コラム 詳細

コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2015.12.21 
山下氏の空論が日本の農業を滅ぼす一覧へ

 山下一仁氏の根拠のない空論が、日本の農政を誤った方向へ導き、日本の農業を滅ぼそうとしている。
 この空論は誤った根拠に基づいて、TPPへ加盟せよ、と主張している。だから、財界にとっても、政府にとっても好都合で、心地よいものらしい。
 この空論を、財界に魂を抜かれ、政府に怯える多くのマスコミが、媚を売ろうとして、繰り返し報道している。空論は何度も繰り返しているうちに、真実味を帯びてくるらしい。だから、多くの国民が惑わされようとしている。
 この空論の唯一つの重要な根拠は、輸入米の価格は、日本の国産米の価格とほとんど同じだ、というものである。これは致命的な誤りである。だから根拠のない空論になる。
 TPPで、農政が岐路に立っているいま、根拠のない空虚な農政論は、やがて日本の農業を滅ぼすだろう。

 同氏は、輸入米の価格は、1万2582円だ、といっている。これが空論の唯一つの、そして最も重要な、しかし誤った前提であり、根拠である。実際は、すぐ後で説明するが、2000円程度である。
 1万2582円という誤った輸入米価を前提にする結論と、2000円という正しい輸入米価を前提にする結論とでは、まるで違ったものになる。同氏は誤った輸入米価を前提にして、TPPに加盟せよと主張するが、それは、日本農業を滅ぼす。

 1万2582円の根拠は、たぶん2014年11月のSBSで、アメリカから輸入した36トンの米の価格が1万2480円だったことだろう。このときの国産米は1万2162円だったから、輸入米のほうが高い。
 この推論は、だから将来TPPに加盟して、米の関税をゼロにしても、国産米は輸入米と価格競争で勝てる。だから、輸入は阻止できる、という結論になる。それどころか、この推論が正しければ、今すぐ関税をゼロにしても、輸入は阻止できることになる。それが論理的必然である。逆に日本からアメリカへ輸出できる、とまでいっている。それも、輸送費を無視すれば、論理的必然である。しかし、妄想というしかない。

 SBS米の輸入価格は、極めて特殊な価格である。だから、国産米の価格とは比較できないものである。
 ちなみに、この米は別の業者が1万6200円で買い取っている。相場は1万2162円だったのに、この特殊に高価な輸入米は、どんな米か。そして、どこへ売ったのか。ミステリーである。独占的な利益が隠されている、としか思えない。つまり、自由な国際市場で仕入れた輸入価格ではない。

 SBSは、そもそも自由な国際市場で、品質を反映した国際米価をみる目的で作られた制度である。
 同氏は、この目的どおりに、この制度が運用されていると考えている。これは元行政官として陥りやすい落とし穴である。しかし、それに惑わされるのは、研究者としては致命的な欠点である。つまり、法令だけをみて事実をみようとしない。だから、この最も基礎的な事実の認識が誤っている。つまり、空論である。
 SBSが目的どおりに運用されている、という誤った認識のもとで、同氏は、国際米価は1万2582円だ、と断定している。
 ここに、重大な誤りがある。

 国際米価をみるのなら、僅か36トンの特殊な取引の米価が国際米価だ、とするのではなく、最も代表的な国際米価であるシカゴ相場をみるべきである。
 シカゴ相場は、先週末でみると、1599円である。これが国際米価である。日本への輸出経費を足しても2000円程度だろう。同氏がいう1万2582円とは隔絶した安さである。
 なぜ、この代表的な米価を採らずに、僅か36トンの特殊な取引の価格を採って、それが国際米価だ、というのか。それを説明しなければならない。それは、とうてい不可能だろう。

 この批判は、多くのマスコミに対しても指摘したい。
 マスコミが批判精神をもっているなら、世界各地のごく普通の米の米価がどれほどか、日本までの輸送費がどれほどか、それを足し算した輸入価格が、どれほどになるのか、を独自に実地調査をして判断すべきだろう。それは、シカゴの国際米価に近いだろう。
 こうした調査は、世界の各地に記者を派遣しているマスコミが、最も得意とする分野だろう。だが、それを怠けて、同氏の誤った主張を丸呑みしている。

 シカゴのインディカ米と、日本のジャポニカ米とでは、食味がまるで違う、だから価格の比較は無意味だ、という同氏の反論があるだろう。ここに同氏の最大の欠陥がある。
 問題は、現在どうか、ではないし、数年後にどうなるか、でもない。十数年後、いや、数十年後、にどうなるか、である。そのときの輸入米価はどれ程になるか、である。
 TPPで農政が重大な歴史的岐路に立って、農政を大転換しようとしている今、長期的な視点こそが重要である。しかし、同氏にはこの視点が欠落している。決定的な欠陥である。

 世界の大多数の人にとって、シカゴのインディカ米は不味いわけではない。日本人好みのジャポニカ米よりも旨い、と思っている。だから世界の主流になっている。コストが安いわけでもない。
 だから、日本がTPPに加盟して、関税をゼロにすれば、日本人好みのジャポニカ米を作って、日本へ輸出するだろう。コストが高くなるわけではない。だから、日本が輸入する日本人好みのジャポニカ米の米価は、2000円程度だろう。
 栽培方法を習得するまでには10年程度の期間が必要かもしれない。だが、問題はその後を見通した長期的視点である。
 だが、同氏には、この長期的な視点がない。目先の視点しかない。
 マスコミが批判精神をもっているなら、世界の各地でインディカ米を作っている現地の農業者が、10年後に日本人好みのジャポニカ米に転換できるかどうかを、独自に実地調査をして判断すべきだろう。
 こうした調査はマスコミが最も得意とする分野だろう。だが、それをしないで、同氏の主張を、無批判に宣伝している。

 以上のように、同氏が大前提にした、輸入米価は高いとする誤った認識に基づいて、同氏が主張するように、日本の米に、TPPの基本的な理念である関税撤廃の原則を適用すれば、どうなるか。
 長期的にみて、1万2582円という高価な輸入米ではなく、2000円という隔絶して安価な、そして日本人の食味にあう輸入米が、日本の米市場を蹂躙する。
 その結果、日本の米は壊滅するしかない。それは日本の農業を滅ぼすことになる。

 最後に言いたいことは、同氏が批判に対して、いっさい答えないことである。同氏の農協論への批判に対しても、同氏の反論は全くない。そうして、同じ主張を厚顔に繰り返している。
 それは、研究者が採るべき姿勢ではない。批判には、真摯に答えねばならない。それは、研究を深化させるために、研究者が背負っている基本的な社会的責任である。
 その責任を果たせなければ、研究者として失格である。それを無批判に報道するマスコミも失格である。カエルのツラにションベンというのは、彼らのために作られた名言だ、と陰口を叩かれても、恥をしのんで我慢するしかない。
 大多数の国民は、同氏の独りよがりの空論には惑わされない。そうして、TPPを批判し、TPPに反対し、TPPの国会批准を阻止することは、日本農業を復活させるための、必須の条件である。
(2015.12.21)

(前回 米価の力強い回復を

(前々回 マレーシアの米価は1㎏当たり52円

(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)

一覧はこちら

このページの先頭へ

このページの先頭へ