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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.02.14 
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 「5日朝、稲嶺さんは自宅近くの通学路でいつも通り黄色い旗を振り、児童の安全を笑顔で見守りました」(しんぶん赤旗、2月9日)。稲嶺さんとは、稲嶺進前名護市長である。今回は、名護市長選の結果について、辺野古への基地移設問題に焦点をあて、新聞各紙の社説・論説がどのような論評を展開したかをみる。

◆移設推進の産経、読売、日経。読売はさらに異説の展開。
 
 産経新聞(6日)は、「移設の進捗を妨げてきた環境が、大きく改善されることが期待される。政府は適正な手続きの下で、移設工事を着実に進めるべきだ」と旗幟(きし)を鮮明にする。そして、「日米同盟に基づき沖縄に存在する米軍が、軍事的にも政治的にも強力な抑止力となっていることを忘れてはならない」と強調し、「安倍首相が市長選の結果を受け『市民の理解を得ながら、最高裁判決に従って(移設を)進めていきたい』と語ったのは妥当だ」と評価する。新市長には、「安全保障政策に責任を持つ国と協調し、職責を果たしてほしい」と、背中を押すことも忘れてはいない。
 読売新聞(6日)も、「地元の要望に最大限配慮しつつ、政府は、米軍普天間飛行場の辺野古移設を着実に進めていくことが大切である」と産経同様の見解。「北朝鮮情勢の緊迫化に対処した訓練の激化が背景にある」ことを喧伝しつつ、「地域住民の安全確保は最優先事項だ」として、関係自治体や住民に対する丁寧な説明や、騒音・環境対策に万全を期すことを求めている。
 ところで、「稲嶺市政は米軍再編交付金の受け取りを拒むなどしたため、地域経済は停滞している」という指摘には違和感を覚える。「受け取りを拒む」という認識は、読み調べた新聞の中では当紙のみ。御用新聞ならではの悪意に満ちた書きぶりではなく、極めて興味深い"異説"とでもしておこう。
 日本経済新聞(6日)は、「工事をごり押しするような姿勢は次のあつれきを生むだけだ。『県民の気持ちに寄り添う』という首相の言葉を実行し、着実に移設につなげていく必要がある」とする。前二紙よりもソフトな筆致ではあるが、結局は移設推進。

 

◆正鵠を射た朝日と無難な毎日

 朝日新聞(6日)は、「『これで移設が容認された』と考えるなら、単純すぎる」とする。その根拠として、当選した渡具知氏を支えた公明党県本部が、「辺野古移設反対」を掲げていることに加え、「米海兵隊の県外・国外移転」を氏との政策協定でうたった点などをあげている。「ならば、海兵隊が使う辺野古の基地は必要なくなるはずである。今後、この公約を果たすべくどう行動していくか。渡具知氏とともに公明党も問われる」と、迫っている。
 「市民の思いは一様ではない」としたうえで、首相がことあるごとに「最高裁の判決に従って(工事を)進めていきたい」と語ることを、「最高裁判決はあくまで、前知事による埋め立て承認を、翁長知事が取り消した処分を違法と判断したものだ。最高裁が辺野古移設を推進していると受け止められるような物言いは、明らかなミスリードだ」と、指摘する。正鵠を射た見解である。
 毎日新聞(6日)は、「選挙中、移設の賛否を明言しなかった渡具知氏の当選が、直ちに移設容認とはならないはずだ。...安倍政権は移設推進が『信任』されたと宣伝する姿勢は慎むべきだ」と、無難な指摘に終始している。

 

◆もちろん待ったをかける沖縄二紙

 琉球新報(5日)は、「渡具知氏は、建設容認を明言せず、問題を解決するために国と対話する姿勢を示しただけ...。...渡具知氏の当選をもって、他府県に移設できない新基地を名護市に押し付けることは許されない」と、断固たる姿勢を示す。新市長が、「岸本建男元市長が辺野古移設を受け入れた。私はそれを支持し容認した」と述べていることを取り上げ、「当時、岸本市長は受け入れに当たって、住民生活や自然環境への影響を抑えるための...7条件を提示した。条件が満たされなければ『移設容認を撤回する』と明言した。岸本氏が示した条件は満たされていない」として、新市長に熟慮を求めている。
 もちろん、経済活性化という公約の実現に念を押すことも怠ってはいない。
 沖縄タイムス(6日)は、米軍の選挙前の相次ぐトラブルから、「県は米軍に対策を申し入れ、県議会や市町村議会は事故発生のたびに飛行中止などの抗議決議を可決し、米軍に抗議した。年がら年中その繰り返しだ。こんな島は日本中どこを探してもない。そのような状態が戦後70年以上も続いているのである」と、慨嘆する。落涙を禁じ得ない。
 負担軽減を着実に進めたいと強調する首相に対しては、「日米特別行動委員会(SACO)で合意された米軍再編計画の中には、地元負担が強化される事例が少なくない。辺野古の新基地建設もそうだ。...普天間返還の条件として米軍による那覇空港第2滑走路使用も取りざたされている。SACO合意を検証し、問題点をまとめ、改善を求めるべきである」と、教示している。

 

◆厳しい地方紙の論調こそ凝縮した民意

 愛媛新聞(6日)は、「国はこれまで、選挙で賛成派が負ければ無視を決め込んできた。...その民意は一顧だにせず、工事を強行している。勝てば『民意を得た』と錦の御旗にするのは、ご都合主義が過ぎる」と一発。続けて「移設反対の稲嶺氏が市長に就任して以来、国は名護市への米軍再編交付金の支給を止めた。2018年度沖縄関係予算案も17年度に続いて大幅削減するなど...、補助金を楯に露骨な圧力を掛けている。...『兵糧攻め』や札束で頬をたたく傲慢さに憤りを禁じ得ない」との連打には胸がすく。そして、「権力をかさに力づくで従わせる国の姿勢は、地方自治を侵害し、民主主義を踏みにじるものであり、到底容認できない。沖縄に限らず、日本の政治のありようを問うべき重大な問題だ」との指摘には、心からの賛意を表する。
 「沖縄が希求する真の平和は基地撤去しかない」(福井新聞、7日)
 「地域振興は名護に限らず、過疎化や高齢化に悩む全国の自治体にとって重い課題だ。地域振興策との引き換えで米軍基地受け入れを迫るような強権的な手法を、政権は改めるべきである」(東京・中日新聞、6日)
 「移転の是非だけでなく、地域振興への期待、長期化する対立への疲労感、国政の焦点が地域に押し付けられることへの不満-。こうした思いが絡み合って選挙結果に表れたとみるべきではないか。政府には、この単純ではない民意にきちんと向き合ってほしい」(西日本新聞、6日)
 「浮かび上がるのは、米軍基地問題で市民が分断され、街づくりや行政サービスの議論が後回しにされている沖縄の自治体の姿だ。在日米軍専用施設の7割超を沖縄県に押しつけている日米安全保障体制のひずみであり、目をそらすわけにはいかない。...反対の声を踏みつぶすような強引な進め方をすれば、激しい反発が全国に広がることになろう」(南日本新聞、6日)
 地方紙の多くは、これらと同じ論調である。産経、読売、日経の論調は少数派の意見。尊大な態度にだまされてはいけない。
 沖縄県民、沖縄二紙、そして米軍基地問題に苦しむ人々に伝えたい。あなた方は決して孤独ではない。
「地方の眼力」なめんなよ

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