全中・県中の名前は残った2015年4月6日
先週末の3日に、政府は新農協法の法案を国会に提出した(全文は本文下のリンク)。中味をみると、付則ではあるが、全中と県中の名前は残った。本則ではなく、付則の規定である。つまり、嫡出子ではない。
一方、建議権は、跡形もなく抹殺された。
政府は、そうして農協の政治力を弱めようとしている。農協はアベノミクスで最重要な柱にするTPPに反対しているからである。だから、反対運動の司令部である全中と県中に攻撃を集中している。
だが、怯んではいられない。怯んでもいない。県中を中心にした、地方での反TPP運動は、ますます盛り上がっている。
新しい農協法案では、全中は一般社団法人に変わるのだが、変わった後も、「その名称中に引き続き全国農業協同組合中央会という文字を用いることができる」(付則第26条)としている。
また、県中は農業組合連合会に変わるのだが、変わった後も、「その名称中に、農業協同組合連合会という文字に代えて、引き続き農業協同組合中央会という文字を用いることができる」(付則第18条)としている。
当初は、中央会の文字を農協法から抹殺する、と息巻いていた。しかし、付則ではあるが、名前だけは残した。これは、農協の反対運動の成果である。
◇
現行の農協法と比べてみよう。
現行の農協法では、全中か県中でないものは、「農業協同組合中央会という名称又はこれと紛らわしい名称を用いてはならない」(本則第73条の17)と本則で規定している。紛らわしい名前もダメという、きつい規定である。
これと比べて、新農協法案では、全中と県中が格下げになることは明らかである。
◇
格下げになるのは名前だけではない。事業内容も変わる。
現農協法では、全中も県中も建議権をもっている(第73条の22の2)。だが、新法案では、この建議権は剥奪される。
建議権は、農政運動の法的根拠になっている。だから、建議権の剥奪は、農政運動の法的根拠の剥奪になる。
この法案が成立すれば、全中や県中が首相や知事に建議しようとして、会談を申し込んでも、首相や知事が不都合を察知すれば拒否できる。
先日、沖縄県知事が首相に面会しようとしたが、首相は拒否した。それと同じ状況になる。
政府の当初からの狙いは、ここにある。つまり、農協運動の法的根拠を剥奪して、農協の政治力を弱めることにある。
政府は、この初志を貫こうとしている。
◇
しかし、政府はこの初志を陰湿に隠している。
そこで、全中・県中の政治力を弱めるために持ち出してきたのが、全中・県中は単協の自由を束縛しているという、根も葉もない虚構である。
マスコミを使って、この虚構を宣伝している。全中を本社に見立て、単協を支社に見立てて、支社である単協を、もっと自由に営業させろ、と主張している。そのほうが、農業者の利益になる、という宣伝である。
だが、そんな事実はない。本社と支店の関係でも全くない。そうした事実無根の虚言を吐くことで、いわゆる有識者たちは、協同組合に対する、自分の理論的および実証的無知を、さらけ出している。
◇
それに加えて、全中・県中の監査業務まで持ち出している。監査業務を監査権と言い換えて、既得権という悪者に仕立て上げ、それを悪用して、単協を縛っているという。だから、こうした既得権にドリルで穴を開けて、破壊するのだという。
こうした、ありもしない虚言も宣伝に加えている。そうして、60年ぶりの快挙だといって、何も知らない裸の王様のように舞い上がっている。
◇
だが、議論を重ねるうちに、これらが事実でない幻の虚像であることが、次第に分かってきた。
そうして、ひた隠しにしてきた、農協の政治力を弱めるという初志だけが残った。
そこで、密かに建議権を剥奪しようとしている。
◇
今からでも遅くない。建議権について、国会で充分に審議すべきである。
これは、労組の団体交渉権に相当するもので、社長は労組との交渉を法的に拒否できない。
それと同じように、現農協法では建議権があるから、全中や県中の建議を、首相や知事は法的に拒否できない。
しかし、新農協法のもとでは拒否できる。そうなると、農協の行政に対する要請や制度要求を法的にどう位置づけるのか。ここには、全中と県中の法的な位置づけがかかっている。それは、農協全体の社会的な位置づけでもある。
この点で、各政党がどのような主張をするか。農協は注意深く見定めている。農協と各政党との距離をはかっている。それを、来週からの統一地方選挙、来年の参議院選挙の参考にするだろう。
◇
たとい、国会での審議の結果、建議権を剥奪されたとしても、農政運動をやめる訳にはいかない。反TPP運動や、米などについての制度要求をやめることはできない。
今後、農政運動のための組織を、新しく作るのかどうか。新しい組織を作るばあい、それと建議権を失った全中・県中との関係をどうするか。それらを抜本的に、かつ早急に検討することになるだろう。
それが、いわゆる自己改革の中心的な課題になるだろう。
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