独裁化する安倍総理 憲法改正に走る2017年10月26日
10月22日の衆院選で奇跡的に大勝した安倍総理と安倍内閣の閣僚たちは、あたかも申し合せたかのように「謙虚」を繰り返し強調していますが、この姿勢が永く続くことはないと思います。
「独裁は暴虐を助長し、奴隷根性を助長し、残忍さを助長する。しかしもっとも忌まわしいことは独裁が愚かさを助長することだ」
(ホルへ・ルイス・ボルヘス)
◆「謙虚」は今だけ
謙虚なマナーはしばらくは続く可能性はあるかもしれませんが、力づくの安倍政治の修正はありえないと思います。安倍総理はいますぐにやる意味のない憲法改正に本気で挑戦してくると私はみています。今回の衆院選について総括的な見方を整理しておきます。安倍自民党の勝因の第一は「北朝鮮危機」です。内閣総理大臣が毎日毎日「北朝鮮危機」を叫び、これをマスメディアが繰り返し報道したこともあり、国民の中に危機意識が高まり、政府危機を起こしてはいけないとの気分が広がりました。これが安倍自民党が勝利した第一の要因です。
第二は、一時だけ盛り上がった「小池旋風」が、小池百合子希望の党代表(東京都知事)の「排除発言」で一瞬にしてしぼんでしまったことです。小池氏の排除発言をきっかけに野党第一党が三つに分裂し、反自民党の受け皿がなくなりました。皮肉な言い方をすれば、小池氏が安倍自民党を勝利させたのです。新党は風が止まれば失速します。逆風が起こればひとたまりもありません。長い歴史をもち日本国民の中に一定の組織的基盤をもつ自民党・公明党と比べると、根のない新党は「風にそよぐ葦」に過ぎません。
自民党は今日の衆院選における選挙公約に憲法改正を書き込みました。自民党の圧勝により、この公約は国民から支持されたことになります。しかも、憲法改正には野党の中に協力者がいます。困ったことですが、安倍総理が憲法改正に向かって走り出すことは間違いないと思います。
◆安倍総理の政治手法
2006年から2007年の第一次安倍内閣時代の政治手法は余りにも拙策で幼稚でした。2012年以降の第二次、第三次安倍内閣は、第一次内閣への失敗の反省の上に立って改善しました。政治手法が巧妙になりました。
安倍総理の政治手法の第一は、衆院選、参院選のときは経済政策を前面に打ち出し、野党に経済論争を仕掛け、国民の関心を経済に集めました。経済政策といっても安倍総理がしたことは、前内閣の民主党政権が決めた増税の時期を延期することでした。一般の国民にとって増税の延期は歓迎すべきことです。安倍総理は2012年と2014年の衆院選に大勝し、強大な政権をつくり上げました。
政権が安定したときに安倍総理が取り組んだのは野党と対決する安保法制や治安立法でした。安倍総理がめざす日米同盟の強化と日本の防衛能力向上に主眼をおきました。安倍総理は日米同盟のもとでの日本の軍国主義国化をめざしています。
『孫子』に「始めは処女の如く後は脱兎の如し」という言葉があります。安倍総理の政治手法をつぶさにみてみると、いつも始めは低姿勢ですが、いざ勝負の時となると、脱兎のように走るのです。安倍総理は強引な政治手法が好きであるようにみえます。
安倍総理はこの7月から8月にかけては低姿勢になり「謙虚」を何回も叫びました。東京都議会議員選挙での自民大敗北と森友・加計学園問題での国民の安倍総理への不信の高まりに弱気になり謝罪の記者会見までやりました。
しかし低姿勢はポーズだけでした。野党が求め続けてきた臨時国会は開かずにひきのばしたあげく、臨時国会を開くと同時に衆議院を解散しました。
安倍総理は野党の準備不足を狙ったのかもしれませんが、同時に11月5日6日のトランプ米大統領の訪日の日程も考慮したのだと思います。トランプ大統領の訪日時の日米首脳会談は安倍外交のハイライトなのです。衆院選の大勝利の直後にトランプ大統領を迎えることができるのは安倍総理にとって大きな幸運といえるでしょう。
安倍総理の憲法改正への挑戦は米大統領訪日直前の外交日程が終了するとともに始まると思います。希望の党や維新の協力を得ることができれば、発動はできるでしょう。憲法改正をめぐる決着は国民投票によってなされることになるでしょう。
この時に注目されるのは公明党の姿勢です。自公連立体制を重視するか平和の党としての国民に対する責任を重視するかを問われる時期がくるでしょう。
◆2018年秋の自民党総裁選に向けて
過去5年間に及ぶ安倍政権の政高党低の政治運営は、今日の衆院選の大勝によって継続されることになりましたが、このまま静かに2018年秋の自民党総裁選での安倍三選を認めるか否かに注目が集まっています。総裁選には石破元幹事長と野田聖子総務相と岸田文雄政調会長、河野太郎外相らの名前が挙がっていますが、このうち少なくとも石破氏と野田氏は出馬する可能性が高いと思います。安倍総理の人気が低迷するようであれば、安倍総理の9年間の長期政権への夢は絶たれるかもしれません。2018年は安倍総理にとって勝負の時になります。安倍総理はこの事態を憲法改正をめぐる動きを加速化させることによって乗り切ろうとするでしょう。憲法改正は自民党内をまとめる上で最も好都合な政治課題なのですが、これも賭けです。
◆野党の混乱と再編の可能性
政党の再編成が起こるのは選挙の時です。しかし、2019年夏の参院選までは国政選挙はないとみられています。従って今は野党の大きな再編は起きないと思います。立憲民主、希望、無所属、共産、維新などの党とグループは当面はそれぞれ内部固めにあたることになります。何らかの再編・統合が起こるとしても年末になると思います。
野党各党は「森友・加計」問題の国会審議のために臨時国会の召集を要求するでしょうが、政府与党は受け入れない可能性があります。この場合は与野党の論戦は2018年1月招集の通常国会になりますが、安倍政権に対し国会軽視、「森友・加計」かくしとの批判が起こる可能性はあります。
◆落ちた偶像とポピュリズムの底の浅さ
小池百合子女史の国政への挑戦は失敗に終りました。2016年夏の東京都知事選においては、自民党の推薦候補と民進党が支援する候補の二人を倒して、東京都知事に就任しました。ついで2017年夏の東京都議会議員選挙において自らがつくった「都民ファーストの会」を第一党にし、自民党の議席を大幅に減らしました。この二度の勝利によって小池百合子女史は新しい時代の政治リーダーとみられるようになりました。
しかし、三度目の国政への挑戦で躓きました。小池氏は都知事でありながら国政政党を結成し自ら党首になりました。二足のわらじをはいたのです。ここに躓きの第一歩がありました。
ついで民進党との合流に際し、「排除」発言をしたために一瞬にして信頼を失ってしまいました。とくに小池氏を熱烈に支持していた東京都の女性たちの支持を失ったことは致命的でした。このため、小池氏を頼って衆院選に立候補した多くの有能な人材を犠牲にしてしまいました。この責任は重大です。
ポピュリズムの限界を示した政治的事件でした。これを機に日本の政治はマスコミに乗ったポピュリズムを克服しなければなりません。
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