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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2015.11.16 
「攻める農業」の危うい攻撃性一覧へ

 武村正義元新党さきがけ代表が、先日のテレビで「各国の農業は、それぞれ事情が違うから、すべての農産物の輸出入を自由化するのは、無理がある」という主旨の発言をしていた(TBS11/8)。まことに正鵠を射た発言である。問題を真正面に据えて、その根本から捉えた発言である。
 一方、安倍晋三内閣の農政の最も重要な柱は「攻めの農業」である。農業を成長産業にし、海外に農産物を輸出するのだ、という。TPPに加盟して自由化すれば、それが出来るという。
 武村元代表は協調的で、安倍首相は攻撃的だが、ここで取り上げたいのは、2人の性格ではない。
 「攻めの農業」、つまり、農産物の輸出政策である。


直近5年間の農林水産物輸出額

 上の図は、農林水産物の輸出金額を、直近5年間、つまり、2010年10月から2015年9月まで示した。
 先々月の9月までの1年間の金額を合計すると7155億円になる(ちなみに、援助米を除く米の商業輸出の金額は19.8億円で0.28%に過ぎない)。政府は、これを5年後の2020年までに1兆円にするという。約4割の増加である。
 はたして可能だろうか。

 図の中には、円/ドルレートも示してある。このレートで輸出金額をドルに換算した輸出金額も示した。
 これで分かるように、ドル換算の輸出金額は、この5年間、増えていない。つまり、円で評価した輸出金額が増えたのは、円安にしたからだ、と推定できる。アベノミクスによる円の安売りの結果である。
 この推定が正しければ、円安が元に戻ると、輸出金額は減って、元の金額に戻る。1兆円というバラ色の夢は、はかなく消えてしまう。
 また、円安の進行をこのまま続けるなら、4割増の1兆円にするには、円をさらに4割安くして、いまの120円から170円にすることになる。輸入業種は立ち行かなくなるだろう。
 以上のように、「攻めの農業」には、その実現性に大きな疑問がある
 それだけではない。

 農林水産物の輸出振興が、各国の農業の事情を尊重したものなら、反対ではない。だが、「攻めの農業」の考えに基づく輸出振興には問題が多い。
 この考えは、国内政策の行き詰まりを国民の目に覆い隠して、海外に目を向けさせるものである。また、輸出を農業振興の最も重要な政策にしている、という農政の貧困を指摘したい。
 それだけではない。

 「攻めの農業」を、攻められる国の立場に立って考えよう。
 戦後、日本の農業は、アメリカなどの外国の農業から攻められ続けてきた。そのため、日本の農業者は苦悩を極めてきた。また、日本の農業は、米だけは守ったが、米以外のほとんどは、外国農業に依存する、という歪んだ農業になった。その結果、食糧自給率を39%にまで下げて、食糧安保を不安にしてしまった。
 もしも万一、こんどのTPP大筋合意が発効すれば、食糧自給率は、さらに大幅に、しかも確実に下がる。
 このことに目をつむって、今後は外国へ攻め込み、その国の農業の事情を無視して、農業者と農業を苦しめよう、というのである。
 また、かりに攻め込めたとしても、その結果、いまの日本の食糧自給率の異常な低下を食い止めることはできない。輸出農林水産物の大部分は、高カロリーの物ではないからである。

 このように、「攻めの農業」は、まさに攻撃的である。これは、協同組合である農協の考えとは相容れない。農協の考えは、各国と協調する、という考えである。武村元代表の考えのように、協調的である。
 この「攻めの農業」という攻撃的な農政を、TPP後の農政の主要な柱にしよう、という。まことに危うい農政である。

 そもそも、TPPが攻撃的なのである。
 TPPで、世界のGDPの36.3%を占める広大な自由経済圏ができる、と誇らしそうに言う。自由が世界に広がる、と言いたいようだ。しかし、それは、アメリカにとっての身勝手な自由であって、世界の普遍的な自由ではない。関税自主権という、各国にとっての課税の自由を、アメリカが奪うものである。
 日本は、それに追随しようという。だが、アメリカは日本に対して、一定量の米の輸入義務を、力ずくで負わせようとしている。これは日本にとって自由でも何でもない。自由の反対物である。

 TPPで、広大な自由貿易圏ができるというが、まるで陣取り合戦のようだ。もしも、日本がTPP大筋合意を認めれば、一部のアメリカ人は日本陥落といって、チョウチン行列をして喜びたいのだろう。
 この陣取り合戦で、さらに韓国などにまで陣地を広げたいようだ。
 だが、中国に対しては、国際ルールという名前のアメリカルールを押し付けようとして妥協しない。
 TPPは、中国経済圏を狭め、それを包囲し、それに敵対する経済圏である。そうした危うい攻撃性がある。
 TPPは、仲良しクラブのようだが、安保政策のようにキナ臭い。日本の将来は危うい。断固とした反対運動を強めねばならない。
(2015.11.16)

(前回 TPPは醜い格差社会をめざす

(前々回 拝啓 小泉進次郎様

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