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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2016.10.03 
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 SBS米の取り引きは、暗黒の闇の中にある。
 新聞報道によれば、SBS米に価格偽装があるようだ(毎日)。SBS米を、業者が法の網をくぐって安値で落札し、安価で流通させたという。
 その安価なSBS米に引きずられて、国産米の価格が下がることを、農業者が怒っている。国会でも取り上げている。
 この問題は、業者の不正行為と言うだけではない。それは、問題の表層にすぎない。SBS制度は、その深部に暗黒の闇の部分がある。こんど、その一部が露わになっただけだ。
 この闇に包まれた部分を、農業・農協を敵視し、財界に心地よい言論を吐く多くの評論家は、見ようともしない。
 それをいいことにして、政治は農政を間違った方向へ進めようとしている。

 毎日新聞(9月14日)によれば、SBSの入札で、某商社が実際には105円(以下、1㎏あたり)で輸入した米を、それより40円高い145円で輸入したように偽装して落札し、その40円を某卸業者に渡していたという。こうしたことが、4年間もくり返していたという。
 このこと自体、SBS制度の趣旨に反し、世間を欺く行為で、非難すべきことである。それをここで糾弾するが、それに加えて、SBSにかかわる、米政策にとっての重大な問題を指摘したい。

 SBS制度は、ガットのウルガイラウンドの農業交渉で、アメリカが要求して、日本が受け入れた輸入制度である。その趣旨は、将来の米輸入の自由化を予定して、自由な国際市場での国際価格を推計しておこう、としたものである。その国際価格と国内価格との差を関税にすれば国産米が輸入米と同じ価格条件で競争できる、と考えたのである。だから、落札価格は、国際価格を忠実に表すものでなければならない。
 しかし、そうではなかった。そこに、こんど偽装が発覚したのである。そして、落札価格の145円という高い価格が、自由な国際米市場で形成された国際価格だ、と偽装した。そうして、米の輸入政策を誤らせた。
 このように、SBSは米の輸入自由化を予定した、その準備のための制度である。このこと自体が大問題である。

 米の国際価格が高いことは、輸入自由化を主張する政府と財界にとって、好都合なことである。国内米との価格競争が激しくならないから、自由化を農業者に押し付け易くなる。
 だから、国際価格を実際より高く偽装したこんどのことは、彼らにとって心地よいことだったろう。
 そして農水省は、財界の顔色を覗うようにしてきた。つまり、この偽装を外部から指摘されてきたが、長いあいだ放置してきたという。

 それに迎合するように、山下一仁氏は、国際米価は国産米価と大差はない、と言っている。だから、TPPの大原則である関税撤廃を、米について受け入れ、米の関税をゼロにしても、国産米は輸入米と競争できるという。米を聖域にしなくていい、という主張である。この主張が拠りどころとしている唯一つの根拠は、SBSの輸入米価である。
 こんど、この根拠であるSBSの輸入米価に偽装が発覚したのである。だから、同氏の主張は、偽装された、架空の基礎データに基づく、間違った幻想になる。しかし、いまだに訂正していない。

 事態は、農水省の元行政官の妄言として、済まされることではない。
 これまで政府と財界は、同氏の好都合な主張を鵜呑みにしてきた。つまり、輸入米の価格は、国産米と比べて、それほど安くない、という間違った根拠で、輸入米が国産米の価格を圧迫することはない、と主張してきた。だから、TPPに加盟して、輸入を自由化しても、国内農業に影響はない、と間違った主張をしてきた。
 彼らは、この間違いを根拠にして、農政を弄んできた。その根拠が、一挙に崩れたのである。つまり、SBSの価格偽装の発覚は、いまの農政の土台を揺るがす大問題である。
 このことは、農産物の輸入自由化政策が、根本から間違っていたことを意味する。すぐ後で述べるが、105円と145円との、たった40円の差ではない。もっと大幅の差である。

 輸入自由化政策だけではない。アベノミクス農政の看板政策である農産物輸出振興策に及ぼす影響も深刻である。
 これまで、国産米価は、国際米価と比べて、それほど高くない、という間違った前提があった。だから輸出しやすい、と考えていた。その根拠も、SBSの国際米価である。この根拠が、間違っていた。
 米の輸出振興策は、砂上の楼閣だったのである。アベノミクスにとって、事態は致命的である。

 SBS米は、以上の問題だけではない。それにも増して深刻な問題がいくつもある。その一つが、実際の輸入米価の問題である。ここにも暗黒の闇がある。
 前に示した新聞報道では、実際の輸入米価は105円だったが、それを145円と偽装したと、何の疑いもなく報道している。しかし、実際の輸入米価は、本当に105円たったのか。ここに重大な疑問がある。おお元の輸入米価は105円だった、というが、このおお元からして偽装があるのではないか。
 以前、この欄で示したが、中国での現地調査によれば、米の現地価格は、47円だった。これは小売米価だから、流通経費や小売経費を引き算した卸売米価でないと、輸入米価とは比較できない。輸入米価と比較すべき卸売米価は、だから、47円から流通経費と小売経費を引き算した、47円より安い価格であることは確かである。
 これ程に安価な米を輸入するとき、105円もの高価な米になるのは何故か。理由は、闇に閉ざされている。
 輸入を自由化したばあい、実際の輸入価格は、105円よりも大幅に安くなると思われる。実際の輸入価格と偽装された輸入価格との差は、たった40円ではなくて、その数倍になると予想できる。
 農水省も、最近は「SBSによる...輸入価格は...輸出国の実勢価格とは乖離が生じて」いることを認めている。

 さらに、SBSの闇は続く。
 SBSはMAの輸入枠の一部である。SBSもMAも同様だが、輸入の機会を輸出国に与える、というのなら分からぬでもない。しかし、なぜ日本は、自由化交渉の中で、自由とは全く逆の輸入義務を、唯々諾々として受け入れたのか。それでも独立国か。闇の中の出来事である。
 また、当初は、MA米の10%をSBSに当てる筈だったが、いつのまにか、10%を超えている。何故か。理由は闇に閉ざされている。

 その上、こんどの政府のTPP合意案では、SBSの枠を増やすとしている。闇の中で合意した案だ。
 もちろん、農業者は反対している。それに対して政府は、備蓄米にするから、国内への影響はないという。しかし、影響がない筈はない。
 備蓄米にしても、米である限り、国産米に影響がある。この小学生でも分かる間違った理屈を、間違いだ、と分かる人が与党にいないようだ。そうして間違った理屈を言い張っている。
 これは、理屈を無視した傲慢である。

 以上のように、SBSには価格偽装だけでなく、数々の大きな問題があって、漆黒の闇に包まれている。
 この闇を取り払うことは充分に可能である。野党が一致して、米さえも輸入を自由化しようとするTPPに反対すればいい。そうして、国会での批准を拒否すればいい。
 SBSの巨大な闇を取り払い、真実が明らかになれば、農業者は、いまより更に強くTPPに反対するだろう。まして、TPP合意案によるSBS輸入枠の拡大には、絶対反対だろう。大多数の国民もTPPに反対する姿勢を強めるに違いない。
 また、アベノミクスの米の輸出策を信じないだろう。巨大な闇の中には、何やら醜悪な臭いが漂っている。
 国会での充分な審議でSBSの闇を晴らし、その不当性を暴露することを期待したい。そこで、農産物の輸入自由化、ことに米さえも輸入自由化を目ざそうとするTPPの政府合意案の国会批准に反対する各議員の、本気度が試されるだろう。
 それは、食糧自給に直接かかわる、国家としての矜持の問題であり、国家の独立の問題である。
(2016.10.03)

(前回 TPPは張子の虎

(前々回 蓮舫新代表よ、迷うな

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