アベノミクスの成否の鍵は財界にある2013年1月21日
安倍晋三首相の経済政策をアベノミクスといっている。それは、3つの矢を束ねた成長政策だという。山口県出身らしく、毛利元就の三本の矢の教えにちなんで名付けたのだろう。
第1の矢は大巾な金融緩和、第2の矢は多額の財政出動、第3の矢は民間投資の誘導だという。この3つの矢でデフレから脱却し、経済を成長軌道に乗せようとしている。
このアベノミクスで、農家経済や農村経済は良くなるだろうか。
上の図は、最近の7年間について、農家の兼業収入のうち、賃金収入の推移を示したものである。2004年から最新資料の2010年までである。
農家の賃金収入を、全国の1戸あたり平均年額でみたものだが、2004年には173万円だった。それが、2010年には112万円にまで減った。実に61万円の減少である。率にすると35%の減少率になる。つまり、7年間で3分の1以上減り、3分の2以下になってしまった。
アベノミクスで、今後どうなるか。
◇
賃金収入が減った原因は、雇用日数が減ったのと、1日あたりの賃金が減ったのとである。それを掛け算した賃金収入が減ったのである。
アベノミクスで、今後、雇用が増えるか。賃金が増えるか。そして、掛け算をした賃金収入が増えるか。それが問題である。
◇
第1の矢は金融緩和だが、すでに金融は充分に緩和している。資金が不足している訳ではない。社内留保は潤沢にある。だから、これ以上金融を緩和しても、企業の投資は増えないだろう。投資しても収益の見込みがないからである。
また、消費者の消費も増えないだろう。前の図のように、農家だけでなく、消費者全体でみても収入が減り続けているからである。雇用が減り、賃金が減り続けているからである。
だから、企業の投資を増やすしかない。それには、企業が収益的な投資分野を創り出すしかない。それは、新技術の開発であり、新製品の創出である。技術者だけに任せておくことではない。社長が先頭に立って、全社員が一丸になって、それに取り組むことである。
◇
このことは、かつて経済成長の時代には、各企業がやってきたことである。社長は社員の雇用を安定させ、賃金を増やすことを最重要に考えてきた。それが社長の社会的責務だし、誇りだった。そうして、収益的な投資分野を開拓してきた。その結果、社員の賃金を増やしてきた。
だが、いまの多くの社長たちは、賃金を減らすことしか考えていない。正社員を減らして不正規社員に代えることしか考えていない。そして、雇用の安定を軽視してきた。これでは、技術開発もできないし、新製品もできない。
その先頭に経団連などの財界がいる。こうした考えを反省して改めねば、アベノミクスは絵に描いた餅で終わるだろう。
◇
企業は収益的な投資先がないからといって、投資のためのモノを買わないし、消費者も収入が増えないからモノを買えないとなれば、残る買い手は政府しかない。それが第2の矢の財政出動である。だが、この効果は一過性である。
たしかに、政府が公共事業などのためにモノを買えば、その分だけモノが売れて景気がよくなるだろう。だが、予算を使い切れば、それで終わりだ。借金だけが残る。
こうなれば、アベノミクスは失敗する。成功させるには、予算を使い切る前に民間投資を促すことである。つまり、社長たちの考えを変えるような政策を、同時に行わねばならない。
◇
第3の矢は民間投資の誘導である。これまで述べてきたように、ここにこそ成功の鍵がある。
金融緩和だけでは成功しないだろう。一過性の公共事業の重視でも成功しないだろう。そうではなくて、企業の新技術、新製品開発を支援するための政策こそが重要である。エネルギー産業など、新産業分野の開拓もある。
そのためには、前に述べたように、社長たちが、これまでの考えを改めねばならない。政府は、そのための誘導策を早急に具体化しなければならない。
◇
これに失敗すれば、政府には膨大な借金が残るだけだ。国債の価格は下がるし、悪性のインフレになるおそれもある。そして、農家兼業の賃金収入は、実質的に減り続ける。
だが、これに成功すれば、以前のような豊かさが農村に戻るだろう。都市も豊かになる。
そのために不可欠なことは、もう一度いうが、社長たちの財界の考え、つまり、雇用を不安定にさせて賃金を下げる、という考えを断ち切らねばならない。政治はそうした誘導をしなければならない。
アベノミクスの成否の鍵は、財界が握っている。
(前回 市場原理主義農政への回帰)
(前々回 2013年-激動の予感)
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