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コラム:読書の楽しみ

【浅野純次 / 石橋湛山記念財団理事】

2017.09.24 
【読書の楽しみ】第18回一覧へ

◎孫崎享
『日米開戦へのスパイ』
(祥伝社、1836円)

 ゾルゲ事件といえばゾルゲと尾崎秀実がスパイ容疑で逮捕、処刑された昭和史屈指の大事件でした。逮捕からわずか2カ月で日米開戦となります。これは偶然ではなかった。これが本書の核心です。
 とにかく驚かされました。尾崎が近衛首相から入手してゾルゲとソ連に送り続けた情報はさほど重要なものではなかったし、この逮捕劇には東條陸相が深くかかわる策謀があった、というのですから。
 事件の最大の焦点は尾崎逮捕の日付にありました。尾崎逮捕はこれまで1941年10月15日とされてきたのですが、実際はほぼ確実に14日だと著者は断定します。
 たった1日の違いがなぜ重要なのか。それは本書を読んでのお楽しみ。ともかく尾崎逮捕に責任を感じた近衛は、東條の思惑どおり即、退陣を決意します。してやったりと開戦論者の東條が首相となり12月8日を迎えることになります。
 本書はスパイ行為と取り調べの事実関係を推理小説さながら解き明かし、しかも話を米英ソの思惑から戦後の岸信介まで広げて膨らみをもたせています。
 というわけで戦前戦中派も戦後派も読書の面白さを堪能できるはずです。それに昭和史の真実を知ることは現在と今後を考える上で大いに重要でしょう。


◎長谷部恭男・石田勇治
『ナチスの「手口」と緊急事態条項』
(集英社新書、777円)

 憲法改正論でもっともらしい意見の一つに緊急事態条項があります。外部からの武力攻撃、内乱、地震などの自然災害「その他」の事態に際しては首相に大きな権限を与えて対処できるようにしようというのです。
 事態は一瞬の猶予も許さない、首相の決断が国の命運を分ける、と言われれば、それもありかと思う人も多いかもしれない。しかし、憲法とドイツ史の専門家の内容の濃い対談によって、矛盾の数々が浮き彫りになります。
 ナチスの犯罪に戦後ドイツが真正面から向き合うようになった歩みを知り、そのことと憲法の深いかかわり、「ドイツ憲法は何度も改正している」という声もあるがこれは細かな個所ばかりで基本線は維持され続けていることなど、本書に学ぶことがとても多いことに驚かされました。
 法律論でわかりにくい個所もありますが、飛ばして読めばいいと思います。「ナチスの手口に学んではどうか」という大物政治家の口車に乗らぬためにも、本書でしっかりガードを固めたいものです。


◎丹羽宇一郎
『死ぬほど読書』
(幻冬舎新書、842円)

 経済人として著者ほど本好きで本をよく読む人を知りません(実家が書店だったのも影響したらしい)。著書もたくさんありますが、読書に関する本はこれが初めてです。社会人になってから本好きはますます高じ、社長就任後も朝の社用車をやめ始発電車に座って本を読むほうを選んだというほどの本好きによる読書談義です。
 ベストセラーは読まず、ハウツー本もすべて無視し、本におカネは惜しまず、人の勧める本は書評を含めて当てにしない、のだとか(となるとこの書評も、でしょうか)。
 冗談はさておき、読書によって人はどう磨かれるのか、読書で人を見る目はどう養われるのか、どう読んだら身につくのか、読書ノートの活用法、読んだ本の処理法など、たくさんのヒントが得られるはずです。
 ビジネスでの自らの失敗談や、運の引き寄せ方など、本に限らぬ人生を切り開く上でも大いに参考になる本としてお勧めします。

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