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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2016.10.17 
SBSは輸入自由化の尖兵一覧へ

 いよいよ、TPPの国会審議が始まった。政府は、SBS米の価格偽装問題にしても、TPP政府案によるSBS米の輸入枠拡大の問題にしても、軽微な問題だ、といって片付けようとしている。
 しかし、軽微な問題ではない。SBS米は、日本の米を壊滅させる輸入自由化問題の尖兵になっている大問題なのだ。30年前に、日本は牛肉で同じような苦い経験をしている。
 30年前をふり返って、SBSを考えよう。以下は、ほとんど、そのまま、牛肉を米と読み替えられる。

 30年前、日本は、牛肉の輸入自由化問題で、アメリカと激しい交渉を行っていた。
 度重なる交渉で、日本は、輸入枠を少しづつ増やしてきた。しかし、輸入牛肉は、加工用の内臓肉など下位等級の牛肉ばかりだった。それは、国内生産への影響を少なくするためだ、と政府は説明した。しかし、実際には、輸入した分だけ下位等級の牛肉の国内生産量を少なくすることになり、大きく影響した。
 アメリカは、輸入枠が量として少ないことに加えて、質的に下位等級の牛肉が大部分であることに大きな不満を持っていた。せめて、業務用や家庭用の上位等級の牛肉を、もっと多く輸入するように、日本に対して強く要求していた。
 そこで、考えついたのが、SBSである。

 SBSを説明しよう。
 SBS制度は、日本へ家庭用の牛肉を輸出し易くするための制度である。日本の加工用の牛肉は、それまで、すでに輸入肉で、ほぼ満たされていた。そこで、つぎの段階として、膨大な需要がある家庭用牛肉を大量に輸入させようとし、新しく別枠にして作ったのがSBSである。
 SBS制度を、具体的にみてみよう。
 この制度は、牛肉を国際市場で、なるべく安く買って輸入し、なるべく高く国内で売るための制度である。そのために、輸入業者と卸売業者が組になって入札し、その価格差が最も大きい組に落札する。
 価格差は、下位等級の牛肉よりも上位等級の牛肉のほうが大きい。だから、加工用牛肉よりも家庭用牛肉のほうが落札し易い。それゆえ、SBSは加工用よりも、もっと大きな需要がある上位等級の家庭用牛肉を輸入するための制度だ、といっていい。

 SBS制度では、輸入業者は、なるべく旨い牛肉を、国際市場で、なるべく安く買って利潤を大きくする努力をする。また、卸売業者は、その旨い牛肉を、国内市場で、なるべく高く売って利潤を大きくする努力をする。両業者で最も懸命な努力をした組が最も価格差を大きく入札できて、その結果、落札できる。
 この利潤は、牛肉の内外価格差があるときの管理貿易のばあい、SBS制度のもとでだけ得られる利潤である。つまり、通常利潤を超えた超過利潤である。その不公正を是正するために、差額は政府が徴収する。そして、落札した組は、通常利潤だけを得られる仕組みにしている。
 このため、政府は、いったん輸入業者から輸入牛肉を、入札書類どおりの安い輸入価格で買取り(Buy)、同時に(Simultaneus)その牛肉を政府が卸売業者に入札書類どおりの高い価格で売渡す(Sell)。だからSBS方式という。つまり、政府は書類のうえで瞬間的に関与するだけで、実物のやりとりをするわけではない。政府は、買取り価格と売渡し価格との差額を、SBS方式にともなう超過利潤として徴収し、国庫に入れるだけである。

 牛肉のばあい、アメリカはSBSで、家庭用の旨い牛肉を大量に日本へ輸出できるようになった。
 それだけではない。日本の国民は、それまで加工用の牛肉を、アメリカ産とは気づかず、ハンバーグなどに加工して食べていた。しかし、SBSで業務用や家庭用として、消費者が直接に食べるようになった。そして、国民は、アメリカにもこんなに旨い牛肉がある、しかも安価だ、と気づくようになった。
 思慮の浅い一部の国民は、日本の牛肉生産が衰退することも考えずに、この旨くて安価なアメリカ産牛肉を、もっと大量に輸入すればいい、と考えるようになった。そこがアメリカの狙いだったのである。つまり、アメリカは、日本の一部の国民を味方にして、SBSによる牛肉の大量輸出を狙ったのである。
 そして、アメリカに追随する日本の財界もSBSを後押ししたし、財界に弱い政府もSBSを推進した。
 このように、SBSは、日本に対する農産物輸入の自由化戦線の中で、推進派の本隊を前進させるための最前線にあって、相手国の思慮の浅い民間人も利用して諜報戦も行うし、また、相手国の自由化反対派に対し、相手国の評論家やマスコミを使って、激しい攻撃を加える尖兵だったのである。
 しかし、激しいだけではない。相手の反対派が強いとみれば逃げも隠れもする。たとえば、こんどのTPP合意案では、SBS米の増枠分は輸入義務ではなく、輸入枠を残してもいいことにしている。つまり、農協などの反対派の強さをみて、逃げ腰になっている。総選挙を間近かに控えたいま、推進派の犠牲をなるべく少なくしようと、したたかに企んでいる。
 これは、反対派が勝ち取った、1つの勝利の証である。

 米のばあいを続けよう。
 SBS米の価格偽装問題は、政府を偽ったというだけではない。偽装価格が、国産米の価格を下げているかどうか、という問題だけでもない。
 政府を偽ったことは非難されることだし、国産米の価格を下げていることは確かだ。だが、それだけではない。もっと深いところ、つまり、実際の輸入価格といわれる価格に偽装がある、という疑いがある。漆黒の闇に包まれた、この疑いは晴らさねばならない。しかし、なかなか晴れないだろう。
 また、TPPの政府案で、SBS枠の拡大が国産米の価格を下げるかどうか、という問題だけでもない。たとい僅かでも下げることは確かだが、それだけではない。SBSという自由化推進派の尖兵を増強することが問題である。SBS米の輸入枠を、いままでの10万トンから2倍近い17.84万トンに増やすことが問題である。これでは、自由化推進派を一歩前進させ、関税ゼロの完全自由化に近づけることになる。農業者をはじめ、食糧安保を願う多くの国民は、そのことに反対している。
 さらに、偽装したSBS価格の資料に基づいて、国際米価は国内米価と同等と考え、TPPの大原則である関税ゼロの完全自由化を受け入れ、アメリカなどに先走って、TPPを国会で批准することが問題である。そして、日本人の数千年来の主食である米を壊滅させるのかどうか、ということが問題である。
 国会は、TPP政府案の審議のなかで、ここのところを厳しく追及しなければならない。

 最後に、いま、これだけは言っておきたい。それは昨日の新潟県知事選の結果についてである
 当初、自公推薦の候補者が楽勝と伝えられていた。しかし、結果は惨敗し、野党の統一候補者が当選した。このことは、原発再稼働反対、TPP反対という民意を受け入れない政治家は、政治家を辞めるしかない、ということである。
 もう1つは、民進党が野党の統一候補者を推薦しなかったことである。今朝の新聞報道によれば、出口調査では、民進党支持者の実に85%が、民進党が推薦しなかったにもかかわらず野党統一候補者に投票したという(朝日)。
 このことは、民進党が、原発再稼働やTPPに対して明確に反対しない大手労組の連合のクビキを断たないかぎり、多くの民進党支持者から見放されることを示唆している。
 民進党は、少数の経済的強者の立場に立つ連合のための民進党ではなく、農業者など国民の大多数である経済的弱者のための民進党に脱皮しなければ、その存在意義を失うだろう。
(2016.10.17)

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