特集

第26回JA全国大会特集 「地域と命と暮らしを守るために 次代へつなぐ協同を」
人づくり・組織づくり・地域づくり

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【人づくり・組織づくり・地域づくり】 作りあげよう!実践しよう!自らの手で  JA全中営農農地総合対策部担い手・農地対策課課長 田村政司

・ビジョンとプランに魂を
・地域に暮らす全ての人々が地域づくりの主役
・重層的な組織
・ネットワークづくり
・ビジョン運動=実践的な協同組合教育の場

 JAグループは5年後、10年後の地域農業の将来像を集落の話し合いから積み上げ、実践する「地域営農ビジョン全国運動」を展開していく。この運動は将来の地域農業の担い手と農地活用をどう描き農業生産の拡大と所得向上に結びつけるかが課題だが、それだけではなく協同の力による安心して暮らせる地域づくりをめざすものである。
 ここでは、この運動の意義について全国の取り組み事例をもとにJA全中の田村政司氏に解説をしてもらった。この運動の推進には地域をコーディネートするJA職員の「協同組合教育」も不可欠であることも強調している。

JA組合員と役職員一体となって将来像づくりを

地域営農ビジョン全国運動と地域づくり


1 ビジョンとプランに魂を

 JAグループとして、第26回JA全国大会決議をふまえ、4か年の地域営農ビジョン全国運動をスタートした。11月の米国大統領選が終われば、TPP交渉の動きが本格化する見通しであり、こうした動きに歯止めをかけるとともに、農家組合員の世代交代期において、将来の地域農業の担い手を育成し、農家組合員の営農と暮らしを守る必要がある。TPP阻止とビジョン運動は「車の両輪」の両輪であり、JA役職員・農家組合員が一体となり運動に取り組んでいく必要がある。
 ビジョン運動は、農家組合員が主体となって、集落、学校区、JA支店・営農センターなど、地域実態をふまえた適切エリアを定め、徹底した話し合いをおこない、(1)地域農業の核となる担い手経営体(農業で十分な所得が確保できる農業者)の明確化と育成、(2)兼業農家、ベテラン農家、定年帰農者など多様な担い手の活躍の場づくり、(3)地域の特性をふまえた産地づくり、(4)農を通じた豊かな地域づくりを重点とする地域営農ビジョンを策定し、実践していく運動である。
 一方、24年度より行政主体の人・農地プランがスタートしたが、青年就農給付金、農地集積協力金などの新たな政策の要件とされたため、現場段階では市町村単位の大括りの「政策支援希望者リスト」がプランとして取り急ぎ策定されているのが実態である。地域の中心となる担い手の明確化と育成という点において、JAグループの地域営農ビジョン運動と目指す方向は一致しており、JAと市町村等関係機関が連携した支援体制をつくり、地域レベルの話し合いと合意形成という「魂」を入れるべく、ビジョンとプランの一体的な取組をすすめていくことが当面する課題である。
 そして、多様な担い手の活躍の場づくり、農を通じた地域づくりという、人・プランにはない、地域協同組合としてのJA固有の課題への取り組みを強化していくことが今後の重要な課題である。


2 地域に暮らす全ての人々が地域づくりの主役

 稲作経営の規模拡大は進んでいるものの、1〜2ha前後の小規模農家が大半であり、後継者の多くは農外就業者である。農家後継者の意向をみると、長男だからいって、家とともに田んぼを引き継ぎ、トラクター・田植機・収穫機など1000万円近い機械を装備し、戸別完結型で稲作を継承していくのは困難な実態がある。規模拡大と適切な機械装備によるコスト削減が必要である。
 世代交代期において、水田農業においても、畜産や施設園芸のように専業的な農業者、もしくは、地域の農家組合員が協力し、集落営農経営体を組織化していく必要がある。
 また、集落営農経営体であっても、年間就農が可能な園芸品目や加工部門の導入などにより10年後をにらんで農業で飯を食う若者を育成していくことが必要であろう。
 しかしながら、地域農業を維持するため、特定の農業者だけを育てていくのであれば、組合員は減少し、地域の協同組合であるJA自らの組織・事業・経営基盤を弱体化させていくであろう。
 担い手の明確化・育成をすすめる一方で、農地の出し手を非農家、非組合員にしない取り組みが、地域の協同組合であるJAにとって不可欠の課題である。老若男女問わず、すべての農家組合員とその家族の活躍の場づくり、さらには地域住民を含めた協同組合の仲間づくりについて、担い手育成とセットですすめていくことが必要である。
 水管理や草刈り、生きがい農業と直売、食農教育活動、里山保全、鳥獣害対策など、高齢化する地域社会では、そこに暮らすすべての人々が豊かな地域づくりの主役である。その具体的な取組が、地域営農ビジョンにおける農を通じた地域づくりである。
農作業体験「味覚ツアー」5月開催のアスパラガスの収穫体験(JAいわて中央) JAいわて中央では、全地域で一集落・複数集落単位に農家組合が組織され、営農部と生活部が設置されて、農家組合員が主体となって、集落ビジョンを策定し、様々な活動を実践している。その一つ下湯沢農家組合では、ライスセンターや機械銀行方式による農作業受委託が活発に行われ、中核オペの中から若い農業後継者も生まれている。お年寄りの野菜づくりと孫への小遣い稼ぎの場であるミニ直売所では、昨年からジャガイモの委託加工をスタートし、若い奥さんを含めた女性の仕事と交流拠点に変身しつつある。
 また、15年ほど前に直売所裏に学童農園をつくり、食農教育をスタート。毎年11月の勤労感謝祭で集落の子供たちの農園活動の発表がおこなわれ、これを楽しみに幅広い年代の男女100人が集まる。こうした取り組みの中から、「集落や農地はおじいさんの仕事」と関心を示さなかったサラリーマン後継者が集落デビューするようになり、休日にライスセンターや機械作業を手伝う「集落の小さな担い手」がうまれている。

(写真)
農作業体験「味覚ツアー」5月開催のアスパラガスの収穫体験(JAいわて中央)


3 新たな時代のビジネスモデルと地域農商工連携

 TPPの目指す経済社会が大企業による規模の追求、国境を越えたグローバル化、利益の最大化と資本による分配であるとするなら、それとは逆の小規模事業による小さな仕事、地域密着とネットワーク、小さな所得と労働に応じた分配という新たな動きが全国でジワリジワリと広がってきている。農を通じた地域づくりは、地域協同活動的な取組から、新たな時代のビジネスモデルの基盤を形成する取組でもある。
世羅高原農場(広島県世羅町) 広島県世羅町の6次産業ネットワークでは、集落営農経営体はもちろんのこと、フラワーパーク、大小の直売所、ポニー牧場、地産地消レストラン、果樹体験農園、地元農業高校、食品加工会社が協力して、世羅町まるごと農業公園にしようというコンセプトでネットワークを形成。「世羅高原ロードマップ」、年間行事カレンダー作成、メンバーによる共同イベント、経営者セミナー開催などに取り組む。 ネットワークにより農業公園のアメニティーが充実し、世羅に行けば一日通して家族で農業や自然を楽しみ、お土産をもって帰ることができるとの認知度が高まった。その結果、平成21年は年間125万人の家族連れが訪れ、メンバーの店舗売上額も10年間で2倍の17億円になり、町の経済活性化の起爆剤となっている。
 ところで、国の政策の後押しを受ける形で6次産業化がすすめられつつあるが、その理念が一体どこにあるのか明確ではない。大企業の人材・ノウハウ・金による農業・農村インテグレートを志向したとしても、成果があがるとは到底考えられない。大規模小売店舗法の改正により、農地が転用され、駅前商店街がシャッター通り化した厳しい現実をふまえる必要がある。地域が豊かになるためには、まずは当事者である地域の人々の努力とネットワークを促すことが必要である。その意味でJAグループとして6次産業化を地域農商工連携と読み替えて、政策を使いこなしていく必要があるのではないか。

(写真)
世羅高原農場(広島県世羅町)


4 重層的な組織・ネットワークづくり

 営農ビジョン運動は、適切なエリアを定め、地域の農家組合員が全員参加し、話し合いと合意形成にもとづきビジョンを策定し、実践する取組であるが、ビジョンに基づき農業を営む農業者、組織経営体、直売所、加工場等の経営主体は必ずしも1経営体であるとは限らない。ビジョンの下で、個人農家、集落営農など複数の経営体が相互に連携しながら、農業経営、産地づくり、事業多角化等をすすめていく必要がある。こうした「2階建て方式」について、集落を機能に応じて分断するものであるとの誤解がある。「重層的な組織・ネットワークづくり」という方がより適切かもしれない。言葉の見直しを含め、今後のビジョン推進強化対策について検討していきたい。
(株)田切農産が運営する農産物直売施設「キッチンガーデンたぎり」(JA上伊那) 長野県のJA上伊那では、こうした取り組みによって、地域農業の振興、担い手経営体の育成に成果をあげている。なかでも飯島支所では、管内の旧村単位に地権者全員からなる地区営農組合(農用地利用改善団体)を組織し、その下で専従者を確保した担い手法人を設立した。農地の貸し借りは地区営農組合にすべて集約され、JAや町を含めた農地利用調整会議に諮られ、JA円滑化事業を通じて担い手法人に集積される仕組みとなっている。
 その一つ田切地区営農組合では、地区の農家全員が株主となり、集落営農法人(株)田切農産を設立するとともに、機動的な経営判断ができるよう取締役は2人に絞り込んだ。その結果、地区内農地の半分の90haが法人に利用権設定され、経営基盤が構築された。構成員農家は、専従者以外に草刈りや水管理、ネギの管理作業に従事。また、自給農地での野菜をつくり、法人が経営する直売所に出荷するなど、体力や関心に応じて、事業に参加し、所得向上に励んでいる。また、研究機関や地元食品加工会社とネットワークを結び、トウガラシビネガーを商品開発するなど6次産業化をすすめている。

(写真)
(株)田切農産が運営する農産物直売施設「キッチンガーデンたぎり」(JA上伊那)


5 ビジョン運動=実践的な協同組合教育の場

 地域営農ビジョン主体は農家組合員であるが、農地利用調整、多様な担い手の役割などビジョンの合意形成活動をすすめていくためには、組合員を組織し、活動をコーディネートするJA役職員の役割が不可欠である。バブル崩壊後の支所統廃合、事業部門ごとの縦割的な事業推進の中で、職員の中に「組合員はお客様」という意識が広がり、協同組合専従者としての組織力、コーディネート力が低下していることが懸念される。
 地域営農ビジョン運動をすすめていくためには、協同組合における組合員の役割、職員の役割を学び、実践を通じて体得していく協同組合教育の強化が不可欠である。協同組合原則やJA綱領をあらためて読みかえし理解を深めることも必要であるが、地域の組合員・役職員が車座になって、将来の地域農業を真剣に議論し、実践するビジョン運動そのものが実践的な協同組合教育の場である。ビジョン運動に先駆的に取り組むJAいわて花巻では、全職員を出身集落を基本に配置し、集落のお世話係を通じて、協同組合専従者としての役割を実践的に学ばせている。協同組合における人づくりという観点からも、ビジョン運動へのJAトップ層のご尽力をお願いする次第である。

(2012.10.05)