新農政は政府の責任放棄2014年2月3日
新しい農政で、政府は主食の米の減反をやめて、食糧の安定供給の責任を放棄しようとしている。
農水省資料(本文下参照)をみると、「意欲ある農業者が、自らの経営判断で作物を選択する状況を実現する」ことで、「行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、需要に応じた主食用米生産が行われるよう」にするのだという。
個々の農業者の自由な経営判断で、主食米を生産しても、それを全国集計した生産量は、需要に応じた生産になる、という。つまり、供給不足もなく、過剰供給もない安定供給ができる、という超楽観的な政策である。政治は、そのことに関与しないでいいという。そんなことは、万能の神さましかできない。
これは、超楽観的というよりも、神だのみを装った責任逃れである。
いままでは、政治が主食米の生産目標を決め、その達成に協力した農業者に対して生産費を補償する、という手厚い政策のもとで、需要に応じた安定供給をしてきた。
農業者は、この政策に協力すれば、生産費が補償されるので、安心して生産に励むことができた。
それを4年後からやめる、というのである。
◇
4年後からは、政府は主食の米の安定供給についての責任を捨て、個々の農業者の自由な経営判断に任せるという。
一部の市場原理主義者の口車に乗って、自由はいいことだ、と言いたいのだろうが、その結果、主食の供給が不安定になる。それは、農業者だけでなく、大多数の国民は望んでいない。
◇
4年後からどうなるか。
個々の農業者がどれほどの米を作るか、は自らの経営判断に任せる、というのだが、個々の農業者の経営判断にとって、重要なことは、安定供給に貢献できるかどうかではない。そんなことは個々の農業者には分からない。最も重要なことは、米を作ることで、どれほどの収入が得られるか、である。
昨年までは、安定供給のために、政府が策定した生産目標に協力すれば、生産費が補償されるから、どれほど作り、どれほどの収入になるかは、作る前から分かっていた。こうして、個々の農業者は安定供給に貢献してきた。
◇
4年後からは、米からの収入は、政府から補償金がなくなるから、米の販売代金だけになる。
米の販売代金は、どうなるか。販売代金は販売量と米価を掛け算したものである。
このうち、販売量は増やすだろう。生産費の補償がなくなるので、農業者は収入を維持しようとするからである。全国の農業者が勝手に増やすのだが、全国集計した量で、どれほど増えるかは分からない。
販売量が増えるから、米価は下がるだろう。だが、どれほど下がるかは分からない。
販売量も米価も分からない。まっ暗闇のなかで米を作ることになる。
だが、掛け算した販売代金は、確実に減るだろう。それが農業に特有な「豊作貧乏」という経験法則である。豊作で販売量が増えれば、その割合以上に米価が下がるのである。だから、2つを掛け算した販売代金は減る。これが豊作貧乏である。
主食の米を、こうした状況に陥れることになれば、わが国の食糧安保は危機に瀕する。新農政は、それを避けるために、今後4年の間に根本的な修正を加えねばならない。
◇
最後に2つ言っておこう。
冒頭に引用したように、この行政文書は農業者を、意欲ある農業者と意欲のない農業者とに分けているようだ。
これでは、農業者が主権者で、行政は公僕の集団であることを忘れて、公僕が主権者の農業者を見下げることになる。
こうした態度は、農業者の心の深部に不快な滓のように滞る。意欲のない農業者が、どこにいるというのか。意欲を奪ったのは誰か。このような行政を手先きにして、悪者に仕立て上げた政治家である。
もう1つは、いままで農業者が行政に頼っていた、とする前時代的考えが透けてみえることである。
だが、そうではない。公僕である行政が、主権者である農業者に奉仕していたのである。
言葉じりを捉えているのではない。こうした考えでは、新農政の主要な柱に据える、官主導の「農地中間管理機構」は機能しないだろう。
これらを見逃す政治家もまた、やがて官僚から見下されるだろう。われわれが選んだ、われわれの政治家たちの奮起を期待したい。
農水省資料「新たな農業・農村政策が始まります!!」は コチラから
(前回 安倍首相が減反廃止の無責任演説)
(前々回 米価下落の対策を急げ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【現地レポート・JAの水田農業戦略】新たな輪作で活路(2)子実コーンの「先駆者」 JA古川2024年3月29日
-
農業者所得増加へデジタルビジネス加速 農林中金 中期ビジョンを策定2024年3月29日
-
「子ども世代に農業勧めたい」生産者の2割 所得向上が課題 農林中金調査2024年3月29日
-
東京・大阪で組合長らが 「夢大地かもと」スイカをPR JA鹿本2024年3月29日
-
全国から1,000名を超える農業の担い手が集う 「第26回全国農業担い手サミットinさが」開催 佐賀県2024年3月29日
-
家族みんなで夏の農業体験はじめよう 食農体験イベント「土袋でデコきゅうり」開催 JA兵庫六甲2024年3月29日
-
(377)食中毒1万人は多いか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年3月29日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第96回2024年3月29日
-
【人事異動】全国農業会議所(4月1日付)2024年3月29日
-
品種で異なるメロンの味わいを体験 自由が丘「一果房」で29日から 青木商店2024年3月29日
-
第160回勉強会「レジリエントな植物工場運営・発展に向けて~災害からの復旧・復興事例から学ぶ」開催 植物工場研究会2024年3月29日
-
創立55周年記念 ガーデニング用 殺虫・殺菌スプレーなど発売 住友化学園芸2024年3月29日
-
「核兵器禁止条約」参加求める26万の署名 藤沢市議会が意見を採択 パルシステム神奈川2024年3月29日
-
尾鷲伝統の味「尾鷲甘夏」出荷開始 JA伊勢2024年3月29日
-
令和6年能登半島地震 被災地農家を応援 JA全農石川へ寄付 KOMPEITO2024年3月29日
-
林木育種センター九州育種場 九州育種基本区の「スギエリートツリー特性表」公表 森林総研2024年3月29日
-
農業フランチャイズのクールコネクト シードラウンドで3200万円を調達2024年3月29日
-
鳥インフル 米メイン州からの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年3月29日
-
畜産施設の糞尿処理で悪臭対策 良質な堆肥化を促進 微生物製剤を開発 B・Jコーポレーション2024年3月29日
-
水田のスマート水管理で東大大学院農学生命科学研究科と共同研究開始 ほくつう2024年3月29日