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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2017.12.06 
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 東京新聞(11月26日)の社説で、「壊れていないものは直すな」という西洋のことわざを知った。確かに普通は、壊れているからこそ直すわけである。壊れてもいないものを直そうとする行為には、少なからず邪(よこしま)な気持ちが存在する。この意図的破壊行為が跋扈しているわが国において、拳々服膺(けんけんふくよう)すべき警句である。

◆卸売市場は意図的破壊行為の対象

 意図的破壊行為にさらされているものの一つが、卸売市場である。
 日本農業新聞(12月5日)の一面には、〝政府案 中央市場 民営認める〟という見出しで、政府の卸売市場制度の見直し案が紹介されている。規制改革推進会議による急進的な提言を受け、与党農林幹部と政府の調整結果である。
 リード文によれば、「公設に限っていた中央卸売市場は、民間企業にも参入を認める一方、国の基本方針に適合することを要件とし、公正で安定した市場運営が確保されるよう国が引き続き関与する。...『受託拒否の禁止』規制は維持する。政府は当初、卸売市場法の廃止を検討していたが、自民党や市場関係者の意向を踏まえ存続させる」と、されている。
 具体的には、新制度では一定のルールを守り、基本方針に適合すれば、民営でも中央卸売市場と「認定」。認定を受けた市場には、国が引き続き施設整備などを支援し、指導や検査監督も行う、とのこと。「受託拒否の禁止」「代金決済ルールの策定・公表」などの基本原則は維持され、これに適切な業務運営能力や事業計画の具備を加えて「認定」基準とする。その一方で、「第三者販売の原則禁止」や「直荷引きの原則禁止」などの規制は廃止し、市場ごとに設定できる、と記されている。
 まず問われねばならないのは、これほどまでのスクラップ・アンド・ビルドが迫られるような問題点、つまり〝壊れ〟が、現在の卸売市場のどこに、どの程度存在しているのか、ということ。そして、それらを改善、改革できるほど、民営化という選択肢は有効なのか、ということである。

 

◆壊したがる安倍農政の異様さ

 問題の無い人も組織も存在しない。ましてこの国では、問題と疑惑だらけの御仁が政権トップに鎮座している。結論から言えば、現在の卸売市場には、それがよって立つべき法の廃止までを俎上に載せるほどの問題は無い。個人的記憶が確かなこの半世紀に限ってみても、当該市場の瑕疵によって国民の食生活が混乱したことは無い。これまで、量、質、価格、この三面において、食料の安定供給に貢献してきたし、これからも貢献してもらわねばならない仕組みである。
 〝規制は緩和すべし〟という、バカの一つ覚えの規制虫を走狗として操り、安定運営こそが求められる当該市場に意図的破壊行為という不安定要因を政府自らが仕掛けることは、看過できない大罪である。
 日本農業新聞のコラム(4日)は、食料・農業・農村基本法第二条「食料は、人間の生命の維持に欠くことのできないものであり、将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない」を引き、〝食料の安定供給は義務規定〟であることを明らかにしている。にもかかわらずの卸売市場改革である。「専門家、利害当事者による議論を尽くすことなく法の廃止が上がるところに、今の農政の異様さがある」とは、至極真っ当な指摘である。
 ただし、異様なのは農政だけではない。安倍政治そのものが〝異様〟。

 

◆意図的破壊行為としての米交付金の廃止

 12月3、4日に島根県玉造温泉で開催された、農民連(正式名称;農民運動全国連合会)中国ブロック研究交流集会に講演者をかねて参加した。二日目の分科会で話題となったのが、来年から廃止される米の生産調整(減反)目標の配分と生産調整達成者への主食用10aあたり7500円の直接支払交付金についてである。少なからず当てにしている収入が絶たれることは明らかに痛手である。さらに、稲作に対する国の保護姿勢の後退であることから、営農継続に対する将来不安が広がっていることも明らかになった。そして、安心して営農が継続できるための環境整備として、戸別所得保障制度の復活と恒久的法制化を求める声が上がった。その声は、農村社会の土台、すなわち基層領域から発せられる叫びである。 
 山陰中央新報(12月4日)は島根県の集落営農法人による経営の多角化の現状と課題を取り上げている。
 まず、63haでコメなどを栽培し、年間約260万円の交付金を得てきた農事組合法人の組合長が「経費削減では補いきれない」と厳しい表情を見せ、転作が不可欠だとしつつも、「コメ以外で面積をこなせる作物はなかなか見つからない。機械で作業を省力化できるかどうかが鍵だ」と、苦しい胸の内を語っている。
 つぎに、小規模区画のほ場が分散する山間部、島根県邑南町井原で水稲主体に経営する農事組合法人が、今年40aで赤シソの栽培を始めたことを紹介している。「減反廃止でコメの栽培環境が厳しくなるのを見据えた一手だ」とは、法人組合長の談。赤シソふりかけを製造する食品メーカーとの契約栽培で売り先が確保されていることや、隣接する広島県北部に同社工場が立地し配送費用を抑えられることなど、新規作物として取り組む条件に恵まれたことが紹介されている。ただし、傾斜地に20a未満の不整形な水田を数多く抱え、営農効率化が難しいため、「コメと比べ施肥など管理の手間もかかるが、収益性を上げる努力を続けるしかない」と、組合長は語っている。
 最後に、島根県が16年度に実施した集落営農法人のアンケート調査で、回答した123法人のうち4割強の57法人が、園芸や加工などの多角化に取り組んでいると答えたこと。その一方で、収入に占める多角化部門の割合は、4割の法人で10%を下回り、収益を支える柱となりきれていない、厳しい実態を紹介している。
 スクラップをさせるのは簡単。しかし、スクラップの当事者に〝ビルドは自己責任〟とする姿勢は政治の不作為。現政権の重大な瑕疵を象徴している。

 

◆壊れているのは現下の政治状況

 共同通信社が12月2、3日に行った世論調査における内閣支持率の概要は次のようになる。
 安倍内閣の支持率は47.2%、不支持率は40.4%。支持理由の第1位は、「ほかに適当な人がいない」の42.5%、これに「外交に期待できる」17.7%、「経済政策に期待できる」12.7%が続く。ちなみに、「首相を信頼する」は6.6%。不支持理由の第1位は、「首相が信頼できない」の40.8%、これに「経済政策に期待が持てない」24.4%、「首相にふさわしいと思えない」12.5%が続いている。
 まず、これほどまでに信頼されない首相に代わるべき人がいないという結果に驚く。次に、支持する政党のトップ自民党(37.1%)に、「支持する政党はない」が34.4%と急迫していることにも驚く。
 これらは、わが国の政治状況の〝壊れ〟を表している。
 当コラムにできることは、驚くことでは無く、戦い続けることのみ。自分自身が壊れないために。
 「地方の眼力」なめんなよ

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