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コラム:地方の眼力

【小松泰信 岡山大学大学院教授】

2016.11.23 
創造的自己改革を邪魔するものとは断固戦う一覧へ

 21日に東京都内で行われた「JA自己改革等に関する与党との緊急集会」には、全国からJA組合長ら約1500人が集まった。すでに、本紙などにおいてその内容が紹介されているので、詳述は避ける。違和感を覚えたのは次の三点。

◆なぜ非公開だったのか -「見せる化」こそ重要-

21日のJAグループの緊急集会 まずは、冒頭のあいさつを除き、ほとんどが非公開で行われたことである。主催側、与党側、いずれからの要求かは分からない。しかし全国の農業者やJA関係者、そして広く国民に理解してもらうためには、「見せる化」が求められている。にもかかわらずの非公開は問題である。付言すれば、隠そうとするから、あの罪深い山本有二発言が出てきて、不利益誘導がなされるのだ。
 二点目が、二階幹事長が「皆さんと違う方向で農業政策が進むようなことはない。自民党は皆さんを裏切るようなことはない。...戦うべき相手があれば一緒に戦おう」と呼びかけたことである。よく言うよ、本当に。どれだけ裏切られてきたことか。"あれば"という前提のようであるが、もし「戦うべき相手」が金丸のようなパシリではなく、安倍晋三、小泉進次郞、そして自民党であっても一緒に戦う覚悟がお有りなのですか。だれも信じてはいない。
 三点目が、今ごろ決起集会的なものを慌てふためいて開いても遅い。無駄な対話に時間をかけすぎただけ。この責任は重い。
 信頼される参加者からの話によれば、まったく盛り上がりに欠ける集会だったようである。筆者が覚えた違和感に加えて、奥野会長のあいさつをはじめとして、全中から「戦う」姿勢が伝わってこなかったことが最大の理由とのことである。

◆小泉進次郞節は健在だが 

 一方、小泉進次郞節は健在。15日日本経済研究センターにおけるセミナーで「なぜ今、農業改革か」という講演を行っている。講演メモを読むと、不覚にもついつい読み入ってしまう。さすがの発信力。シナリオライターの影は見えているが、それを自家薬籠中の物にしているのはさすが。問題意識を持つことなく聞くと、シンジロウ・ワールドに魅せられるはず。自分に都合の良い事例とグッと来る話を散りばめ、そこにJAグループを揶揄するエピソードをからめながら、入山禁止の山に連れて行こう、連れて行こうとする。その手は桑名の焼きハマグリよ。
 JA全国女性協の要請に対して、「(金丸提言を)そっくりそのままのむことは絶対にしない。だが自己改革でどこまでできるかだ」と、強調している(日本農業新聞22日)。だとすれば、どこに手を加えるつもりであろうか。前回の当コラムで指摘したように、捨て石的金丸提言を露払いとし、それよりも少しだけこぎれいな姿で出てきて、これならば、と思わせるはず。眉に唾をつけておくことをお忘れ無く。性根は、皆が激怒した金丸提言と同じである。

◆地方紙の指摘 

 検索サイトで確認した地方紙の中で、長野県の信濃毎日新聞だけが金丸提言を社説で取り上げている(11月15日)。「流通コスト削減は農業の体質強化に必要だ。その多くを占める全農の改革は避けて通れない」としたうえで指摘されている提言の問題点は、次のように要約される。
(1)自己改革が不徹底に終われば「第二全農」の設立を国が推進するべきだと明記している点について、「不徹底」の判断基準も不明確で、事実上、政府の指示通りの改革を強制する内容である。
(2)農産物の全量買取については、売れ残りリスク、競争力が低い地域の農産物の買取が可能か、買取価格を抑えることで農家の収入が低下する懸念あり。
(3)効率重視の組織への転換については、民間企業が進出しない中山間地でも生活資材やガソリンを供給し、農産物の委託販売をしてきた。効率一辺倒では存在意義が薄れる。
 そして、TPPの発効は見通せなくなっても、農業は高齢化などで崩壊の道を歩んでいることから、根本的な改革の必要性を指摘するとともに、農家収入を増やす改革に自らの責任で取り組むべき、としている。
 さすが、長年長野県の農協界と丁丁発止やってきた新聞社だけのことはある。絶妙なバランス感覚で、提言の問題点と全農の課題を示している。地方紙は斯くあるべし。

◆性根を据えた備えがあれば憂え無し

 10月21日にJAグループ茨城による「JA自己改革実践大会」に出席した。600名規模の集まりで、会長あいさつから情勢報告、基調講演(堤未果氏)、午後の分科会、どれも中身が濃く刺激的であった。また熊本県や福岡県などでは、都道府県中央会のリードでTPP反対集会が取り組まれている。全中のリーダーシップが内外の力で削がれているため、都道府県単独で取り組まざるを得ないようではあるが、当てにできないものは当てにしない。自主・自立の組織として、発信すべきものは自らの責任の下で発信する。まさにその時である。
 日本経済新聞(22日)は、15日安倍首相が西川、小泉、両氏に改革の推進を指示したことを伝えている。そして、「政府は民間組織であるJA全農に強制力を持たない。農政改革を担保するため、小泉氏や規制改革会議のメンバーは改革案を閣議決定して全農に実行を迫るシナリオを描く」としている。JAグループは、創造的自己改革に取り組んでいる最中。邪魔はしないこと。
 思いどおりの成果を上げないアベノミクスとTPPで挙げた手の下ろし方に悩む安倍首相のこと、いじめられっ子全農の両頬を張り倒しながら手を下ろしていくことが容易に想定される。
 その時どうするJAグループ。それこそ性根を据えて、最悪のシナリオに備えて戦いの準備を怠るな。
 「地方の眼力」なめんなよ
(写真)21日のJAグループの緊急集会

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