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コラム:グローバルとローカル:世界は今

2018.04.06 
(077)本当は怖い「お客様の(潜在)ニーズ」一覧へ

 様々な分野で用いられる用語のうち、今やほとんど一般名詞化した用語として「ニーズ(needs)」というものがある。とくに、「顧客ニーズ」あるいは「お客様のニーズ」という形でマーケティングを中心にした分野ではよく用いられる。

 経営学やマーケティングの授業であれば、「ニーズ」と「ウォンツ(wants)」の違いであるとか、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」などという分類がなされている。
 簡単に違いを述べれば、単純に何かが欲しいという場合には「ウォンツ」ということになる。例えば、「ご飯が食べたい」、これは「ウォンツ」であるが、その背景には空腹という問題がある。空腹を満たすことが本当の意味での目的、つまり「ニーズ」であり、それを満たすための手段として「ご飯を食べたい」という「ウォンツ」が生じると考える。単純化すれば、「何かをしたい」のが「ニーズ」であり、具体的に「これ」と特定可能な場合には「ウォンツ」ということになる。
 一方、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の最大の違いは、顧客自身、気が付いているか否かである。「ニーズ」の背景には顧客自身が明らかに気付いているものと、本当は不足しているにもかかわらず、顧客自身は気付いていない「ニーズ」が水面下に隠れている氷山の塊のように存在することが多い。
 したがって、市場開拓とはこの「潜在ニーズ」を掘り起こすことになる・・・というのが一般的なマーケティングの考え方である。

  ※  ※  ※

 さて、「ニーズ」と「ウォンツ」や「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の詳細の違いは無視した上で、戦略論の視点からこうした考えを見るとどうなるか。実は、「潜在ニーズ」は【「あえて掘り起こさない方が良い」】ことも多い。これはマーケティングの教科書とは真っ向から対立するかもしれないが、組織や企業、そして何より家族のことを考えた場合には慎重に対応すべき問題である。
 例えば、こう考えてみよう。
 「寿司」は、日本の代表的な食べ物である。その美味しさは言うまでもない。それでもわずか30年ほど前までは、欧米人の中では「生の魚」を食べるなど信じられないという人が多く、ニューヨークの日本食レストランや「SUSHI」バーにいる顧客の多くは現地の日本人か、最近の「昆虫食」を試すような形でおっかなびっくり体験してみようとしている米国人が多かったのではないだろうか。
 今や「SUSHI」は完全にグローバル化して、世界中で食べられている。本家の日本ではあり得ないようなカラフルでユニークな「SUSHI」が各地で登場し、驚くべき進化と普及を成し遂げた一方、品質の劣化やまがい物も数多く登場している。より冷めた表現を用いれば、恐らく世界中の「SUSHI」関連ビジネスで最も利益を出しているのは、本家の日本ではない。膨大な需要に支えられ、入手が難しいネタも出始めている。その結果、むしろ、日本の伝統的な「寿司」そのものは、もしかしたら近い将来、希少価値どころか、絶滅に瀕する危険性すら生まれるかもしれない。
 新鮮な「生の魚」を酢飯で握り、わさびを効かせて少し醤油を付けて食べる・・・というのは、極東の島国の、アルファベットを使わない民族の、おかしな食習慣として、両肩をすぼめられるような形にしておいた方が、実は良かったのかもしれない。そうすれば、我々は奇異な目で見られようとも、マグロやエビ、タコを始めとした新鮮な魚介類をいつでも好きなだけ食べるという「密かな楽しみ」を長期にわたり享受し続けられたのかもしれない。

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 日本の良いところを世界中の人々に理解してもらうことは重要であるが、世界中が同じことを始めた場合、いずれ、資源の枯渇という現実に直面することになる。売れる仕組みを作ることは確かに大事であるが、実はより重要なことはその仕組みの持続性である。触れたものが全て「金」になるというギリシャ神話のミダース王の話ではないが、どこかの段階で「あえて潜在ニーズを掘り起こさない」判断を戦略的に行うことが必要なことはどの分野でも同じであろう。
 さて、こうした食材、日本にはどの位、残っているのだろうか。

 

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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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