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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2015.02.25 
農協と農業を外資へ売るな一覧へ

 安倍晋三首相は、国会の冒頭の施政方針演説で、いわゆる農協改革を第1に取り上げ、「農協改革を断行します」と宣言した。まるで、勝ち誇るように高揚した言い方だった。農協を説得して、農協法の改正にめどをつけた、と言いたかったのだろう。「戦後以来の大改革」、「農政の大改革」が緒についた、と言いたかったようだ。
 首相がいう農協改革の行きつく先には、何が待っているのか。
 待っているのは、農協の株式会社化であり、信用・共済事業の分割であり、さらに、農業への外部資本の導入である。外部資本といっても、細々とした国内の関連資本などではない、巨大なグローバル資本である。
 そうなることを、首相が認識しているかどうか分からないが、これは、外国で実際に行われ、失敗している事実である。

 イギリスでは、牛乳の農協ともいうべき酪農家組織(ミルク・マーケティング・ボード)を解体し、大手スーパーと多国籍企業に売り飛ばした。その結果、酪農家は買い叩きにあい、乳価は半値程度に下がった。酪農家は激しい抗議運動で応えた。
 カナダでは、4つの農協を株式会社化した。それまでの市場シェアは80%だったが、株式会社になったので、独禁法を適用され、50%以下に下げることになった。このため、美味しい農家だけを取引相手にした。その後、まもなく欧州資本に会社ごと売った。そして、市場シェアを35%に下げた。
 オーストラリアの小麦は、政府機関であるAWBが独占的に輸出していた。この機関は、農業者に共同計算で精算するなど、実質的な農協だった。これを株式会社化した。初めのうちは、農家向けの議決権つきの株式と、議決権なしの株式とに分けて、農外資本の支配力を制限していた。だが、それもやめて、結局、米国資本に売ってしまった。
 ハワイを最近訪れた十勝(北海道)の農業者は、景観の激変ぶりに驚いたという。以前に訪れたときは、農地はパイナップルの緑で覆われていた。その後、株式会社の経営になったが、まもなく撤退し、いまは目を覆うような荒地になってしまった。これをみて、自分は、自分の農地で、家族といっしょに農業をしていて良かった、とつくづく思ったという。
 こうした事例をあげれば、きりがない。

 日本で、農協を株式会社にしたらどうなるか。
 いきなり株式会社にするのではなく、改革案では、農協の「理事の半数を原則として認定農業者や農産物販売・経営のプロとする」としている。ここに、地雷が隠されている。
 「認定農業者」は、大規模専業農業者だけだ、と誤解しやすいが、そうではない。「認定農業者」には、法人が含まれている。株式会社代表も大勢が農協の理事になれる。そうなれば、株式会社が農協理事会を乗っ取りやすくなる。
 農協を株式会社が乗っ取るための第1歩になる爆弾が、ここに密かに仕掛けられている。

 さて、農協を乗っ取った株式会社は、どうなるか。
 法人税が高くなるだけではない。株式会社は、当然だが独禁法を適用される。だから、共同販売や共同購入、計画販売やリレー出荷などは、談合として摘発されるだろう。
 それだけではない。全農のように大きな市場シェアは持てなくなる。市場シェアを下げざるをえない。
 それをテコにして、取引相手である農家を選別する。会社にとって都合のいい、美味しい農家、つまり、買い叩きに対して従順に従う農家だけを取引相手にする。そして、不平をいう農家は容赦なく切り捨てる。さらに、それをテコにして、資材価格を吊り上げる。それに不平をいう農家も切り捨てる。
 不平をいう農業者に行き場所はない。株式会社は、賃金に不平をいう農業者は、農作業の従事者に雇わない。低賃金に従順な農業者だけを雇う。こうして、農協だけでなく、農業を乗っ取る。

 こうした悪辣なことをするから、しばらくの間は株式会社の農業経営が続くかもしれない。しかし、やがて行き詰まる。株式会社による農業が長く続く例は、ごく一部の例外を除いて世界中にない。やがてイギリスやカナダやオーストラリアのように、破綻して外国籍の強欲なグローバル企業に、会社ごと売り飛ばす。
 グローバル企業はなにをするか。
 全農がアメリカで行っているような、GM(遺伝子組換え)農産物と、非GM農産物との分別集荷はしない。日本もGM食品で溢れる。TPP交渉が妥結すれば、そうなっても法律で規制できなくなる。規制すれば、政府はTPPの中のISD条項で訴訟を起こされる。そして、結局、政府は巨額の賠償金をグローバル企業に支払うことになる。BSEの疑いがある牛肉も自由に輸入され、日本市場を席巻する。

 こうした農業も、やがて行き詰まるだろう。そして、企業は農業から撤退する。跡地はどうなるか。
 ハワイのような荒地になるかもしれない。
 貪欲な企業は、跡地に太陽光発電の施設を作るかもしれない。これには政府の手厚い補助金がある。補助金目当ての太陽光発電である。
 それに適さない跡地は、産業廃棄物の捨て場にするおそれもある。そうして、村人たちに嫌われる。まさか、原発の放射性廃棄物は捨てないだろうが、怪しい。

 政府は、こうした事態を見通せぬまま、農業・農村の荒廃へ向かって、まっしぐらに突き進もうとしている。その第1歩が、邪魔をする農協への攻撃であり、その総司令部である全中の法的否認である。
 政府にとって、農協の反TPP運動にみられるような、政治に対する批判や反対が、よほど不都合なのだろう。いまや、わが国には農協しか政治を批判する大衆団体はない。労組も生協も力を失った。春闘は政府だのみである。
 だから、農協に攻撃を集中し、破壊しようとしている。そうしておいて、農業・農村を人身御供にし、外資へ捧げようとしている。
 こんなことを認めるわけにはいかない。農協組合員とその家族の2千万人を超える有権者の怒りが、全国に渦巻いている。
 この企みは、断固として阻止しなければならない。先日から始まった国会の内外で、大多数の国民とともに、抗議の声を大きく張り上げねばならない。
 いま、緊急の課題は、全国の抗議の声を、どう組織するかだろう。それが、全中解体の企みを打ち破る王道である。

(前回 農協改革騒動にみる民主主義の劣化

(前々回 農協を「分割して統治せよ」という暴挙

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