農の守護人
- 著者
- 林正照
- 発行所
- 愛媛ジャーナル
- 発行日
- 2013年4月2日
- 定価
- 1500円+税
- 電話
- 089-947-4160
- 評者
- 仲野隆三 / JA富里市元常務理事
農協人としての貴重な体験に学ぶ
著者は昭和37年に当時の西三浦農協に入組以来、島嶼部の半農半漁の組合員や地域住民との協同活動を通じて上司や先輩、同僚に支えられ、自ら学び部下に対しては「利用者の心を打つ、小さな親切が大きな信頼を生む」、「自ら燃えて、人を燃やせ」と理念と情熱をはぐくみ現場感覚にもとづいた農業協同組合人である。
その一端を紹介すると、昭和53年半農半漁の宇和海第一支所長(宇和島農協)として転勤、地域は遊子漁協と農協が入り混じるなど農協事業は劣勢であった。そんな中で合成洗剤から海を守ろうと「合成洗剤の追放運動」が始まる。合成洗剤は生活購買事業の推進品目、同僚や先輩から冷や飯を食うぞと忠告されるが、少々の損失が出たとしても地域社会から信頼を得ることが農協として何よりも大切と「合成洗剤取扱い中止」を決断した。
後に遊子漁協の組合長から「合成洗剤追放で損失が出れば農協の組合員にも迷惑がかかることは私の本意でない」、それにかわる粉石けんの購買は一手に扱わせて頂きたいと「農協の生活事業への協力を申し出た」。これを機に主婦が粉石けんを買いにくる。ついでに食品や日用品を買い求め支所の購買事業は一気に伸びた。著者は自分達の利益という「小我を捨て」地域の海という共有財産の保全という「大我につく」ことが必要だと、その信念を述べている。
本書は第1章「青年団活動と長い闘病生活、家電製品の販売推進、3つの貴重な経験が今の自分をつくる」、第2章「多様な機能を有する農業は、地域を肥やして環境を保全し、国を守る国家の基」?思いを刻んだ第二の故郷(宇和海第一支所)?、第3章「県下で農協貯金一兆円を達成する中…―渉外担当は専門能力と理論武装が必要(55歳で大学に学ぶ)、第4章「広域合併の前提としての理念と展望が必要・合併による可能性を真剣に模索する中に未来が拓ける」、第5章「食の安全・安心・新鮮にこだわったファーマーズマーケットーが見事に花開く」―時代の要請を見据え反対を押し切って「直売所(みなみくん)」の開設に首を賭ける…、第6章「協同組合の相互扶助の精神に根差し…―島嶼部のJA福祉事業、入浴サービスに喜ぶ老老介護の夫婦…、第7章「人が元気、組織が元気、地域が元気?農業に活力をもたらし未来を切り拓くのは女性と青年の力」、第8章「東日本大震災の支援活動を通じ…」、第9章「TPPに参加すれば日本の農業は崩壊し、食の安全保障は根底から揺るぎかねない」そして第15章「JAは農業、農家を守り抜く最後の砦、農の守護人であらねばならない」など、多くの経験談がまとめられている。
今、農協は大型化し地域及び組合員さらに地域住民との関係が希薄になっており地域や組合員ニーズを把握することができないでいるといえよう。著者が現場で一から築き上げてきたものは組合員や地域との信頼関係ではないだろうか、その中で農協の役割が何か、その判断力と決断力が試される。とくに本書の第1章と第2章、第5章、第6章に著者の思い入れを強く感じる。「自ら燃えて、人を燃やす」…いま農協人に必要なことはこの理念ではないだろうか。
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