減反交付金は半減の7500円―そして0円へ2013年11月25日
米政策見直しの与党案の姿が、ようやく見え出してきた。
まず見えてきたのは、最悪の部分である。米の戸別所得補償制度の固定支払いの交付金を、来年から半減するという。これを、見直し案の最も重要な部分にしたいのだろう。
いままで、主食米の減産、つまり減反に協力した農家へ、政府は10アール当たり1万5000円の交付金を支払ってきた。そうして、供給量が過剰になるのを避けてきた。つまり、政府は生産調整という名前で減反の責任を負ってきた。その責任を果たすための交付金だった。
それを来年から半分の7500円に値切るという。しかも、5年後にはゼロにしたいようだ。そうなると、農家は減反に協力しても、いわゆるメリットは半減し、5年後には無くなってしまう。それでは、減反に協力する農家はいなくなる。政府は傍観しているだけで、減反の責任を放棄することになる。
そうして、政府は米の需給と価格を安定させる責任を放棄しようとしている。
政府は、減反の責任を放棄して、需給と価格の安定を市場に任せようとしている。米を、財界好みの市場原理主義にさらすというのである。
そうなれば、市場は、言葉どおり無政府状態になる。その結果、供給量が過剰になって米価が下がる。このことに疑問の余地はない。
政府は米価の引き下げを狙っている、としか思えない。米価を下げることで、いわゆる構造改革をし、コストを下げ、競争力を強める、という。
そのために、農家がどれほど苦難しても、それは市場の責任で、政府の責任ではない、と言わせたいのだろう。だが、そうはいかない。
◇
農家にとって、交付金が減ることで収入が減る。その上、米価が下がることで収入が減る。
見直し案は、農家に対して、二重の収入減、という過酷な苦難を強いる。
どれほどの苦難か。大規模経営のばあいを考えよう。
10haの大規模経営のばあい、交付金は来年から75万円減る。5年後には、さらに75万円減って、150万円減る。
これに米価の下落が重なる。かりに1俵1000円下がったとすると、反収9俵として、90万円の収入減になる。
この2つを合計すると、来年からは165万円の収入減、5年後からは240万円の収入減になる。
もちろん、経費が減るわけではない。だから、収入減は、そのまま所得の減少になる。
◇
減反をやめて交付金をゼロにし、その結果、米価を下げて、市場の力で、いわゆる構造改革、つまり、大規模化を計るという。
だが、この政策で最も深刻な苦境に陥るのは大規模経営である。だから、いわゆる構造改革に逆行する。つまり、政策の目的と手段が矛盾している。
むりやり構造改革をするには、市場原理主義を捨てるしかない。つまり、市場の力に任すのではなく、それを抑え、政治の力で小規模経営を切り捨てて、大規模経営を優遇するしかない。つまり、選別政策をとるしかない。
◇
選別政策は、農村で、最も嫌われている政策である。農村の共同社会では、一人勝ちは許されない。この政策で切り捨てられる小規模経営の高齢者や兼業者は、大規模経営に協力しないだろう。だから、やがて大規模経営も立ち行かなくなるだろう。
このことは、農村の現場を知っている政治家なら、誰でも知っている。近いうちに選挙はないから、そのうちに忘れるだろう、と考えているのなら甘い。やがて大きな代償を支払うことになるだろう。
この見直し案は、日本農業を、そして農村を、歴史的な混乱に陥れる悪政の提案である。
(前回 米政策見直し案の財源問題)
(前々回 農水省の米政策見直し案で米価は底なし沼へ)
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