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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2016.10.14 
世界の人口:「中国のピークと潜在需要」一覧へ

 「爆食」や「爆買い」という言葉は今でも聞かれる。対中国ビジネスは、資本主義経済とは異なる体制であることと、商習慣の違いなどから一定のリスクを考慮しなければならないが、この国の市場規模と購買力は食料品だけでなくあらゆる商品の供給業者にとって魅力的であることは間違いない。
 問題は、この「中国のパワー」が食と農の世界において、いつまで、そしてどのような形で継続するかであろう。今回は中国の人口動態を踏まえて若干の検討を行う。

 中国は現在、年間約5億トン(小麦1億2800万トン(注1)、コメ1億4650万トン、粗粒穀物2億2370万トン)の穀物を生産している。小麦を含めた世界の穀物の生産数量を約25億トンとした場合、実に5分の1である。ここで粗粒穀物(coarse grains)という用語を使用したが、これはトウモロコシ、コウリャン、大麦、ライ麦、燕麦などである。
 一般に穀物の世界では、小麦とコメを食用穀物とし、その他を粗粒穀物と分けることが多い。粗粒穀物の代表はトウモロコシであり、世界の生産量は約10億トン、そのうち中国の生産量は2億1600万トンを占めている。
 これに加え、油糧種子(oilseeds)というものがある。文字通り、種子から油を搾るものであり、代表的な作物は大豆や菜種である。世界の主要な油糧種子の生産量は約5億トンであるため、先の25億トンと合わせ、一般的には広義の意味の穀物(穀物+油糧種子)の総生産数量は約30億トンと理解しておけば良い。

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 中国は、油糧種子5431万トンを生産しているが、大豆はそのうち1250万トンに過ぎず、油糧種子全体で見ると年間9048万トンを輸入している。特に大豆の輸入が多く、直近では8600万トンと、世界の大豆貿易量1億3500万トンの6割以上を占めている。
 現在のところ、中国政府は全体としては食料を自給する方針を堅持しているが、近年の輸入状況を見ると、小麦350万トン、コメ500万トン、粗粒穀物1370万トン(内訳は大麦500万トン、コウリャン550万トン、トウモロコシが300万トンなど)と、いずれの品目の輸入数量も増加しつつある。
 この中で、油糧種子の輸入数量はまさに「桁違い」であり、実質的に輸入に依存せざるを得ない状況である。この背景には、経済成長による生活水準の向上と、それに伴う食生活の変化、植物油と食肉需要の増加があることは明らかである。

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 以上を今後の中国の人口推移と合わせてみると、興味深い点がいくつか見いだせる。
 国連の推計によると、中国の人口がピークに達するのは意外に早く、2028年である。この段階の人口は14億1639万人(中位推計)である。その後、2038年までは14億人以上の水準であるが、それ以降は徐々に減少していく。

中国の人口インドの人口

 一方、人口の内訳を見ていくと、2050年には65歳以上が3億7100万人になることが示されている。表には記していないが、ピークは2060年の4億2000万人である。また、2012年の国連推計では2060年時点の65歳以上の数値は約3億7000万人であり、3年間に5000万人近く上方修正をしている。こうした状況が意味するところは何か。ここでは以下の2点を指摘しておく。
 第1は、中国では高齢化が極めて速く進展していることである。統計の正確性という部分を割り引くとしても、中国は今後10年程度の間に国内に2億人を超える65歳人口を抱え、その数は、今後、2060年までの間に倍増する。この状況に適切に対応するための食料の生産・加工・流通システムについて、率直なところ我々は全く未知である。地域ごと、そして段階的に様々な試行錯誤が続く可能性が高い。
 第2に、世界糖尿病連合(IDF)(注2) によれば、2015年時点の世界の糖尿病有病者数は4億1500万人(前年より2830万人増)であり、国別では中国が1億965万人と第1位である。予備軍を含めれば、治療薬や適切な食事に対する潜在需要は極めて大きなものが予想される。既に日本国民の総数と同じ規模の糖尿病有病者数がいるということになる。
 今のところ我が国は「高齢化と食」の分野で世界の最先端を走っているようだが、すぐ隣にその動向を不可避なものとして注視しているとてつもない需要が控えているということを常に銘記しておくべきであろう。
 
 
注1:USDA, "Grain:World Markets and Trade", and "Oilseeds: World Markets and Trade", September 2016. 以下、数字は全て両資料に基づく。
注2:International Diabetes Federation, "Diabetes in China-2015"(閲覧日:2016年10月11日)
http://www.idf.org/membership/wp/china

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