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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.04.04 
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 CPTTPの署名式をめぐる報道について、「日本の新聞には一行も載っていなかったですもんね。…みんな、森友(学園)の方がTPP11より重大だと考えているのが日本の新聞のレベル」と新聞各社に八つ当たり。その発言で、式がおこなわれた国名をチリではなくペルーと間違うとともに、いずれの新聞も掲載していたことから、まともに読んでもいないという二重のポカを自らさらした財務相。名は体を表すのか、アホウダロウ。

◆農業問題の影薄し

 この男と同じレベルで嘆く気はない。しかし、官邸最高レベルのバカップルがもたらす災厄のせいでか、一般全国紙における農業問題の取り上げ方は少ないと言わざるを得ない。CPTTPにおいて最も影響を及ぼされるにもかかわらず。
 このような雰囲気に配慮したのか、「都道府県が開発した米の奨励品種は約250種類もある。このような米の多様性をもたらしたのは1952年に制定された種子法だ。...その種子法が、本日をもって廃止された。政府の規制改革推進会議で提案され、昨年の通常国会で廃止の法案が可決された。『共謀罪』の審議の陰で、米や麦の種子の法案についてはほとんど話題にならなかった。...長い歳月をかけて米の生産技術や文化は継承されてきた。そうして得られた多様性である。失いたくはない」と、毎日新聞のコラム(4月1日)が珍しく農業問題を取り上げている。
 しかし同紙が、どれほど種子法廃止の動きについて警鐘を鳴らしたのか、はなはだ疑問である。かく言う当コラムも、事の重大性に気づいたのは法案通過後。国民が関心を寄せていなくとも、将来にわたってその生活に重大な問題を引き起こす可能性の高い事項については、アピールし続けるのがジャーナリズムとアカデミズムの使命である。自省を込めて記しておく。

 

◆「地域の農林水産業振興促進議員連盟」ですか

 これほど重要な法案を通す側に立っていた政権与党の姿勢は、もっと追及されるべきであろう。ところが、加害者側にいた議員たちが、今になって他人事然として農業の重要性をしたり顔で語るのを聞くにつけ、見るにつけ、鼻白む思いを禁じ得ない。
 日本農業新聞(3月16日)によれば、自民党の国会議員有志でつくる「地域の農林水産業振興促進議員連盟」が15日発足。会長に竹下亘氏、顧問に森山裕氏。中山間地域・離島対策、農業従事者の高齢化対策、農協・漁協・森林組合の役割評価と活性化策などの検討、市場原理や規制改革に偏った農政の軌道修正などに取り組む模様だ。
 取り上げられている会長の発言を列挙しておく。
「経済原理だけで全てを割り切るのは学者の理論で政治ではない」
「何が何でも田舎を守っていこう」
「何が何でも田舎を守るという思いを共有しながらしっかりと歩いていこう。それが自民党の大きな方向の一つだ」
「田舎が壊れたら都会は簡単に壊れる。日本は都市国家じゃない。都会と田舎がしっかりして初めて力を発揮できる国家だ」
「地域社会を支えているのは誰か。それは農林水産業の従事者であると同時に、農協、漁協、森林組合の果たしてきた役割も大きい」

 
 
◆ぬぐい去れない不信の念

 農業協同組合新聞(3月30日号)も竹下氏へのインタビュー記事を掲載している。要点は次の五点。
(1)農村・農業という枠だけでなく、広く「田舎」として捉え、それを大切にすべき。
(2)規制改革推進会議のように、農村の暮らしを知らない委員が経済合理主義だけで農業・農村政策を論ずるのは疑問。
(3)食料の安全保障は、特に重要。わが国の食料自給率38%は危機的レベルである。
(4)生産面だけでなく、農協や森林組合、町村の役場がその地域で果たしている役割は大きい。農協や森林組合、漁協があるから田舎とその文化が守られている。農林水産業を守ることが田舎を守ること。
(5)農協や森林組合、漁協は本業以外に重要な役割をもっている。総合事業の農協はあくまで維持。全面的に協力する。
 しかと読ませていただいた。日本農業新聞が紹介した発言ともども、お忘れなく。しかし、どこまで信じれば良いのだろうか。国対委員長当時、記者から「前川氏の証人喚問が必要ないと考える理由は何か」と問われて、「必要ないということが、その理由だ」と答える場面を思い出す。そして、これまで農業・農協問題に物申せる機会は数多あったはず。やはり"なぜ今"の感あり。

 

◆信じて欲しけりゃこれやって

 会長はじめ議連のメンバーが、自分たちを信じてほしいと願うのであれば、覆水を盆に返すことだ。
 幸いにも氏へのインタビュー掲載号に、盆に返すべき重大案件が二つ載っている。
 一つは、CPTTPの協定案とTPP整備法の改正が国会に提出されたこと。「発効すれば輸入急増の懸念もあり、再構築に向け改革の取り組みを進めてきた農業・農村の現場を直撃することもありえる。国会で改めてしっかり審議する必要がある」との指摘。だとすれば、田舎を大切にする方々には到底認められないはず。取り下げか否決で決まり。
 もう一つは、廃止された種子法問題。「種子行政に疑問を持つ、JAや生協、消費者組織等は、平成29年、『日本の種子を守る会』をつくり、各都道府県の条例化を促すとともに、議員立法による新たな法制化に向けた運動を展開している」とのこと。この運動と連帯して、議員立法による新たな法制化や、異例ではあるが種子法復活法案の提出などで決まり。
 できないとは言わせない。あったことを無かったことにすることがお得意の皆様ですから。
 さらに、週刊新潮(4月5日号)に、政権を仰ぎ見ながら緻密な計算でトップに上り詰めた三役人の一人として紹介された、事務方トップの解任。なぜなら、種子法廃止をはじめ売国的農業・農協改革に鋭意取り組んできたキーパーソンですから。

 
 
◆自民党ありきではない議論からはじめよ

 日本農業新聞(3月29日)によれば、全国農政連と全国農政協議会は28日の通常総会で、来年夏の参院選に、農業やJAグループに理解ある候補者を一人でも多く国会に送り出すことや、これまでに行った政党公開質問の回答内容に対する実現状況などの検証・働き掛けをすることなどを確認した。「農業・農協組織の仲間や理解者を一人でも多く国政へ送り出すことが極めて重要」との、飛田会長談話もある。毎度毎度、この気持ちで推薦してきた結果がこの始末ですか。
 今回は、前述した課題の遂行状況も評価対象に加え、自民党ありきではない議論からはじめるべきである。
 「地方の眼力」なめんなよ

※森山裕氏の「裕」の字は、ネに谷です。

 

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