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コラム:TPPから見える風景

【近藤康男「TPPに反対する人々の運動」世話人】

2017.02.09 
TPPは今何処にいるのか? 安倍訪米を前に考える一覧へ

 2月10日に安倍首相はトランプ新大統領と首脳会談を行う。そこでの主要課題は経済と軍事、トランプ氏からは日本に対して厳しい要求が出てくると想定される。安倍首相は“腰を据えて話す”、“理解を求めたい”という一方、トランプ大統領は“要求と圧力と交渉”を考えている。これでは勝負は見えている。結局日本が譲歩することでまとめる、というこれまでの日本外交の定番となるだろう。しかし同時にその内容は、安倍首相や稲田防衛相がここぞとばかりに悪乗りしたい内容にも近いものになる可能性がある。
 声高ではないものの、軍事面での米国の要求は防衛予算の大幅増額と防衛面での日本の役割強化だ。日本による米軍駐留経費負担率は大凡75%、これを更に増やせば米軍は日本の傭兵に等しくなることを、マティス将軍は充分承知しており、元々求めるつもりはなかった。
 彼にとって重要なことは、日本の防衛予算がGDP1%を超え、更に世界中で役割を拡大することだ。これには政治的な反発も予想されるが、相当な政策転換だ。このことはTPPとも無関係ではない。

◆生ける屍TPP、死んだのか?漂流なのか?

 協定の発効・参加・脱退に関する規定は最後の30章・最終規定だ。「全ての原署名国が国内手続きを終え」あるいは「署名後2年以内に前項の条件が整わなかった場合は、原署名国全体のGDPの85%以上を占める、原署名国6ヶ国以上が、国内手続きを終え」、寄託国に書面通知後60日で効力を生じる、2年後以降も同様、とされている(30章5条)。
 脱退については、寄託国に書面で通告後6ヶ月後に効力を生じる、協定は引き続き他の国に対して効力を有する、とされている(30章6条)
 今回の米国のような"署名後―発効前"の間での脱退については何も規定されていない。何か柔軟な適用は無いのか? しかし先日の各国の市民団体との電話会議でも、国際法学者の意見も含め「米国はあくまで原署名国としては協定上残っており、米国抜きに11ヶ国でこの協定を有効化も、無効化も、修正も出来ない。新しい協定として11ヶ国の合意署名・国内手続き・発効手続きを採らなければ、"米国抜きのTPP"は成立しないだろう」との結論だった。同時にそれは、いつか米国が翻意すれば、再度発効に向けた動きが可能ということも意味している。

◆11ヶ国による新たなTPPはあり得るか?

 2月5日、寄託国NZのマックレイ貿易相が、豪州を皮切りに日本、シンガポ-ル、メキシコとTPP署名国訪問の途についた。"米国抜き"の案、あるいは南米・アジアの国を含むアジア太平洋の新たな協定など、様々な代替案を含め、米国離脱後の方向について協議をするためだ。メキシコとは2国間協定についても協議する。
 3月14~15日にはチリの呼びかけで、チリのヴィニャ・デル・マ-ルで、TPP参加国に加えて中国・韓国・コロンビアなどにも呼び掛けて、今後の地域経済連携協定の可能性について協議しようという計画が動き始めている。
 しかし、カナダは当面NAFTA再交渉を優先、メキシコはNAFTA見直し交渉に加え、TPP参加国とは2国間協定締結という方針を明確にすると同時に、交渉が停滞していたトルコとの2国間協定加速も目指している。トランプ政権もTPA法により"正式な交渉に入る"には90日前までに議会に通知しなければならない。メキシコは見直し交渉は正式には5月以降と見ている。TPP参加国でメキシコと2国間FTA未締結の国は6ヶ国(豪州、NZ、ベトナム、マレ-シア、ブルネイ、シンガポ-ル)、米国と未締結の国も6ヶ国(日本、豪州、NZ、マレ-シア、ブルネイ)だ。
 当初は米国の翻意を促す、あるいは並行して米国抜きのTPPも代替案としていた多くの国も少しずつスタンスを変えつつあるかのようだ。
 各国とも様々思い?を巡らせているようだが、"米国の市場を求めてTPP交渉で譲歩に踏み切った"あるいは、"本旨としないが米国の強い圧力で厳しいル-ルも受けいれた"国も、特に途上国には多い筈だ。従って"米国抜きの疑似TPP案"は意外と利害が輻輳し、その交渉には思ったより大変かもしれない。

◆TPPは日米にとって何だったのか?

 日米両政府にとってTPPの重要性はTPPの地政学的意味だ。両者は東アジアの安定と成長するアジア経済の取り込みの主導権を獲得する上で、ハードパワ-としての日米(軍事)同盟とソフトパワ-としてのTPPは欠かせないとし、互いに相手の存在をアジアで必要としている。新政権も同様だ。ただ米国の雇用・製造業復活第一を掲げている分、対日要求は厳しいだろう。
 安倍首相はTPPの途を残すためにも2国間FTAではなく、出来れば個別要求での2国間協議に止めたいだろう。しかしトランプ氏と意気投合したい首相は、彼に譲歩し、経済的にも軍事的にも冒険をすることが懸念される。既に米国の経済・雇用への貢献のため公的年金による投資まで囁かれ、稲田防衛相もマティス国防長官との会談・共同記者会見で踏み込んだ発言をしている。

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