたす事態となった。
 JA全農ではこうした状況を「ひとつの産地・銘柄としてまとまって集荷・販売していくという形が崩壊しつつあり連合会機能のあり方が問われている」と厳しく総括。24年産では生産者手取りの最大化に向けて組織結集を図るため、生産者・JA・取引先との信頼関係を再構築し、▽委託非共計や買取りなど地域実態に応じた多様な集荷対策の実践、▽播種前契約や収穫前契約などを通じた玄米・精米の販売力強化などを柱に24年度事業を展開する方針だ。その概要を紹介する。

生産者手取りの最大化に向け組織結集を


23年産の集荷・販売をめぐる総括と課題

◆大震災と原発事故の影響と需給環境

写真はイメージです 東日本大震災の発生で東北などの産地では津波による水田の喪失や倉庫からの米流出、さらに停電によって精米が不可能になるなど甚大な被害が出たほか、消費地でも交通網の遮断とガソリン不足で一時的に米不足となる事態も引き起こした。
 さらに原発事故による放射性物質汚染で作付け制限が指示されるという異常事態も加わり、米の需給環境は作付け前から極めて不透明となった。
 こうした状況のなかで23年産主食用米の作付け面積は152.6万haとなり過剰作付け面積は22年産(4.1万ha)よりは減少したものの2.2万haとなった。また、作況指数は全国で「101」となったことから全体としては米はやや過剰と見込まれていた。
 しかし、本紙でも昨年末にすでに紹介したように23年産米では「ふるい下米」が前年より10万t増加したこともあり集荷量が確保されなかった。
 このため22年産米の端境期にかけて上昇した玄米価格は高止まり、銘柄によっては全農の相対取引価格よりも市中取引価格のほうが高いという相場展開となった。その結果、販売価格と生産者への概算金との差が大きく拡大した。
 こうした状況のなかで手取りの確保を求めて自ら販売活動をする生産者が増えたほか、原発事故による安全志向の高まりの結果、消費者への直売も大きく増加した、と全農では分析している。
 それらが要因となって23年産米の連合会出荷米集荷数量は前年比で10%、30万t程度減少。「収穫前契約」であっても一部が供給できない危機的な状況もあるという。

連合会集荷数量の推移


◆具体策の早期提示が課題

 JA全農は、課題として集荷量が減少したことによって、実需者への安定供給に支障をきたしただけでなく、パールライス卸への原料玄米の供給不足で、全農グループとして力を入れることにしている精米販売の取り組みにも制限をかける事態ともなったことを指摘。 この状況が続けば全農グループとしての玄米・精米の販売力強化の実現を図ることは困難、と今回は厳しい認識を示した。
 そのうえでこの事態の要因は、市場では米の不足感が支配し市場価格は高騰したが、これに対して県域共同計算による集荷システムが機動的に対応できなかったことと分析。すなわち、県域共計によって通年販売リスクをとりながら販売価格・概算金を設定するという現在の集荷システムは「おもに需給緩和時に対応したシステム」であって、今回のような需給環境のなかでは生産者・JAの要望に十分に応えられなかったとしている。
 さらに▽安定的に販売先に供給するためのJA・連合会が一体となった対策構築が不十分であったこと、▽生産者・JAの一律的県域共計運営への不満、▽21年産米で県域共計が赤字となった県における生産者・JAの県域共計への不信など、これまでの問題点も一気に表面化したことも指摘。
 そのうえで、生産者手取りの最大化に向けた組織結集を図るため、JAと全農の役割分担のあり方も含めて生産者・JA・販売先と改めて議論をし早期に集荷・販売の具体策を提示することが求められていると強調している。

 23年産米をめぐる情勢と課題

(↑ クリックすると大きく表示します)


生産者・JA・取引先との新たな信頼関係を再構築

24年産米をめぐる情勢

◆米消費の減少と予測できない作付け動向

 24年産米については農水省が「基本指針」で全国の生産数量目標を前年産より2万t減の793万tと設定した。
 生産数量目標に即した生産を行う生産者に交付金が交付される「戸別所得補償制度」は先にも触れたように加入者の増大で過剰作付け面積が減少している。24年産でも引き続き加入促進を図ることが重要だが、玄米価格が高値で推移していることから、JA全農では過剰作付けが増大する可能性が懸念されると指摘。
 その一方で、福島県では放射性物質の新基準値の導入にともなって作付け制限区域が拡大、この生産を補うための県内・県間調整の動向次第では作付け減少が予想され、24年産米の作付け動向は予測できない状況、としている。
 また、米の消費は人口減少と高齢化の進行で引き続き減少するとみられる。とくに23年産米は玄米価格の高騰で量販店小売り価格や業務用納入価格が引き上げられており、これがパンや麺への代替需要を生み米の消費減少につながっている状況もある。さらに最近ではミニマム・アクセス輸入米も販売される状況もある。
 こうしたなか、24年産米に対しては、原発事故による放射性物質汚染を懸念し、生産者は手取り確保のため、消費者は安全性確保のため、引き続き生産者から消費者への直売の増加が継続すると全農では想定している。
 同時に早急な放射性物質汚染対策も重要で、作付け制限の徹底と同時に、汚染された米穀の早急な国や県による隔離、廃棄などの処理スキームが示されないままだと、23年産米と同様な混乱を生み出しかねないばかりか、米消費そのものの減退も招きかねない。
 こうしたなかで、商系業者は昨年より一層の青田買いを行うことも想定され、全農は例年どおりの取り組みでは「集荷数量が一層減少することは確実」と強調、先行きに不透明感があるなかでも、販売先の意向をふまえ、播種前までに生産者・JAと協議を始めることが不可欠となっているとしている。
 そのうえで生産者からの集荷・販売目標数量を国の生産数量目標793万tの過半を占める400万tとした。
 そして「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」を実現するため、連合会出荷米集荷数量は最低300万t確保を目標に掲げた。

 


24年産米の生産・集荷・販売の基本方針

1.生産対策
◆戸別所得補償制度への加入促進


 24年産米の生産対策の第1は、導入から3年目となる戸別所得補償制度への加入促進を図り、さらなる過剰作付けの解消に取り組むこと。また先に触れたように原発事故にともなう福島県内の作付け制限の拡大もふまえ、県内・県間調整を確実に進める。
 同時に自給率向上と国産米需要確保の観点から、非主食用米の生産にも確実に取り組むことにしている。
 具体的には、備蓄用米は20万t全量を確実に政府に売り渡すことをめざし、23年産で取り組んだ地域や24年産の生産数量目標が削減された地域を中心に積極的に推進する。
 加工用米は契約栽培を基本に需要に応じた確実な生産に取り組み、低価格帯向けも含めて10万tの取扱いをめざす。

24年産米の生産・集荷・販売の基本方針


◆畜産と連携し飼料用米は15万t

 飼料用米は全国ベースで作付け面積が前年比で228%と大きく伸びている。24年産でも低コスト生産への取り組み、広域流通による全国の飼料会社に原料供給を行う仕組みを基本に15万tの取扱いをめざす。
 一方、米粉は需要者と事前協議し必ず需要を確保したうえで作付けを推進し、3万tの取扱い数量をめざす。
 輸出米の取扱い目標は中国向けを中心に300t以上を目標とした。
 そのほか、大規模担い手に対しては、そのニーズをふまえ資金対応や実需者と結びついたパールライス卸による個別買取りなどをJAと連携して検討していく方針も掲げた。

 

2.集荷対策
◆地域実態に応じた多様な集荷


 集荷対策では、播種前・収穫前契約を推進し、これをJA・連合会・販売先・実需者による3者・4者契約という安定取引として拡大し、確実に集荷に結びつける取り組みを重視する。
 また、地域や品質評価が生産者手取りへより反映されるよう県域共計を基本にしつつ、買取りや委託非共計など地域実態に応じた取り組みを行うことで連合会出荷米の確保を図る。
 そのほか出荷契約金の活用、出荷確約契約の拡大および、違約措置の履行など契約概念の徹底も図り、確実に集荷する取り組みも進めることとしている。


◆県域共計運営の見直しを検討

 23年産米の集荷量が減少した要因分析でも指摘されているように、連合会出荷米集荷数量の減少に歯止めがかからないことについて全農は、米の流通環境が大きく変わるなか、現在の共計の仕組みが「生産者とJAのニーズに迅速に対応できていない側面もあることが要因」と指摘。24年産では共計単位の細分化、費用共計の導入など生産現場がメリットを感じられるような県域共計のあり方をJAと検討し改善していく。
 具体的には、「内金+追加払い」が基本だが、これもたとえば「出荷時の内金+追加金+最終精算金」などと需給変動を前提に設定したり、販売価格と連動し集荷時期に応じて概算金に価格差を設ける「時期別概算金」など柔軟な対応を実施する。
 さらに共計米の最終精算が遅いことが指摘されていることから、これを改善するために生産年の翌年3月頃に、例えば価格を含めて契約が完了している米を対象に全農が共計から買い取る仕組みを検討する。
 そのほか、運賃や保管料の見積もり合わせによる経費削減や、JAの都合による集約保管の増高経費については共計から除外する等経費削減に取り組む。

取引先とJA・生産者を結びつける取り組み

(↑ クリックすると大きく表示します)

 

◆「ふるい下米」対策と情報提供の徹底も重視

 全農の試算によると23年産米は22年産にくらべて、「ふるい下米」(1.85mm以下)は全体で10万t増え、36.6万tになったとしている。ここから主食向けとなったのが9.2万t(25%)、米菓・味噌向けが11万t(30%)などと分析している(グラフ参照)。
 こうした実態をふまえ今後は全量集荷の一環として、生産者・JAからの個袋集荷体制とともに、ライスセンターやカントリーエレベーターなど共乾施設からの「ふるい下米」の集荷に取り組む。
 集荷した「ふるい下米」は品質区分を設けて仕分け選別し、酒造用等原材料用途への販売を強化、価格低下につながる主食用への還流削減に取り組む。このため既存の特定米穀取扱業者との連携も検討することにしている。
 こうした取り組みを進めるとともに、集荷・販売・価格情勢や、共計精算も含めて全農ホームページなどを活用し情報開示も徹底していくことにしている。

ふるい下米流通実態

 

3.販売対策
◆播種前・収穫前契約による早期契約が最重点事項


 24年産米では、精米原料確保に向けて商系業者による産地巡回が早まる可能性があるとして、例年より早く播種前・収穫前契約を行うことを最重点事項として取り組む。
 このうち量販店や米穀店での家庭用精米の多くは定番化していることから、播種前・収穫前契約から複数年契約への移行を推進する。
 播種前・収穫前契約では、▽出荷契約推進時期(5月)までに卸・実需者から産地・銘柄別に購入申し込みを徴収、▽数量と概ねの価格条件をJAに提示、▽3者・4者契約を締結、という流れで進める。価格条件は現行23年産米の相対価格±10%(県域ごとに設定)を基本に推進するとしている。
 そのうえで確実な集荷に取り組むため、違約措置を盛り込んだ出荷確約契約の実施や出来秋における買取りも検討していく方針だ。
 また、大手コンビニエンスストアなど複数産地が関係する広域実需者については全農グループとして一体的な販売推進を行うほか、パールライス卸間の連携、丸紅など他の流通業者との連携によって精米販売の拡大も進める。精米販売は24年度で80万tを目標にしている。

需要拡大への取り組み事例

(2012.04.04)