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平成24年度全農肥料農薬事業のポイント

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【平成24年度全農肥料農薬事業のポイント】 現場で困っている課題に応えるのが基本的な役割  上園孝雄 全農肥料農薬部長に聞く

・合弁会社に参加し中国にシフトするリン安
・地域の土壌にあったPKセーブでコストを抑制
・現場ニーズに応えた薬剤の共同開発を
・効果高く使用回数減少させたAVH―301剤
・省力化技術のノウハウを蓄積
・暦をベースにした安全防除運動をさらに推進
・県域を超えた広域物流も

 昨年3月の東日本大震災による地震・津波などの自然災害、そして原発事故による人災など、日本農業をめぐる課題は多い。そうしたなかJA全農は22年度からの「3か年計画」の最終年度を向かえている。3か年計画を仕上げると同時に、次期3か年を見据えた取組みが中心的な課題といえる。そこで全農肥料・農薬事業のポイントについて上園孝雄部長に聞いた。

肥料事業
肥料原料の長期的安定的な確保に向けて


◆合弁会社に参加し中国にシフトするリン安

上園孝雄 全農肥料農薬部長 ――まず肥料事業の23年度の到達点と今年度の重点課題からお話ください。
 「世界的な肥料需要の高まりのなかで、いかに長期安定的に肥料原料を確保するかが大きな課題です」
 「昨年後半から中国におけるリン安のジョイントベンチャーに全農が加わるという取組みを進めてきましたが、4月24日に、瓮福紫金の株式譲渡契約を、全農とは1994年の設立以来のパートナーであるリン鉱石の瓮福、そして銅の精錬工場である紫金銅業、中国国内の物流を担当する山水物流と調印をし、全農はこの瓮福紫金の株式の10%を取得しました」(関連記事
 「全農が資本参加した瓮福紫金は、これらの中国企業とジョイントすることで瓮福のリン鉱石と紫金銅業からの硫酸というリン安の重要な原料を安定的に競争力のある価格で調達できます」
 ――いままでもリン安を中国から輸入していたのですか。
 「いままで全農は中国からリン安を2万トン輸入していましたが、それを6万トンまで拡大して、中国に少しずつシフトしていきたいと考えています」
 ――海外原料の調達先を多元化しているわけですか。
 「リン酸資源については、リン鉱石で輸入するケースと一次製品であるリン安でという2つのケースがありますが、調達先を多元化しながらリスクを分散する方策をとっています。リン鉱石については中国、モロッコからです。リン安についてはいままで米国に偏重していましたが、中国は近いので物流が優位ですから増やしていきたいと考えています」

世界の肥料需要の推移


◆地域の土壌にあったPKセーブでコストを抑制

 ――冒頭にもありましたが、世界的な肥料需給をみれば価格が下がることはない…
 「短期的にはいろいろあるでしょうが、長期的には肥料原料価格は右肩上がりで推移すると思います」
 ――仮に肥料価格が上がっても施肥コストを抑制する対策が必要になりますね。
 「日本の場合、水田でも施設園芸でも農耕地の土壌の多くは、リン(P)とか加里(K)が十分にあるという調査結果があります。そうしたリンや加里が過剰なところでは従来よりはPK成分を下げて施肥できるので『低成分肥料』を進めていきたと考えています」
 「『PKセーブ」肥料の普及については23年度の見込みで2万2000トンと22年度より約2割増えていますので、着実に拡大しています。そのほかにも低成分肥料としてBB肥料とか配合肥料がありますが、これも着実に増えています」
 「PKセーブについては、当初全国銘柄として4銘柄を出しましたが、現場のニーズをしっかり捉えてつくるべきだと考え、いまはブロックごとに地域の土壌条件にあったPKセーブをつくっていて、ブロック版PKセーブが13銘柄あります」
 ――土壌診断の役割が大きくなりますね。
 「どこでもPKセーブを使えばいいというわけではないので、土壌の状態をきちんと把握して対応するためには土壌診断が大きなポイントになります」

瓮福紫金 工場完成図

 

農薬事業
省力化がこれからのキーワードに


◆現場ニーズに応えた薬剤の共同開発を

 ――農薬についてはどうでしょうか。
 「全農として農薬共同開発積立金を設置しましたが、農薬業界に大きな影響を与えておりいろいろなご提案をメーカーからいただいております。
 私たちは全農の共同開発のコンセプトである『現場で困っている防除課題に応える』という観点から検討をさせていただいています。
 農薬の開発はすぐにとはいきませんので、4〜5年後には生産現場で喜んでいただけるような剤が開発できるのかなと思っています」
 「農薬業界は世界的にメーカーの寡占化が進み新農薬の開発を行っている海外メーカーは5社くらいです。そうなると海外メーカーは世界的にメジャーな作物にシフトして、水稲場面の開発の優先順位が低くなりますので、全農が開発資金の一部を負担することで、将来にわたって薬剤を確保していくことができると考えています」
 「また開発力の優れた国内メーカーもあり、そうしたメーカーからもご提案がありますので、そのことも含めて検討をしています」
 「また、水稲だけではなく、野菜や果樹など園芸関係についても共同開発を行い、現場で困っている防除ニーズに応えていきたいと考えています」


◆効果高く使用回数減少させたAVH―301剤

 ――園芸殺虫剤のスプラサイドのように、既存薬剤を買収することもあるわけですね。
 「そうです。そして全農が買収した主旨を農家に伝え、現場で使い続けていただきたいと思います」
 ――共同開発されたAVH―301剤はいかがですか。
 「AVHは抵抗性雑草に非常に効果がある剤ですが、実際に昨年初めて使っていただいた84軒の農家に聞いたところ、コスト低減つまり除草剤代が少なくなったことと、使用回数を大きく減らすことができたという結果を得ました」
 「総使用回数でみると、従来は抵抗性雑草が出てきたので、一発剤だけでは間に合わなくて後期剤や仕上剤、あるいは初期剤でつないでとかが当たり前で使用回数が平均2.29回でしたが、昨年はAVHを使ったので平均1.36回と約1回使用回数が減りました。そのため除草剤代金が42%も減っています」
 ――コスト抑制と省力化を実現した剤といえますね。
 「いま20〜30haの集落営農ということがいわれていますが、そのなかで実際に求められるのはひとつは省力化です。規模が大きくなったときに農薬の散布回数が減らせることは大きなメリットだといえます。そのことでコストも抑制されるので、省力化とコスト抑制ができるメニューを提案していくことも考えています」


◆省力化技術のノウハウを蓄積

 ――省力化がキーワードですね。
 「24年度には新しく『省力化実証圃』を始めようと考えています。省力化は肥料・農薬だけではなく農機など含めて統合して初めて本格的にできるわけですが、まずできるとことろからということで手をつけます」
 ――具体的には…
 「とりあえず『全量苗箱施肥』に取組みます。PK成分が十分にある水田が対象ですが、苗箱に良質コントロール肥料を置くことでこれで足りるという内容です。苗箱で施肥するので肥料成分が根の周辺にあり、利用効率が非常に高くなり、窒素の利用効率が8割以上になります。側条施肥だと3割くらい、水田の表面にまく方法だと1割くらいです」
 「こうした実証を通じて省力化の技術体系をご提案していきたいと思っています」


◆暦をベースにした安全防除運動をさらに推進

 ――安全防除運動も40年経ちましたね。
 「防除暦を活用して正しい防除をするのは世界的に見ても日本が一番しっかりやっています。その結果として日本の農産物くらいクリーンなものはありません。水稲とか果樹ではほぼ完璧ですが、野菜分野での防除暦の再チェックをきちんと行う運動をやってみようと考えています」
 「防除暦はJAも農家の方も昔からあるので当たり前だと思っていますが、世界的にみれば、欧州や米国ではコンサルタントに有料で作成してもらうケースが多いようで、営農指導の一環として無料で提供しているのは日本だけです」
 「日本ではJAグループの機能として防除暦が作成され、安全性と品質を両立させているわけで、すばらしいことだと思いますので、さらにこれを洗練されたものにしていきたいと考えています」


◆県域を超えた広域物流も

 ――農薬の広域物流も進んでいるようですね。
 「JA域を超えた広域物流は、全国で193JA(3月末現在)、119拠点になっています。それらの地域ではJAに代わって県本部が配達している戸配送比率が44%になっています。第一段階では県内での広域物流でしたが、第二段階としては県域を超えた物流を考え、福岡・長崎・大分の3県では『北部九州広域物流センター』を12月に稼動させる予定です。ここで在庫を持ち、農家ごとに戸配送するピッキングの作業も行います」
 ――ありがとうございました。

(2012.04.27)