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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2018.01.19 
(066)財政支出大幅削減とセットで考えると...一覧へ

 西暦2000年当時の米国農業法による財政支出は2017年時点のドルベースに換算すると約300億ドル1ドル=100円として3兆円)であったが、現在は規模が3分の1に縮小している。古い話だが、米国は1996年農業法により農業政策、そして農業保護の方法を大きく転換した。簡単に言えば、それまで農業政策の中心であった生産調整と不足払いという制度を廃止し、作付けを自由化したのである。さらに、不足払いに変わるものとして期間限定(7年間)の固定支払いへと移行、その固定支払いも2014年農業法では廃止している。

 当時の状況を覚えている人であれば、1996年農業法は日本のコメの生産調整廃止以上のインパクトがあった農業政策の大転換として記憶にあると思う。これは財政赤字解消のための大幅支出削減という国家的大目標の中で農業部門の対応として出されたものである。増大する財政支出は米国でも大問題だったからである。
 ところが、本来こうした方針転換に大反対するはずの農業団体などは、当時、様々な議論を経たものの最終的に1996年農業法を受け入れた。そして、基本方向はその後、2002年、2008年、そして2014年の農業法にも受け継がれている。
 その結果、長期的に見て財政支出がどう変化したかは、冒頭で述べたとおりであり、その推移を示したものが下の表である。ここでは支出内容の詳細ではなく、グラフの推移だけを注目して頂きたい。15年間に規模が大幅に減少していることがわかる。

Government-payments-by-program-for-calendar-years-1999-2015

出典:McFadden and Hoppe, "Evolving Distribution of Payments from Commodity, Conservation, and Federal Crop Insurance Programs", USDA-ERS, 2017, p11
(2018年1月13日確認)

 このグラフの中で注目すべきは、全期間を通じて土壌保全計画( 茶色conservation部分)の支出はほぼ一定(微増)であること、直接支払( 灰色のcommodity direct payments部分)は2014年で廃止され、なくなったこと、そして、収入保障や価格損失補償など( 図の黄色い部分)が導入されたことである。薄い緑の部分は災害・緊急対策であり、こちらは土壌保全と同様、全期間を通じて一定の規模の支出が見られる。
 簡単にまとめれば、過去15年間に米国の農業政策の中心は、需給調整機能を担うものから土壌保全と緊急・災害対策中心へとシフトしたということである。そして、自由に何でも作付可能となった生産者には収入保障と価格損失補償のいずれかの選択肢が準備され、その結果として財政支出も大きく減少したということになろう。

  ※  ※  ※

 これだけを見れば、まあメデタシメデタシなのだが、少し考えておかなければならない点がある。それは、この1996年農業法以来の農業法が、どのような国際需給のもとで成立してきたかという点だ。
 これも誤解を恐れずに簡単に言えば、2000年代以降、トウモロコシを中心とした穀物価格が大きく上昇したこと、さらにそれらの市場価格が大きく変動したため、農家が求める内容がそれまでとは変化してきたということであろう。ここは重要なポイントだ。
 農場経営安定のためには、農家の立場から見ても万が一に備えた保険機能を備えた政策が不可欠であり、米国農務省はそれに対応したのだと理解するのがわかりやすい。
 もっとも、価格が上昇したからこうした政策が実現しやすくなったのか、こうした政策の結果として中長期的に価格が上昇したかの因果関係は解明が難しい。まして、こうした政策を実現させるために価格を上昇させたとまでなれば陰謀論に近い。
 いずれせよ、新農業法の議論が出るたびに目新しい収入保障・価格損失補償政策が登場し、関係者はその理解と妥当性の検証に時間を費やす。要は、土壌保全と緊急・災害対策以外は自分でやってくれ、一応保険は用意する...という形であり、市場価格が高水準である以上は農家や農業団体もそれなりに受け入れていると考えてもそれほど間違いではないであろう。

  ※  ※  ※

 さて、わが国の農業政策は、今後、どのような方向へ動くのであろうか。国としては何を行うべきか、生産者としては何を行うべきか。目の前に登場する様々な「枝葉」の政策に惑わされず、方向性としての大きな幹を見極めることが今後は益々重要になる。

 

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