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コラム:植草一秀の「政治を斬る」

【植草一秀(政治経済学者)】

2016.12.31 
日本農業を売り渡す安倍政権一覧へ

◆TPPの漂流
 
 米国大統領選でトランプ氏が当選したことで、TPPが漂流する可能性が高まっている。トランプ氏は大統領就任初日にTPPから離脱宣言することを公約に掲げた。トランプ氏当選に慌てふためいた安倍首相は11月17日、50万円のゴルフクラブを手土産に抱えてニュヨークのトランプ私邸詣でを挙行。大統領選でのクリントン支持を詫びる土下座外交を行なったと見られる。
 安倍首相はその足でペルーで開催されたAPEC首脳会議に出席。会議後の記者会見で「米国抜きのTPPは意味がない」と発言した。トランプ氏はこの発言に合わせたかのように、大統領就任初日のTPP離脱方針を改めてビデオメッセージで全世界に発信した。安倍首相の面目を潰すための行動であったと見られる。
 TPPは規約により、米日を含む6ヵ国以上の国内手続きが完了しなければ発効しない。米国の承認なしに発効しないのである。したがって、トランプ次期政権がTPPからの離脱を決定すればTPPが発効することはなくなる。TPPは事実上死んだと言える。
 しかし、まだ成仏はしていない。TPPは浮遊霊として空間をさまようことになる。最終合意署名から2年が経過する2018年2月の期限までに、米国が方針を変えて承認手続きを完了すればTPPは復活する。また、米国抜きでTPPを発効できるように規約を変更しようとする思惑も存在する。TPP浮遊霊が日本に憑りつかないように、引き続き厳重な監視を続け、浮遊霊を除霊する必要がある。
 
◆日本中枢に巣食う売国勢力
 
 TPPを阻止するために市民と各種団体・組合が自発的に行動を続けてきた「TPPを批准させない!全国共同行動」は日本がTPP批准案および関連法案を強行採決、可決した事態を受けて、この運動を引き続き「TPPを発効させない!全国共同行動」として継続する方針を固めた。各種団体・組合にも共同行動継続を呼びかける。
 日本の主権者にとっては「百害あって一利のない」TPPを完全に成仏させるまで草の根の運動を継続してゆかねばならない。「今だけ、金だけ、自分だけ」の「三だけ主義」に基く政治決定が、将来の日本国民に重大な災厄をもたらすことを、何としても阻止しなければならないからだ。
 TPP阻止を実現するためには、問題の本質を日本の主権者国民が正確に把握する必要がある。敵を知らずして戦に勝つことはできない。
 TPPを単なる「外圧」と捉えることは誤りである。TPPが強欲巨大資本=多国籍企業=ハゲタカの利益極大化のための最終兵器であることは紛れもない事実であるが、この「ハゲタカファースト」のTPPを推進する勢力が、国内に潜んでいることを知っておかねばならない。
 つまり、日本の内側に、日本人でありながら日本の主権者国民の利益ではなく、ハゲタカの利益を追求する手先=売国勢力が多数潜んでいることが問題なのである。この勢力こそ「今だけ、金だけ、自分だけ」の「三だけ主義」に身も心も浸かり切った売国者なのだ。そして、その売国勢力が日本の国家中枢に巣食っていることが最大の問題なのである。
 
◆成長戦略と規制改革推進会議

 TPPと並行して進展しているのが安倍政権の「成長戦略」であり、「規制改革推進会議」である。「規制改革推進会議」のメンバーを見れば一目瞭然である。日本の経済政策が「国民ファースト」から「ハゲタカファースト」に転じたのは2001年である。小泉純一郎政権が誕生して、いわゆる「改革」路線が提示された。
 「改革」という言葉がプラスのイメージを持つために、ほとんどの国民が騙されたが、「改革」とは、ハゲタカの利益に沿うように日本の諸制度、諸規制を改変することである。小泉新政権は労働規制を急激に改変したが、その結果としてリーマンショックに伴う大量の雇い止めが発生。2008年末の日比谷公園での「年越し派遣村」の惨状がもたらされた。
 この現実が国民を覚醒させて2009年の鳩山政権誕生の原動力になったが、「ハゲタカファースト」を「国民ファースト」に大転換されることを恐れた利権複合体が、この新政権を破壊するために非合法の手段を含む総攻撃を展開。鳩山政権はわずか8ヵ月半で破壊され、その後はハゲタカ傀儡の菅直人政権、野田佳彦政権を橋渡しに、2012年の第2次安倍政権樹立が誘導された。
 そして、この安倍政権が2001年に始動した「ハゲタカファースト」の経済政策を再度全面展開している。現在の「改革」推進の特徴は、内と外の両面から、これが全面推進されていることだ。外を担ってきたのがTPPであり、内を担っているのが成長戦略と規制改革推進会議なのである。
 
◆ハゲタカが支配する農業への転換
 
 TPP、成長戦略、規制改革推進会議に共通する重点分野が「医療」「農業」「労働」の三分野である。すべてを貫く基本方針は、ハゲタカの利益極大化である。ハゲタカ=強欲巨大資本=多国籍企業が日本からの収奪を極大化しようとしている。具体的には、
 1)日本医療を公的保険医療と公的保険外医療の二本立てにすること、
 2)日本農業を「農家の農業」から「ハゲタカの農業」に改変すること、
3)日本の労働コストを極小化すること、
が目指されている。
 この大目標を実現するために、もっともらしい理屈を書き並べる。そして、意思決定に関与するメンバーをハゲタカ代理人=売国者だけで占有する。この大きな図式が描かれて、これが強引に推進されているのだ。
 農業において最大の障害が農業協同組合である。農協こそ「農家の農業」を守る砦である。この農協を解体して日本農業の主体を大資本=ハゲタカに転換する。農協から信用事業、共済事業を外して農協を存立不能な状況に追い込み、最終的には農協の各拠点がハゲタカ大資本の営業代理店に衣替えさせられる。
 農家は廃業するか、ハゲタカ巨大資本の劣悪低賃金労働者になるかの二者択一を迫られることになる。
 農協幹部は政権与党の側にいることだけに価値を見出そうとしているが、農業がハゲタカ資本に支配された暁には、無用の存在として切り捨てられるだけに終わる。規制改革推進会議メンバーがハゲタカのために強引な議論を展開するのは、それなりの報酬を獲得できるからだけに過ぎない。自分の目先の利益のために、国民の大きな利益を売り渡す。これこそ「売国の作法」そのものなのだ。この基本構造を正確に認識することが日本を救う原点になる。

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