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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2016.11.07 
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 TPPの衆議院での審議は、与党が予定していた採決を、何回も延期して、与野党の激しい攻防が続いている。先週末には委員会で強行採決した。明日は本会議で採決しようとしている。
 採決は、3回でも4回でも延期すればいい。そうして、TPPの反国民性を明らかにすればいい。共同通信の世論調査によれば、76.8%の国民が、慎重審議と批准反対を要求しているのだから。
 一方、アメリカでは、世界中の注目をあびている大統領選挙が、いよいよ明日行われる。民主党も共和党も、支配層はトランプ氏を誹謗中傷している。だが、各社の世論調査によれば、国民の支持は終盤になっても、なかなか下がらない。むしろ上がっている。世論調査では把握しにくい、トランプ氏の隠れ支持者が多いことを考慮すると、クリントン氏は安心できないだろう。
 TPPとトランプ現象に共通しているのは、経済的弱者と経済的強者との間の抗争が原動力になって、いま、世界の政治が動いていることである。このことを、旧来のマスコミは認識していない。だから、不様に右往左往している。

 共同通信社が10月29、30日に行った世論調査によれば、TPPについて、
 「成立させる必要はない」          ... 10.3%
 「今国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」 ... 66.5%
 「今国会で成立させるべきだ」        ...17.7%
となっている。つまり、与党が予定している今国会での批准に賛成している国民は17.7%しかいない。6人のうち1人だけだ。反対している国民は76.8%で圧倒的に多い。
 国会が、こうした国民の意見を踏みにじり、強行採決などをすれば、まさに反国民的ということになる。

 さて、 かつて、世界の政治は、労働者と資本家との対抗関係のなかで決まってきた。しかし、いまはそれほど単純ではない。労働者のなかには、経済的強者になったつもりで、資本家のように振舞う者もいる。また、資本家のなかには、世界を股にかけて、世界の労働者を搾取する経済的強者としての巨大資本家もいる。残りの労働者と小資本家と、労働者でも資本家でもない中間層は、経済的弱者として苦悩している。
 だから、以前のように、労働者対資本家という単純な構図では世界の政治は見えてこない。まして労働者の利益を代表する民進党と、資本家の利益を代表する自民党の対立という見方では、政治の深層を捉えられない。同様にアメリカでも、民主党と共和党という二分法では、事態を見誤る。
 いまや、巨大資本家と、その周囲でそのオコボレに群がる1%の人たちと、彼らから徹底的に搾取される99%の労働者と中間層という二分法でないと、いまの政治の深層を理解できない。
 政治の枠組みは、こうなった事態に照応して、大きく崩れた。そして、新しい事態に照応した新しい枠組みが作られようとしている。それがTPPをめぐる対立であり、トランプ現象である。

 新しい枠組みのなかで、農業者はどこに位置づくか。それは、もちろん、1%の強者の側ではない。99%の弱者の側に位置している。
 以前、農業者は労働者と資本家の中間に位置していた。しかし、巨大資本家は、そこを新しい搾取のためのフロンティアに仕立て上げ、そこを資本主義化することを企んでいる。
 巨大資本家が狙っているのは、農業分野だけではない。医療や教育など、これまで資本主義化してカネ儲けの対象にしなかった分野も狙っている。そこまでフロンティアを広げて、弱者を貪欲に搾取しようとしている。
 その手段がTPPである。だから、農業者をはじめとする弱者が一体になって反対している。

 このように、政治の枠組みが、大きく崩れたことを、旧来の農林族といわれる凡庸な政治家は理解できない。だから、新しい枠組みのなかでは埋没するしかない。旧農林族の解体である。旧農林族に残された道は2つしかない。
 1つは、「農水大臣になりたい病」になって、1%の強者の利益を代弁して、反TPP運動を押さえつける第一線に立ち、その汚い役割りを果たす道である。
 もう1つは、政治家を志したときの初心に立ち返り、99%の弱者の利益のために、反TPP運動の第一線に立って奮闘する道である。
 それは、民進党とか自民党とかの党派を超えた政治勢力の再編の萌芽になるだろう。
(2016.11.07)

共同通信社が10月29、30日に行った世論調査 は
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS30H21_Q6A031C1PE8000/

(前回 TPPの短期的で局部的な論議

(前々回 白けた衆議院補選

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