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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2017.10.13 
(052)食品企業における研究開発・商品開発と「その他」の業務一覧へ

 筆者の勤務先はフードビジネスを主たる対象としているため、食品に関心ある学生が圧倒的に多い。中でも圧倒的に多いのが新商品の開発を希望する学生達である。10人話せば恐らく10人が本音は新商品開発希望と言うこともあり得る。

 新商品開発は高校生や大学生など社会経験が少ない若者からは、一番わかりやすく、そして華やかな「勝ち組」に見えるのかもしれない。実際、多くの人は目に見えるものだけが現実ではないと理解していても、最終的な決断をする瞬間まで何とか「夢」を見ていたいし、これは筆者とて例外ではない。
 しかし、学生達を見て気になるのは研究開発と商品開発の違い、そして企業活動全体への俯瞰的な理解といった視点を十分に持ち得ていないケースである。
 まず、研究開発と商品開発は似て異なる。簡単に言えば、前者は素材を徹底的に研究して将来商品となり得る可能性を科学的に見つけることであり、後者は既に研究開発で得られた素材や既存の商品を元に、技術面だけでなく、パッケージやネーミング、ブランド化、宣伝などの面を活用し、商品としてさらに付加価値あるものに仕上げることである。

*  *  *

 さて、日本に限らず食品産業はどこの国でも裾野が広い。やや古い数字で恐縮だが、農林水産省・総務省の資料によると、わが国の産業全体の就業者数(2012年)は6270万人のうち、食品産業は804万人(13%)である。内訳は、食品製造業が145万人(18%)、外食産業が321万人(40%)、食品関連流通業が338万人(42%)となっている。
 また、日本の食品企業の中で売上高が1兆円を超えている企業は、日本たばこ産業、キリンホールディングス、アサヒグループホールディングス、サントリー食品インターナショナル、明治ホールディングス、日本ハム、味の素、山崎製パン、の8社である。このうち、上位2社が2兆円を超えている。
 この中で1兆円規模のある企業は、世界30の国や地域で事業を行い、従業員数約3万3000人、生産工場は100をはるかに超えている。この企業で研究開発に従事している人間は1700人以上である。これはすごい人数だが、単純に計算すれば研究開発要員はこの企業の全従業員の約5%、20人に1人だ。学生人気は高いが、ハードルも高い。
 では中小はどうか。経済産業省「製造業における研究開発人員割合の推移(資本金規模別)」で見ると、2005年時点では、資本金3億円超で8.3%、1~3億円で4.4%、5000万~1億円で3.8%、5000万円以下で2.5%が研究開発要員である。これは傾向値を見る限り現在でも余り変わらないと思う。
 以上からわかることは、少なくとも食品製造業における研究開発要員は規模の大小にかかわらず、概ね全従業員の5%前後...ということのようだ。近年の食品加工技術などの進歩を考慮すると、恐らく今後は益々高学歴化(大学院卒)していく可能性が高い。
 これに対し、マーケティングの一分野としての色彩を強く伴う商品開発の場合には、市場調査や戦略策定など、専任ではなく、いわゆる「総合」職や「営業」職の人間が仕事の一部として担当していることが多い。これは最初から商品開発の専任担当ではなく、多彩な業務の一環としての商品開発という側面があることを理解しておく必要がある。

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 重要なことは、企業とは、研究開発や商品開発以外の仕事、つまり「その他」を担う多くの人がいるからこそ持続性ある組織として成り立つという点である。
 これは農業も同じである。日々の農作業を行う人や出来た農産物を輸送・保管、そしてタイムリーに販売してくれる人がいるからこそ、我々は毎日好きなものを食べられる。作物の品種改良は立派な研究開発だが、それだけが農業に関係・貢献する道ではない。それはピラミッドの頂点ではなく、長いサプライ・チェーンの始まりに過ぎない。最終的にできた農産物をどのような形で、どう販売するか、消費者に届くまでの全てが仕事になる。
 研究開発や商品開発を希望する学生は、こうした現実をよく理解した上で目標達成に向けて頑張れば良い。筆者の勤務先の大学もそうした学生向けのカリキュラムを用意している。一方、企業や組織というものを、研究開発や商品開発だけではなく、全体として見ることができるようになった学生、あるいは分野は決めていなくても、社会に出て、それから頑張りたいと思う学生は、企業活動全体、サプライ・チェーンの全体を踏まえた上で、自分が本当に納得できる領域を心に秘めて一歩を踏み出して欲しいと強く思う。

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