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【加藤 一郎(前全農代表理事専務)】

2016.06.22 
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 トマ・ピケティの著書「21世紀の資本」は21世紀の協同組合運動にブリッジを懸ける経済・社会理論ではないだろうか。都市と地方の格差は放っておけば拡大する。
 地域振興の新しい潮流が産官学連携のもと動き始めた。

◆「株式会社国家」へのアンチテーゼ

 本紙5月30日号に掲載された堤未果氏のインタービュー記事で、氏は米国での所得格差が拡大し民主主義の先導役の米国で1%のスパーリッチ層が政治を支配するアンチテーゼとしてトランプ氏とサンダース氏への支持の拡大はアメリカ国民の悲鳴に他ならないとした。また、アメリカは日本の近未来だとし、民衆の心についたこの火は決して消えないと断じた。
 我が国はOECD諸国の中でジニ係数(所得格差指数)はこの20年間で急速に上昇し、25か国中5位となっている。一昨年、トマ・ピケティの「21世紀の資本」が大変話題となった。私は我が国の所得の格差拡大、都市と地方の格差拡大に対してピケティの理論は解決策を提起するものであり、21世紀の協同組合運動にブリッジを懸ける経済論であり、社会論であると思う。しかし、このところピケティを語る論評は影を潜めている。なぜなのだろうか。
 私は米国の合弁会社に4年間出向した時に感じた日米の行動様式の違いの一つに日本人の「熱しやすく醒め易い」体質を残念に思い、米国人の「戦略は10年単位で考える」を堤氏のコメントで思い起こして、再度、ピケティの経済・社会論を考えてみたい。


◆ ピケティ・ショック「放っておけば格差は拡大する」

 「資本収益率は経済成長率上回る」この単純な不等式から格差拡大を論じるピケティ理論は、放っておけば格差が広がることを意味し、ピケティ・ショックとも言われ、1950~60年代の格差の少なかった明るい雰囲気は、これまでのアメリカ型の近代経済学では、「完全競争市場に近づけば資源は最適に配分され格差は解消する」という法則によって実現したものと説明されていたが、実は、単に大恐慌と二つの世界大戦によって総資産が減少したことによって、格差が少なくなっただけのものだったと指摘した。これは市場原理主義の否定につながる論拠である。またピケティは、自由な市場を重視する英米型の資本主義に異議を唱え、民主的コントロールを重視している。
 中島肇弁護士(横浜法科大学院教授)はピケティ理論を「座標軸に企業形態を当てはめるならば、資本多数決で統治される株式会社形態は、富の自由な分配(自由市場)を重視する資本主義的・英米的な発想に馴染みやすいのに対し、一人一票多数決で統治される協同組合形態は、富の分配の民主的コントロールを重視する大陸的(フランス・ドイツ的)な発想に馴染みやすいのではないか」と指摘をしている。
 では我が国はどのように考えるか。協同組合思想は原点に帰るべきであるとして、ロッジデールの理論を取り上げることも重要ではあるが、協同組合論の研究をされる先達の方々には是非、21世紀の協同組合思想としてピケティの理論を結びつけることをお願いしたい。格差は放置すれば拡大し続ける。世界中の資産、負債、資本の帳簿管理が可視化することなど無理と言われるが、100年前には所得税すら実現不可能と言われ、欧州に統一通貨が誕生すると予想すらされなかったことを考えると、農業、環境は社会的共通資本として見なすことは実現不可能なことではない。ピケティの理論に対する宇沢弘文氏のご見解をお聞きできないことが残念である。


◆ 新しい潮流が動き始めた

 全国各地で地域振興への新しい取り組みが始まってきている。この潮流はJAグループだけの単独の取り組みではなく、多様な関係者を巻き込んだ取り組みである。
 蔦谷栄一氏は著書「農的社会をひらく」のなかで「日本型農業のポイントは多様な担い手が大小相補して多様な農業を展開する地域農業である」、「コミュニティ農業であり、人と人の関係性、都市と農村の関係性を大事にし、再生産の支持を獲得していくもの」としている。
 最近、私のところへ「産官学連携」の調整役等の協力の依頼が増えてきた。「町おこし」として地域の作物の機能性成分に着目し、市町村行政が主体となって国・県行政への支援依頼、大学医学部・農学部の研究部隊としての医農連携、JAが主体となって栽培組織の形成、販売担当としての食品・医薬・化粧品業界、また地元のレストラン、流通加工業界等との産官学連携、異業種を加えたコンソーシアム形成への動きである。これは蔦谷氏の「農的社会をひらく」実践版ともいえる。新たな潮流が動き始めたことを実感する。

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