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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.03.14 
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 「公文書の書き換えは言語道断だ。事実を解明して国民の不信感を払拭してほしい」と厳しく批判した上で、「どういう意図、指揮命令で行われたか調査をし、国民に明らかにすることが喫緊の課題だ」と強調したのは、榊原経団連会長(共同通信社、3月13日)。2017年2月17日衆院予算委員会での「私や妻、事務所を含めて一切関わっていない。関係していたなら、首相も国会議員も辞める」との啖呵からすべては始まった、との見立てが正しいならば、いつまでタニマチを続ける気ですか、榊原さん。ついでに言えば、書き換えではなく改ざんと言うべき重大事案です。

◆国内承認に進むCPTTP

 さらに続けて氏は、「山積している課題はしっかりと審議してもらいたい」と訴えている。
 この山にさらに加わるのが、8日に参加11カ国の署名により協定文が確定したCPTTP(包括的および先進的なTPP、通称TPP11)の国内での承認手続きである。
 日本農業新聞(10日)は、「与党からは歓迎の声が聞かれる一方、野党からは農業分野の懸念を払拭できないまま発効を急ぐ政府の姿勢に疑問の声が上がった」として、「TPP11でも工業製品を海外に売るために農業が犠牲になる構図は変わらない。なぜこれほど急いでまとめる必要があったのか。農業を守る戦略が見えない」と言う、佐々木隆博・立憲民主党副代表の談を紹介している。

 

◆注目度は低いが危険度は高いCPTPP しかし拙速な審議の可能性大

 耳目を集めるテーマと重なったためかCPTPPを社説・論説などで取り上げた新聞は、日本農業新聞北海道新聞しんぶん赤旗(主張)の3紙ほどであった。全国5紙はいずれも取り上げていない。
 まず日本農業新聞(9日)は、「農産物市場を大幅開放する協定が署名で確定し、日本農業にとって歴史的な節目を迎える」と、その重い位置づけを強調する。続けて、「米国が抜けて求心力が一気に弱まる中、引っ張ったのが日本だ。修正・凍結箇所を絞り、まとめることを優先した。日本農業にとっては問題が大きく拙速な対応と言わざるを得ない。米国参加を前提としていた市場開放分を、他のTPP11参加国にみすみす与えることを意味するからだ」と、農業を軽んじる政府の姿勢を批判する。そして、「しっかり担保すべきは担保した」と胸を張る茂木担当相の言を受けて、政府に対してその根拠を示すことと、12カ国でのTPPに対する「重要品目の聖域確保を求めた国会決議が重い約束として存在する」ことを厳しい縛りと受け止め、国会での熟議を求めている。
 北海道新聞(9日)は、「この早期決着を主導したのが日本である。他国との合意を優先し、国内からの懸念の声を置き去りにしてきたことは否めない。とりわけ農業分野は、旧協定よりも国内に不利に働きかねない内容を含んでいる」と、指摘する。そして、国会には、新協定の問題点をしっかり検証し、国民が納得ゆくまで議論を尽くすことを求めている。
 さらに、米国復帰を前提としているが故に、旧協定のままの乳製品輸入枠、発動しにくい牛・豚肉の緊急輸入制限阻止(セーフガード)、実効性に疑問がある「見直し条項」などをあげ、「北海道にとって特に懸念されるのが酪農・畜産への影響だ」と、不安を募らせる。当然「政府には、国会の承認を求める前に、生産者の不安を解消する具体的な手だてを示す責任がある」と、厳しく迫る。
 8日夜、官邸前で行われた緊急抗議行動にかけつけた北海道農民連盟西原委員長も、「被害の半分は北海道だ。怒らない方がおかしい。おかしいことはおかしい、と声をあげたい」と、訴えた(しんぶん赤旗、10日)。
 しんぶん赤旗(12日)は、「例えばTPPで譲歩した乳製品の輸入枠はそのまま維持され、アメリカが抜けた分はオーストラリアやニュージーランドなどの輸出が拡大する恐れがあります。そうなればアメリカの畜産業界が不満を募らせ、トランプ政権が日本との2国間交渉などでいっそう圧力を強めてくるのも必至です」と、CPTTPの方が頓挫したTPP以上の打撃をもたらす可能性が高いことを危惧している。そして、「批准を許さない国民的な運動が急速に求められます」と、国民運動の必要性を強調する。
 作山巧氏(明治大学准教授)も毎日新聞(10日)において、「農業分野で譲歩が過ぎていると言える。...カナダやオーストラリア、ニュージーランドに過大に枠を与えすぎた状態が続く可能性があり、特に畜産分野は影響が大きくなると思われる」と、農業王国北海道の農業関係者の不安が杞憂ではないことを示唆している。
 それは、日本の食料主権を脅かすことをも意味している。それでよいのか、真剣に考えねばならないはず。
 にもかかわらず事態は拙速に進められようとしていることを、14日の日本農業新聞が伝えている。
 自民党は13日の会合で、「政府が国会提出するTPP11の承認案と関連法案を了承した。与党内手続きを経て、政府は月内に国会に提出する」という方針を確認した。また、森山裕TPP・日EU等経済協定対策本部長は、CPTTPの内容がTPPとほぼ変わらないとして、「国会における審議は、そう時間を要するものではないのではないか」と述べている。
 ただし、自民党の中からも「農家の理解を得られるよう政府に丁寧な説明を求める声が相次いだ」こと、立憲民主党農林幹部が「TPP11は別物なのだから審議時間をしっかり確保しなければならない」と、強調していることも紹介している。

 

◆世界農業遺産の示唆

 東京新聞(10日)は、静岡県の伝統的なわさび栽培と、徳島県西部の山間地で継承されている急傾斜地農耕を、国連食糧農業機関(FAO)が世界農業遺産に認定したことを伝えている。認定の基準は「生物多様性や土地・水管理の独自性が保たれ、優れた景観を形成していることなど」とされている。
 徳島県西部2市2町での取り組みについて徳島新聞社説(10日)は、"傾斜地農法は地域の宝だ"として取り上げている。そして「注目すべきは、つるぎ町の職員が、地域の風土に根差した農法の価値を再認識して、世界農業遺産の認定に向けた活動を始めたことだ。4市町は2014年に認定を目指し取り組みを開始。昨年3月に国内候補地になり、国内版の『日本農業遺産』にも認定された。最近は、定年退職者やUターン者ら新規就農の動きも活発になってきた。掘り起こした足元の遺産は地域の光となった。認定を、農業後継者の確保や観光客誘致など地域活性化の弾みにしたい」と、意気込んでいる。
 "農業の成長産業化"路線の信奉者は、時代錯誤の文字通り"遺産"でしかないものとして片付けるだろう。しかし、自然に赦されながらの営み、暮らしのありようとして、それらがわれわれに伝えようとしているものは大きくて重い。
 改ざん問題で国会審議の行方は見えにくい。農業問題やCPTTPの注目度は決して高くない。それをいいことに、わが国の農業や農業者に大いなるダメージを及ぼすこの協定の国会承認に向けて、有能な農水官僚はあらゆる策を弄するはず。
 「今回の一件で、公僕たる官僚が国民のしもべでないことはよく分かった」とは、日本農業新聞のコラム(13日)の一文。
 もちろん同感。ではだれのしもべなのか。安倍晋三と昭恵のしもべとしての人生だと分かれば、死にたくもなるよね。
 「地方の眼力」なめんなよ

(コラム「地方の眼力」の過去の記事)
カイザンはカイサンへ通ず18.03.07
現場は危機を踏み越える18.02.28
一歩の格差(18.02.21)
「民意を得た」のはだれだ(18.02.14)
"おしどり"イロイロ(18.02.07)
大統領ついでの首相 SDGsって知ってる(18.01.31)

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