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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2015.11.09 
TPPは醜い格差社会をめざす一覧へ

 TPPの大筋合意について、大新聞は賛意を表している。国民は安価な輸入肉が食べられる。だから賛成というわけである。
 それは、TPPによる農業者の困窮の容認である。だから、困窮をやわらげるために、多少の補助金なら与えてもいい、という善意に見せかけた主張もある。農協が騒いでいるが、あれはゴネドクを狙ったものだ、という悪意の宣伝もある。
 大新聞は、経済的弱者を農業者と非農業者とに分断し、TPPは農業者にはソンだが、非農業者にはトクだ、という。両者の利害対立を妄想し、農業者を孤立させ、反TPPの勢力を弱めようとしている。そうして、財界が推進するTPPを成立させ、日本の農業を壊滅させることに加担している。
 だが、農業を壊滅させることは、決して非農業者のトクにならない。このことを覆い隠している。
 また、大新聞は、分断によって経済的弱者の力を弱めることで、非農業者の賃金を、さらに低下させることにも加担している。

 大新聞が行っている分断作戦の結果は、格差社会の醜いまでの拡大である。
 いまでさえ、大企業は国内投資をして労働需要を増やそうとしない。賃金が高いからだ、という。だから、社内留保金が有り余って、金庫の中で唸っている。だが、国内投資もしないし、「滴り落ちる理論」を、あざ笑うかのように、賃金を上げようともしない。
 万一、TPPが発効したら、格差社会が醜悪なまでに拡大するだろう。国民生活はどうなるか。

 もしも仮に、TPPが発効したら、たしかに安価な輸入肉が大量に輸入されるだろう。それを誰が食べるか。食べるのは、国民の大多数の経済的弱者である。安いからである。そうして、輸入肉が日本市場を席巻する。
 わずかに残った国産肉を食べるのは誰か。国産肉は、旨くて、安全だ。しかし高い。だから、経済的弱者は食べられない。経済的強者だけが食べる。
 かくして、TPPは食生活の格差を拡大する。

 TPPで、輸入肉が日本市場を席巻する事態を想定して、畜産農家は畜産から撤退しだした。TPPによる、安い輸入肉に引きずられて、国産肉も安くなる。その上、ごく少数の経済的強者だけの需要に、需要が減少する。
 酪農地帯である北海道では、若い酪農家が酪農の将来に見切りをつけて、撤退しだした。

 格差が拡大し、国内産の需要が減るのは、肉だけではない。野菜や果物は関税がゼロになる。食生活の全体に格差が広がるだろう。
 もしもTPPが発足すれば、やがてアメリカの圧力で、韓国もTPPに加盟させるだろう。アメリカは、北朝鮮の脅威、という強力な切り札をもっている。
 そうなれば、韓国南西部の園芸地帯の農業者は日本向けに、大量の輸出を始めるだろう。そこから関西までの距離は、九州から関東までの距離よりも近い。
 韓国からだけではない。日本市場に輸入野菜や果物が溢れる。国産物は、ごく少数の経済的強者の需要だけを満たすことになる。産地は縮小する。
 だが、農業は経済的強者のためだけ、にあるのではない。国民全体に旨くて安全で安い食糧を安定的に供給するためにある。
 TPPはそれを否定し、農業を壊滅状態になるまで縮小し、食糧主権を放棄しようとしている。

 食糧分野だけではない。医療分野でも格差が広がっている。すでに、医療費の100%を自己が負担する、いわゆる自由診療が広がっている。その反面で、自己負担が10%や30%の保健診療が狭く制限されている。その結果、低所得者の受診抑制が広がっている。医療分野での格差拡大である。日本は、今まさに、地獄の沙汰もカネ次第、という残酷な社会に向かっている。
 だが、心ない金持ちは格差拡大に賛成している。カネさえあれば、旨いものが食べられるし、長生きができる、とホクソ笑んでいる。その前面に財界と、財界に操られている大新聞や学者や評論家がいる。
 TPPは、この醜悪な動きを促進する。

 格差拡大を法律的に後押しするのが、労働法制の改悪である。この法制のもとで、今後、ますます非正規労働者が増える。そのための法制の整備である。今後ますます賃金が下がり、経済的弱者が増え、格差は確実に広がる。
 こうした状況で、TPPが、万一発効すれば、日本社会は、格差社会の方向へ向かって、進む速度を速めるだろう。
 反TPP運動は、こうした格差社会の到来を、国民全体で拒否する全国民的な運動である。

 大新聞は、TPPで多くの国民がトクをする、と宣伝している。ソンをするのは少数の農業者だけだ、と宣伝している。
 これは、農業者を国民のなかで孤立させるための分断作戦である。多くの非農業者をTPPに賛成させ、農業者と非農業者を、醜くいがみ合わようとして、周到に用意された悪辣な陰謀である。
 この分断作戦に乗り、共に経済的弱者である農業者と非農業者がいがみ合っていれば、格差社会に反対する抵抗勢力が弱体化され、格差社会はもっと広がっていくだろう。肉の価格が下がっても、それ以上に経済的弱者の所得が下がるだろう。
 労働組合など、格差社会に対する抵抗組織が、壊滅状態になっているいま、多くの国民は、1,005万人の組合員を擁する農協の組織的抵抗に共感し、期待している。
(2015.11.09)

(前回 拝啓 小泉進次郎様

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