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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2015.01.19 
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 西川公也農水相は、9日の記者会見で農協の監査について、「あくまでも公認会計士の監査制度でやっていきたい」と言い出した。中央会の監査の否定というだけでなく、農協監査を全面的に否定する発言である。
 これまでは、中央会の監査でもいいし、公認会計士の監査でもいい、と言っていた。農協法に基づく中央会の監査権限を剥奪したうえでの選択制である。それでも良くないが、こんどは、さらに良くない方へ一歩進めて、農協監査そのものを否定する、という。農協監査の特殊性を否定して、一般企業と同じに公認会計士による監査にする、というのである。
 一般企業の監査は、投資家のための監査である。オレだけ、カネだけ、イマだけ、という投資家も満足させるための監査である。
 農協監査は、それとは違って組合員のための総合監査である。万人が1人を迷わせないための監査である。
 いったいなぜ中央会の農協監査を否定するのか。理由が分からない。民間団体である中央会に対して、政府が権力的にその機能の変更を迫るのであれば、理由を説明する責任がある。

 これまで、農水相は昨年6月に閣議決定した「規制改革実施計画」を錦の御旗にして、いわゆる農協改革を迫ってきた。
 しかし、この閣議決定をみると、その中では監査について何もいっていない。閣議決定の全文は31825文字だが、その中に「監査」の文字はどこにもない。関連する部分は、「中央会制度は……自律的な新たな制度に移行する」というだけである。それに続けて「具体的な事業や組織の在り方については、農協系統組織内での検討も踏まえて……結論を得る。」ともいっている。
 だから、農水相の農協監査についての発言は、閣議決定を逸脱し、暴走している。大臣の公式な発言とも思えない。
 閣議決定を逸脱した発言でも、それが良い発言なら、声援を送ろう。だが、そうではない。
 いったい、どこへ向かって暴走を始めたのか。

 この閣議決定の後、昨年11月に、財界寄りの規制改革会議が「農業協同組合の見直しに関する意見」を発表した。
 その主張は、中央会の一般社団法人化である。つまり、農協法から中央会を抹殺する主張である。もちろん中央会監査の法的根拠を無くす主張である。
 こんど、農水相はこの主張を丸呑みした。暴走の行き先には財界の歓迎が待っている。
 農水相は、内閣の一員であるよりも、財界の代弁者になった。これまで農林族といわれてきたが、これからは農林族財界派というべきだろう。内閣の一員として、閣議決定の内容を農業者に説明するのではなく、財界の主張を代弁し、強権的に農業者を説得する役目を果たそうとして、しかし不様に失敗している。

 中央会監査をやめて、公認会計士監査にする理由は何か。
 農水相は、農協の経営は健全になったから、中央会監査は必要がなくなった、という。
 だが、中央会監査は、農協の健全な発展を目的にしている(農協法第73条の22、第73条の15)。農協は充分に発展したから中央会監査は不必要だ、というのだろうか。農協は不断に発展している。これ以上発展しなくてもいい、と考えているとしたら、そうした不当な考えは糾弾しなければならない。
 つまり、不当に農協法の目的を変えて、農協の発展を目的から外さないかぎり、これは理由にならない。

 また、中央会監査があることによって、単協の活動の自由が妨げられているという。
 某県ではブドウが1房55万円で売れた、という事例を示して、売り方を工夫すれば、所得はまだまだ増えるという。普通は1房550円程度だから、1000倍になる、というのだろう。しかし、中央会監査があって単協の活動の自由を奪っているから、所得増が実現できない、という。そんな因果関係はない。
 55万円で売れることと、単協の活動の自由と、中央会監査との相互関係の説明は全くない。ここでいうような因果関係はないのだ。
 つまり、これも理由になっていない。

 これだけ強硬に中央会監査を否定するのだから、深い理由があるに違いない。だが、理由をあからさまに説明できないのだろう。何故か。
 理由は、それが財界のためのもので、組合員のためにならないからである、と思うしかない。
 財界は、中央会監査を否定することで中央会を弱体化しようとしている。そのきっかけは、中央会が行っている反TPP運動である。そうした政治運動を弱体化したい、と考えている。
 そのために中央会と単協を互いに反目させたいのだろう。だから、組合員のために中央会監査をなくすのだ、と言っている。
 だが、農協運動の司令部である中央会の弱体化は、そのまま農協運動の弱体化になる。決して組合員のためにはならない。
 労働組合が無力化したいま、農協を叩けば、財界が思うままに政治を操れる。ここに中央会監査の否定の、そして農協攻撃の真の理由がある。
 こうした陰謀は、来週の26日から始まる国会の中で、また国会外の地方から国会を取り巻き、断固とした拒否の声を大きく上げねばならない。国内外の多くの人びとから、力強い声援が響いてくるだろう。

 昨日、民主党の新代表が岡田克也氏に決まった。新国会では農協問題が与野党間の大きな論点になるだろう。それは、4月の統一地方選挙での重大な論点になる。
 岡田氏は、農協問題について、自民党財界派と同じような主張をしている。彼が率いる新しい民主党は、農業問題について、今後どのような主張をし、一致団結して自民党と対峙するのだろうか。地方の全ての農業者が注視している。くれぐれも、岡田民主党は自民党岡田派だ、と揶揄されないように祈るばかりである。


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