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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2015.08.03 
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 最後のTPP交渉といわれたハワイでの閣僚会合は、何の成果も得られないままで終わった。今月中に再び集まって決着させるというが、日程を具体的に決めたわけではない。
 5年間にわたったTPP交渉は、行きつく先が見えないままで、漂流している。もろ手を上げて歓迎したい。
 TPPの盟主であり、こんどの会合の議長国でもあったアメリカの凋落ぶりには、目を覆うものがある。副盟主ともいうべき日本の不様な姿もあらわになった。
 漂流は、アベノミクスにとって痛烈な打撃だろう。TPPは成長戦略の中心的な政策だったのだ。
 もちろん、カッコよく妥結すればよかった、などと言うつもりは全くない。こうなることを予想できないで、不様な姿をさらけ出して漂流していることを、厳しく批判したい。
 そして、漂流させたことを、反TPP運動の輝ける成果として、高く賞賛したい。

 われわれは、自由化を全面否定しているわけではない。だが、TPPのように、中央財界の、ことに輸出大企業の利益を追求するために、農業や生命や国家主権さえも犠牲にする自由化に反対している。
 だから、反TPP運動の中心部にいるのは、農協に結集している農業者たちであり、医師会などの医療関係者たちであり、各地の弁護士会の正義派たちである。
 彼らと中央財界とのせめぎ合いの中で、こんどの漂流が決まった。漂流の根本原因は、両者の力関係の拮抗にある。
 また、日本での激しいせめぎ合いが、各国に広がったことも、大きな原因である。

 ここで、中央財界といったのは、北海道を念頭においたからである。
 北海道財界は、中央財界とは違って、反TPPの旗色を鮮明にしている。TPPは、北海道の経済を根こそぎ破綻させるからである。こうして北海道では、オール北海道の反TPP運動になった。労組も生協も、東京の中央組織と違って、反TPP運動の中心部にいる。
 こうなると、野党議員はもちろん、与党議員も反TPP派になる。

 それに加えて、政府の安全保障法制への執着がある。
 TPPは、大企業がアジアを経済侵略するための、アメリカを盟主にした経済ブロックの結成である。この経済ブロックの衣の下には鎧が見え隠れしている。中国を仮想敵国にした軍事ブロックである。そのことを見破る人が多くなった。
 これらの力が重なって、反TPPの力が強くなった。そして、TPP漂流の原動力になった。

 漂流をはじめたTPPは、今後どこへ向かうべきか。それはTPPの卑しい理念の「レベルの高い自由化」ではない。その方向は否定された。反国民的で、他国の国家主権を侵害して憚らないような自由な競争は否定された。
 そうかといって、自由化の全面否定はしない。貿易などを通じた各国の間の切磋琢磨は、社会の要求である。それに誠実に応えることは、生産者としての社会的責務である。
 これは、競争に至高な価値をおくか、協同に崇高な価値をおくか、という歴史的な選択でもある。わわれは、いうまでもなく後者を採っている。そして、TPPの醜い漂流は、競争を偏重する反国民的な交渉の結果であり、当然の帰結だ、と考えている。

 TPPが漂流を始めたからといって、まだまだ安心はできない。甘利明大臣は、8月末までにTPP交渉を決着させたい、といっている。農産物については、すでに大幅な譲歩をした、とマスコミが伝えている。
 また、現地のハワイにいる自民党農林族の森山裕議員と西川公也議員は、TPPの大筋合意は目前だ、といって、合意後の国内対策を次の予算に組み込みたい、と公言している(日本農業新聞8月2日)。大幅な譲歩を容認したのだろう。
 このように、自民党農林族は、大筋合意に備える準備を、着々と、かつ公然と進めている。そうして、反TPP運動を断念させようとしている。
 それは、ちょうど去年の今頃、彼らが先頭に立って、農協の反TPP運動に対する攻撃を始めたのと同じで、農業者に敵対するものである。それが、その後の全中つぶしの発端になった。今後は、抗議の意志を込めて、彼らに反農林族という名前を献呈しようではないか。

(前回 「諸国民への不信」と「武力による威嚇」

(前々回 独裁者を目指す安倍首相

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