特集

第26回JA全国大会特集 「地域と命と暮らしを守るために 次代へつなぐ協同を」―協同組合の役割を考える―
立ち上がる被災地から

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【食と農の再生に向けて期待される協同組合の役割】 福島県における協同組合間協同による放射能汚染対策  小山良太 福島大学経済経営学類・准教授

・急がれる地域営農システムの再構築
・震災リスクと地域内の食料自給
・原子力災害に対する協同組合ネットワークによる対応
・国際協同組合年と福島県の協同組合間協同
・国は大事故の現実を直視し責任を

 東京電力福島第一原発事故が起きてから1年7カ月が経ったが、いまだに放射能汚染される以前への復旧はもとより復興の目途がたっていないのが現状だといえる。そうしたなか地域の暮らしと農業の再構築をめざして、農協や生協を中心とする県内の協同組合はさまざまな取り組みを進めてきている。そうした取り組みを小山良太福島大学准教授にまとめてもらった。

急がれる地域営農システムの再構築


◆原発事故による農業損失は年間1000億円

 東京電力福島第一原子力発電所事故から1年以上が経過した福島県では、米の放射性物質の規制値超えの問題により作付制限地域が拡大している。「風評」被害も継続しており、農業現場では営農意欲の減退から離農が促進されている。
 原子力災害以前(2010年)の福島県の農業粗生産額は約2500億円、販売農家は約8万戸であった。事故後の数値は未だに明らかにされていていないが、農業にかかわる損害賠償額が625億円(JA福島中央会、12年5月時点)にのぼることから、年間では1000億円程度の損失と推計される。
全国の生協組合員も参加して実施された放射能物質の土壌調査(12年9月24―25日JA新ふくしま) フローの産出額のみでこの規模である。さらに、農村内部には、地域の営農を支える様々な資源、組織、人間関係が構築されてきた。このような農村内部の関係性(社会関係資本)により、日本農業は形成・維持されてきたのである。
 今回の原子力災害の最大の問題は、放射能汚染により農産物が売れないというような単純な話ではなく、農業という産業と暮らしの空間(地域)自体を大きく毀損したことである。福島県では、地域の担い手や集落での営農方式などが受けた損害からどのように地域農業を再生させるのかが大きな課題となっている。

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全国の生協組合員も参加して実施された放射能物質の土壌調査(12年9月24―25日JA新ふくしま)


◆耕作放棄地問題などが原発事故で深刻化

 また、12年4月1日からは暫定規制値であった放射性セシウムの基準が500から100ベクレル/kg(以下ベクレルと表示)に引き下げられたが、検査体制の再整備の方向性を国が示さない中での引下げであったため現地では新基準への対応に追われている。
原発事故前への再生をめざして開催された「農林水産業復興大会」(12年3月二本松市民会館) 福島県の農業は、以前から担い手不足や農業者の高齢化、耕作放棄地の増大などが深刻な問題であったが、原発事故により、これらの問題がいっそう深刻なものとなった。原子力災害後の土地利用の再編や地域営農システムの再構築は急務であり、地域農業の再生に向けて、協同組合が大きな役割を果たすことが期待されている。
 しかし、原子力災害が地域農業へ与えた影響は未だ明らかにされておらず、また、原子力災害に対する協同組合間協同の取り組みについては、事態がいまだ収束していないこともあり体制を十分に構築することが困難な状況にある。
 このような状況下であるが本稿では、政府としての体制が未確立な中、放射能汚染から食と農の再生に向けての現地の取り組み、とりわけ福島県における協同組合組織の取り組みを紹介したい。

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原発事故前への再生をめざして開催された「農林水産業復興大会」(12年3月二本松市民会館)


震災リスクと地域内の食料自給

◆リスク対応が難しい食料の生産・流通

 東日本大震災と原子力災害の影響により日本の食料生産・流通の在り方が問われている。
 食料が他の財と異なる点は、食糧・食料の生産・流通は生存権に関わる問題であるにも関わらず、リスク対応が困難な財であるという点である。想定外のリスク、真の不確実性を想定させる事象が相次いで起こる時代である。口蹄疫、BSE、SARSなどの疫病や大地震、大津波、ハリケーンなどの天災、そして原発事故・放射能汚染の問題である。
 このような想定外のリスクに対応するためには生産・流通における面的な関係性の強化が必要である。
 近年、日本の農業生産では、個別経営が企業、量販店、スーパーと結びつく農商工連携が推進されてきたが、今回の震災・原発事故のような大きなリスクに際しては面的な対応が必要不可欠である。その意味で持続可能な生産・流通体制の再構築が求められている。
 日本の食料生産・流通は、企業の論理のもと効率化、合理化を図ってきた。JIT(ジャストインタイム)で在庫を抱えないサプライチェーンシステムが一般的になっている。


◆FEC自給圏の重要性を再認識

 経済評論家の内橋克人氏は、FEC自給圏を提唱し、フード、エネルギー、ケアは地域内で自給するべきだと主張している。今回の東日本大震災ではこのことの重要性を再認識させられた。
 東日本大震災で東北地方の物流が途切れると、ほとんど被害のない地域であっても流通が完全に分断された。
 FEC自給圏を分断してきた結果、フード、エネルギー、ケアを地域内で賄うことが出来なかったのである。筆者も含み被災地の住民はこのことの問題性を痛感する結果となった。
 効率性を追求した生産・流通体制のみでは、今回のような非常時に対応できないことが証明されたのである。
 さらに言えば、FEC自給すなわちローカルフードシステム、ローカルエネルギーシステムの構築には、地域の協同組合組織の機能とその連携・協同が必要不可欠である。BSEや口蹄疫、震災、原発事故など、食料生産・流通における真の不確実性にどのように対応するかが、大きな課題となっている。
 また、地域内にローカルフードシステムをつくったとしても、地域間の調整をする組織、連合会の機能も合わせて必要である。
 この点で既存の協同組合組織の枠組みを超えた連携の仕組みを地域内に構築することと、その地域間調整を行う連合会機能の発揮が求められている。
 食料問題におけるリスク対応、自給圏の構築には、農協、漁協、森林組合、生協等協同組合組織の本格的な協同組合間協同の実体化が必要である。


原子力災害に対する協同組合ネットワークによる対応

◆原発事故の実態を明らかに

 福島大学協同組合ネットワーク研究所は、福島大学において産官学が連携して、事業連携と協同組合間協同による地域社会の持続的発展に関する研究を行うことを目的として10年4月に設立された研究所である。
 本研究所は、地産地消運動促進ふくしま協同組合協議会(地産地消ふくしまネット)と共同して調査・研究活動を行ってきた。
 原発事故前の10年度の活動は、地産地消と協同組合間協同のビジネス・モデルの探求として、県内の農林水産業や協同組合組織の現状を把握し、現地調査を実施したうえで福島産農林水産物の商品開発や協同組合間協同を含む流通システムについて研究し、その成果をシンポジウムで発表している。
 ところが11年3月11日に起きた東日本大震災・原発事故により、地産地消と協同組合間協同のビジネス・モデルは、再構築する必要に迫られた。そのため11年度の活動は、放射能汚染による農林水産業の被害の実態を明らかにしつつ、原子力損害賠償や協同組合間協同を介した安全・安心の農林水産物の生産・流通・消費対策を研究することを課題とすることとなった。


◆「福島応援隊」など協同組合間協同を実践

 震災以降の1年半の活動内容をまとめると、11年3月は浜通り被災地支援・避難所支援を実施している。4月は、福島県産農産物の販売検討会を生協、JA、県農政、実需者で協議している。
12年産米の放射能全袋検査が福島市で9月下旬からはじまる 5月は独自の農産物検査、土壌分析を開始(ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会、道の駅ふくしま東和、福島県有機農業ネットワークが中心)し、損害賠償協議会(JA中央会)も申請を開始している。
 具体的な協同組合間協同の実践は、6月にJA・コープふくしま協同で行った福島応援モモギフトである。福島県内のJA、漁協、森林組合、生協でつくる地産地消ふくしまネットを主体に、県内企業に県産のモモのギフトを利用してもらう取り組み「福島応援隊」を開始した。
 原発事故の被害に悩むモモ農家を買い支えることで応援しようという企画であり、県内に本部や支店がある全国展開の会社を中心に呼び掛け、県外へ向けて県産のモモをPRするというものである。

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12年産米の放射能全袋検査が福島市で9月下旬からはじまる


◆ベラルーシへ視察調査も実施

 これを受けて7月には、国際協同組合デーを福島JAビルで開催し、全協同組合陣営が一堂に会し、連携して原子力災害に対応すること確認した。10月31日から11月7日にかけて、福島県、福島県生協連、JAグループ福島、福島大学が合同でウクライナ・ベラルーシ視察調査を行っている。
 これを受けて、検査方式の啓発・情報提供パンフ作成など、生協・JA合同企画を次年度に向けて開始することとなった。


国際協同組合年と福島県の協同組合間協同

◆新たな安全・安心な地域未来社会をめざして

 12年に入ると、福島県では県内各協同組合陣営が協力し、国際協同組合年実行委員会(11年12月8日設立)を立ち上げ原子力災害の現状分析と真の復興を目指した取り組みを進めている。
東京・吉祥寺でも「福島復興マルシェ」が開催され福島県産の安全な野菜が販売された(12年1月) 現状の事実をしっかりと調査・分析して、事実に基づき、今後の課題を抽出し、さらにそれらの課題を克服し、単に震災前の状態に戻すのではなく、新たな安全・安心な地域未来社会を構築することを目指している。
 前述した福島大学協同組合ネットワーク研究所と連携し、また地産地消運動促進ふくしま協同組合協議会の実践活動「絆で復興!!ふくしまSTYLE」の具体化として復興対策に取り組んでいる。
 12国際協同組合年福島県実行委員会では、12年3月に福島県農林水産業復興大会を実施した。

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東京・吉祥寺でも「福島復興マルシェ」が開催され福島県産の安全な野菜が販売された(12年1月)


◆東京からの参加者もあった七夕マルシェ

多様な協同組織から40店舗が参加し、福島JAビル開催された「七夕マルシェ」(12年7月7日) 同7月7日には福島復興七夕マルシェを仮設住宅が隣接する福島県JAビル駐車場で開催し、翌8日第90回国際協同組合デー記念フォーラムを実施した。七夕マルシェは福島県内10JA、各連合会、福島県中通地区の直売所運営農家グループ、6次産業化を推進してきた加工組織、双葉8町村からの避難農家で構成される、かーちゃんの力プロジェクト、ワーカーズコープによる原釜朝市など多様な協同組織により構成された。全40店舗が参加した。
 近隣には浪江町、飯舘村の仮設住宅が設置されており、仮設住宅の住民も合わせ約1400人の来場者、約150万円の売り上げとなった。
 来場者には、東京からバスで参加した丸の内朝大学の受講者80人や三春町にある葛尾村の仮設住宅の住民30人も含まれている。
 復興マルシェでは、福島大学うつくしまふくしま未来支援センターの放射線専門家による放射性物質検査デモンストレーションや被災農家と消費者の対話により放射能汚染と風評問題を考えるファーマーズカフェを同時開催した。
 ファーマーズカフェでは、3.11以降出漁制限により漁業を再開できないでいた相馬双葉漁協による現状報告と試験操業・販売の取り組みについての報告などマスコミも含め大きな注目を集めた。

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多様な協同組織から40店舗が参加し、福島JAビル開催された「七夕マルシェ」(12年7月7日)


◆10.21に2回目のマルシェを計画

原発事故被害で悩むモモ農家を買い支える福島応援モモギフトを県内外へPR また、12年10月20・21日に福島駅前の街なか広場において2回目の復興マルシェを開催する。
 放射能汚染に対する海、森、農の取り組みを紹介するとともに、体系立てた安全検査の在り方(汚染マップや自主検査)とその成果物である安全性の確認できた農産物の提供・販売を行い、実際に地域住民や消費者と交流しながら購買してもらう予定である。

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原発事故被害で悩むモモ農家を買い支える福島応援モモギフトを県内外へPR


◆福島の子ども保養プロジェクト

 さらに、東電福島第一原発の事故以来、福島の子どもたちをとりまく生活環境は困難な状況が続いている。
 福島県生協連では、こうした子どもたちや保護者に寄り添いながら、できる限りの支援をしたいということで、福島大学災害復興研究所とつながりながら「福島の子ども保養プロジェクト」を実施している。
 休日・祝日・長期休暇を利用して、放射線量の低い地域に子どもと保護者を連れ出し、子どもたちが十分に外遊びできる企画、子どもたちの笑顔を取り戻すための企画、保護者の疲れを癒す企画、受け入れ地域の方々と交流する企画等を実施している。
 福島の子ども保養プロジェクトでは、約2500人の子供たちを受け入れている。


◆産消提携による放射線量分布マップ作成

 現在、JA新ふくしまの汚染マップ作成事業に福島県生協連(日本生協連会員生協に応援要請)の職員・組合員も参加し、産消提携で全農地を対象に水田、畑1枚ごとに放射線量を測定して汚染状況をより細かな単位で明らかにする取り組みを開始している。
 12年8月と9月に約10名の生協ボランティアが参加し、福島県生協連、ならコープ、医療生協、生協総研などがJA新ふくしま管内の農地の測定に参加し、除染の実態や食品検査体制を協働で体験した。
 県外の消費者である生協ボランティアの方々に実際に目で見て、汚染マップ作成現場を体験しながら、産地福島の安全・安心の取り組みに対し、少しでも理解を促進できる取り組みとして産消提携の汚染マップ作成事業を企画したのである。
 このような消費者も関わる検査体制づくりとそこでの認証の仕組みを国の政策へと昇華させていくことが必要となる。現状に落胆していても事態は進まない。協同組合間協同をベースとしたボトムアップ型の制度設計と政策提言が求められている。


国は大事故の現実を直視し責任を

◆生産者も消費者もともに被害者

 放射能汚染の問題を生産者対消費者の問題に矮小化することがあってはならない。風評被害という言葉では、被害者は生産者であり、加害者は消費者ということになる。
 さまざまな見解が示される基準値問題と穴だらけのサンプル調査に、消費者だけでなく生産者も不安を感じている。突然の原発事故・放射能汚染で本年の営農計画を断絶された生産者は完全な被害者であり、その後の対策における不作為により翻弄されている消費者も被害者である。
 風評問題の原因は、安全検査の信頼性の欠如(サンプルの精度)、安全基準根拠の不明確性にある。その根源的問題は農地の汚染マップが作成されない中でのサンプル調査にある。
 「賠償」を恐れて「損害」を過小評価するため調査や検査を限定化するといったことがあってはならない。正確な情報を全国民に公表することが求められる。
 政府は将来世代につけを回してはならない。汚染調査、検査体制の強化、真の情報公開による直近の費用増大と汚染拡大による不信・不安、現実の健康被害を将来的に支払うことの費用の大きさを、比較・検討してほしい。それだけの大事故・大事件である現実を直視することが必要である。
 いつまでも福島県や各自治体、JAに責務を押し付けることを続けていてはならない。
 放射線量マップのような基礎的調査の結果、正確な現状分析がはじめて可能となる。これを踏まえずに除染プロジェクトの推進や復興・再生計画の策定・実行は現実的にはあり得ない。


◆消費者自らがかかわる安全検査体制を

 福島県では独自の土壌検査、農産物・食品検査を実施し、何とか消費者に安全な食料を届けられるように努力している。しかし、消費者の安心の前提にはそもそも汚染地域がどの程度広がり、高濃度汚染地域の農産物が流通に乗らないという確かな情報が求められる。そのためには、如何に独自検査を先行させても、公的機関による統一的な基準が絶対に必要となる。今後は、ボトムアップによる地域独自の動きを国・自治体の取り組みに接合させていくことが必要となる。
 そこで重要なのが、福島県内各協同組合組織を横断する協同組合間協同モデル内で4段階安全検査体制を組み込んだ産消提携モデルを構築することである。特に安全検査に消費者自身がかかわる体制づくりと認証制度の構築は必須課題であるといえる。
 4段階安全検査と生産・流通モデルを協同組合間協同事業として設計し、緊急時のリスクに対応した域内フードシステムと地域間システムの構築に関する理論を解明することが急がれる。

(2012.10.12)